第140話 溺愛系お姉ちゃん
今日は皆で買い物をしにリーズフィールドの街に出ている。
ノワールとミミは新しく買った服を着て大喜びだ。
「わぁ、綺麗なドレスです。アキ様、良いんですか? 私にこんな高価な服を」
少し遠慮がちにノワールが言う。
彼女は奴隷として扱われていたことにより自己肯定感が低い気がする。少しでも過去の傷を癒して欲しいと願うところだ。
「良いんだよ。皆で稼いだ報奨金だから。ノワールはメイドを頑張ってくれてるからご褒美だぞ」
「アキ様……」
熱のこもった瞳でノワールが俺を見つめる。最近、彼女の目が大人びている気がして戸惑うのだが。
「えっと、ノワールは美人なんだから、もっと自信を持てよ。たまにはおめかしするのも必要だろ」
「はい、アキ様に気に入っていただけるよう頑張ります」
「俺にだけじゃなく、自分の為にも生きていいんだぞ」
「私はアキ様に全てを捧げると誓いました」
ズイズイズイ――
凄い目力のノワールがグイグイ来る。
「はーい、そこまでですよー」
途中でアリアが間に入った。ノワールを抱きしめると、俺から離すようにした。
「おませなノワールちゃんはメッだからね」
「アリア様、止めても無駄ですよ。アキ様の
「むぅぅ、この子ってば、やっぱり小さいのに女の顔してるわね」
二人が睨み合う。喧嘩しているようでいて、姉妹みたいで微笑ましい気もするが。
とりあえずアリアを止めてみた。
「アリアお姉さん、相手は子供だから」
「ふーん、どうせ私は子供に嫉妬する女ですよーだ」
「そこまでは言ってないのに」
「アキちゃんは後でお仕置きぃー♡」
「はいはい」
何故かお仕置きされることになってしまった。
「お兄ちゃん、ミミのもかわいいの」
クルクルクル――
ミミは無邪気に回ってスカートをヒラヒラさせている。
「ミミちゃんも可愛いね」
「えへへー」
少しませたノワールと違って、ミミは子供っぽいようだ。明るく笑う仕草が微笑ましい。
あのグロスフォードの奴隷収容所で瀕死だったのを思うと、よくそ元気になってくれたと嬉しさが込み上げてくる。
(良かった。二人が楽しそうで。もう虐待で泣く悲惨な子供は見たくないからな。せめて……俺が統治するグロスフォードくらいは、子供が笑って暮らせる世界にしたいな……)
「よし、レイティアたちも服を買おうか?」
何か言いたそうにしているレイティアに声をかけてみた。
「ホントっ! じゃあアキ君が選んでよ。可愛いのにするんだぞっ! あっ、でもエッチなのはダメだからね」
「えーと、無難なのにしとくよ」
「無難じゃダメだぞ! うんと可愛いのだよ! こう、アキ君がエッチな気持ちになっちゃうような」
「おい、さっきエッチなのはダメって言っただろ」
ちょっと矛盾しているレイティアの服を探すことにした。女心は複雑だ。
「アキちゃん♡」
もちろんアリアも、期待を込めた目で俺を見る。
「アリアお姉さんはセクシーなのが良いかな」
「うふふっ♡ アキちゃんのエッチ♡」
「アリアお姉さんに似合うと思って」
「今度、これ着てエッチしちゃうからね♡」
「それは自重してください」
アリアの魅力が更に増し、これ以上は我慢できそうにないのだが。
「シーラのも選んでやるよ」
さっきからソワソワしているシーラにも声をかける。
「ふふん、アタシは大人の女の魅力を引き出す服にしなさいよね」
「シーラちゃんに似合う可愛いのにしとくよ」
「こ、こらぁー! 子供扱いすんなぁ!」
お姉さんぶるシーラには、ヒラヒラのフリル付き乙女チックな服を選んでおいた。
ササッ! サササッ!
さっきからマチルダの様子がおかしい。いや、最近は特におかしいのだ。
「おい、マチルダ、さり気なく俺の背後に立つなよ。
「はあ? 狙ってないわよ! 平民男なんか……って、貴族になったのよね」
「どっちでも良いけど。服が欲しいなら欲しいって言えよ」
「はぁあああ!? 私は皇女よ! 服なんて腐るほど持ってますけど」
「なら要らないか」
ズゥゥゥゥーン!
マチルダが死にそうなくらい落ち込んだ。
「えっと……やっぱり服を買おうか? 俺が選ぶから」
「しょ、しょうがないわね! 平民男に選ばせてあげますわ!」
「お、おう……」
急に元気になった。やっぱり女心は分からない。
最近ずっと部屋にこもっていたアルテナも、今日は皆と一緒だ。因みに俺が選んだ服は、ゴスロリっぽいショール付きドレスだが。
何だかグッと魔王っぽくなった。
「ふひひっ、アキしゃん、ありがとです」
「アルテナも頑張ってくれたからな」
「わわ、私も夜のご褒美が♡ その……ごにょごにょ」
アルテナの顔が妖しくなると、プリプリと口を尖らせたアリアが横にやってきて捕まえた。
アリアさん、あっちへこっちへと忙しそうだ。
「さて、じゃあ帰ろうか」
ガシッ!
ジールが俺の肩を掴んだ。力が入っていて少し痛い。
「おい貴様、何か忘れてないか?」
「特に忘れていないが」
「くっ、やはり貴様は鬼畜だな……」
「冗談だ。ジールのも選んでやろう」
「なにっ! 本当か!」
「ああ、可愛いパンツをな」
「ぐっはぁああっ!」
こうして俺は、ジールのパンツを選ぶ羽目になってしまった。ジールを恥ずかしがらせようとしたのに、逆に俺が羞恥プレイになってしまうとは。
「さて、今度こそ帰ろうか――」
「これ! わらわを愚弄する気か!」
「待たぬか! 不届き者が!」
二人をスルーして帰ろうとする俺に、エキドナとヴリドラがご立腹だ。
「あれっ? お二人は魔力で服を生成できるんですよね?」
「そういう意味ではないのじゃ! この男は……」
「まったく、アキは女心を分かっておらぬ」
浮世離れした竜王二人に女心を教育されてしまう。どうしたものか。
こうして俺は、二人の服も選んでから、全員一緒に屋敷へと帰るのだった。
◆ ◇ ◆
屋敷に戻った俺は、皆から熱烈な愛情表現を受けることになる。もうこれが日課だ。
「アキくぅ~ん♡ ぎゅぅ~♡」
ミミが近くに居るのにレイティアが俺の膝に乗ってきた。ちょっと教育に悪いお姉ちゃんだ。
「レイティア、子供が見てるから少し控えようか?」
「な、何だよぉ。それじゃボクが欲求不満みたいじゃないか」
「レイティアはいつも欲求不満だろ」
「なんだとぉー! あと、お姉ちゃんだぞ」
レイティアがジタバタしていると、真似をしたミミが俺の上に乗ってきた。
「ミミも抱っこなのぉー!」
「ぎゅーっ! ミミちゃんは可愛いから特別な」
「わーい、ぎゅー!」
そしてノワールも抱き着いてくる。
「アキ様、私もぎゅー♡」
ガシッ!
やっぱりアリアに止められた。抱きかかえられたノワールが引きはがされる。
「アリア様ぁ、酷いです。私だけ」
「ノワールちゃんは下心がありそうだからダメ」
「違います。純粋にアキ様に全てを捧げたいだけです」
「余計にダメ! ダメっだらダメぇええ!」
「ふえぇええぇ~ん」
二人を見ていると、つい笑いが込み上げてしまう。
「ふふっ」
「ちょっと、アキちゃん! 何で笑うの?」
「そうですよ、アキ様。私は本気です」
「何だか二人は似た者同士だなって思って。姉妹みたいだぞ」
俺の指摘で二人が顔を見合わせる。
「わ、私はノワールちゃんみたいに魔性のおませ少女じゃありません」
「私もアリア様みたいにヤンデレ発情女じゃないです」
「何ですってぇ!」
「ホントのことです」
「「むぅううううぅぅ!」」
やっぱり姉妹みたいだ。
「ふふっ、今日も平和だぜ」
俺は平和の有難みをしみじみと感じた。
すぐにそれはヤンデレお姉さんに覆されるのだが。
「アぁ~キぃ~ちゃぁ~ん♡ 今日という今日は許さないんだからぁ♡ もうっ、いつまで待たせたら気が済むの? もう限界っ♡ もう待てないんだからぁ♡」
禁断症状が限界突破したのか、アリアがハート目になって迫ってきた。今度こそヤバい感じだ。
「待って、アリアお姉さん! 先ずデートを三回してから心の準備を――」
「もうじれったいのっ♡ いつまで待たせるのよぉ♡ それ焦らしプレイなの? わざとやってるの? ねえ? ねえ?」
アリアの目がマジだ。久しぶりにヤンデレ目になっている。
「ねえ? アキちゃんって普段どうしてるの? 他の子としてるの? 自分でしてるの? 何してるの? あやしい……」
「ま、待って!」
「もう待てない! 待たないからぁ♡」
ぎゅぅぅぅぅ~っ!
アリアの強烈ハグを受けたところで、反対側からレイティアに退路を断たれてしまう。
「あ、あのっ♡ アキ君♡ ボク……私も限界かも♡」
「おい、レイティア! マズいって!」
最後の希望でシーラに助けを求める。
「シーラ! 助けてくれ」
「アタシも……あんたの焦らしプレイには限界だったのよね♡」
「は?」
「つ、つまり、アキ! あんた
「わぁああああああ!」
こうして俺は、お姉さんたちに抱えられ寝室へと連行された。
「どれ、わらわも行くとするかの」
「我も行くぞ。夜伽の時ぞ」
何故かクロとシロもついてきた。
「よし、側室の私も出番だな」
誰も出番ではないのに、ジールまでやる気になっている。
「フヒッ、面白いのが見られそうでしゅ♡」
こっそりアルテナもついてくるではないか。
「わ、私も帝国から使命を受けて来ているのです。もう覚悟を決めるしかありませんわ!」
何でマチルダまでやる気なんだ。彼女は俺を嫌っていたはずなのに。
どうしてこうなった!?
こんな非常事態なのに、ノワールはミミを目隠ししてくれている。よくできた娘だ。
「はーい、ミミちゃんは見ちゃダメですよ」
「ノワールちゃん、なんにも見えないの」
「アキ様……私も大きくなったら
「ノワールちゃん? ちょうあいって何なの?」
「ミミちゃんも大きくなったらアキさまに愛してもらえますよ」
「わかったの。大きくなるの」
(うぉおおおおおおーい! 何で二人まで寵愛を受ける前提なんだよ! 俺、どうなっちゃうんだぁああああ!)
バタンッ!
俺の心の叫びも抵抗も空しく、寝室の扉は閉められた。
欲求不満お姉さんたちによる エチエチタイムの始まりだ。
「あっああああああぁぁぁぁー!」
――――――――
――――――
――――
こうして俺は、朝までみっちり溺愛されるのだった。
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