長年片思いしてきた幼馴染に振られたら隣の席のダウナー美少女と付き合うことになった件
水垣するめ
第1話
「好きだ! 俺と付き合ってくれ!」
時刻は放課後。
俺、
相手は俺が長年想いを寄せてきた幼馴染の
愛華はまごうことなき美少女だ。
父親譲りに綺麗な金髪に、整った容姿。
幼馴染であった俺が愛華のことを好きにならないわけがなく、俺は小学校の頃からずっと愛華のことが好きだった。
今まではずっと告白する勇気が出なかったが、今日覚悟を決めて俺は愛華に告白した。
「はあ? 嫌に決まってるでしょ? 自分の顔見直してきたら? 本当に気持ち悪い……」
しかし、愛華の返事は拒絶だった。
それどころか罵倒までされた。
今日この日まで、俺はずっと愛華のために努力を重ねていた。
休日に呼び出されたらすぐに出向いて荷物持ちでも何でもしたし、直せと言われたことはすぐに直すように心がけていた。
見た目が野暮ったいと言われたから自分を磨いたし、馬鹿な男は嫌いと言われたから勉強して成績を上げたし、たくましい男が好きだと言われたから毎日ランニングと筋トレをして鍛えた。
小学校から高校まで、俺は愛華に尽くしてきたと言っても過言ではないだろう。
「そ、っか……そうだよな」
俺の口から出てきたのは、意外にもそんな言葉だった。
こんなにバッサリと切り捨てられ、挙げ句の果てには罵倒までされるとは思っていなかった。
けど愛華に尽くしたとは思っているが、そこまでしたんだから俺と付き合え、なんて口が裂けても言わないし、思ってもいない。
多分、もうここまで努力して振られるならしょうがない、と思っているのだろう。
振られたというのに、不思議とスッキリした気分だった。
「え?」
俺からもっと悪あがきの言葉が出てくると思ったのか、愛華は不思議そうな声を出した。
「確かに、俺じゃ分不相応だよな。悪い。これからは話しかけないようにするよ」
「ちょ、ちょっと」
「まあ、俺ってブサイクな方って愛華もずっと言ってたし、昔から何やっても要領が悪いし、そんな奴に好意を寄せられる方が不快だったよな。ごめん」
「ち、ちが……それは言葉の綾で」
「安心してくれ。もう絶対に関わったりしない。できるだけ目の前にも現れないようにするから」
「ま、待っ──」
「それじゃあ」
俺は振り返って教室から出る。
後ろから愛華が俺を引き止めようとしている声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。
だって、愛華は滅多に俺に話しかけたりしないのだから。
俺は振り向くことなく廊下を歩いていった。
そして翌日。
「はあ……」
俺はため息をつきながら登校してきた。
まだ昨日フラれたことを引きずっているのだ。
確かにフラれてスッキリしたのは確かだ。
しかしずっと愛華のために生きてきたので、愛華にフラれたというのはそれなりにショックなのだ。
「どうするかな……」
俺は暇になってため息をついた。
いつもなら朝はこれから愛華の分の課題をやったりする時間なのだが、もう愛華には接触しないことにしたので、課題をやる必要はない。
特にすることもないので俺は机に突っ伏して寝た。
「ねえ」
隣の席から話かけられた。
俺は首を動かしてそちらを見る。
俺に話しかけてきたのは隣の席の
あちらも同じように机にうつ伏せになって、首だけをこちらに向けていた。
「なんかあったの?」
彼女はは何処か気だるげそうな声で俺に質問してきた。
雨夜はものぐさな性格で、こんな風にずっと机にうつ伏せになっている。
しかし、その性格から話しやすいのと、ダウナーな黒髪美少女ということも相まって、男子からは愛華と同じくらい人気があった。
今まではあまり話す機会がなかったので珍しいな、と思いながら俺は返事をした。
「愛華に昨日告白して、フラれた」
「あらまあ」
雨夜は感情のこもっていないように聞こえる相槌を打った。
感情がこもっていない、と言うと短所のように聞こえるがこれは雨夜のいいところでもある。
失恋はこんな風にフラットに聞いてもらった方が俺としてはありがたい。
「またアタックはするの?」
「いや、もう愛華のことはもう諦めるよ。俺が近くにいても多分不快な思いにさせるだけだし」
俺がそう言った瞬間、教室が騒がしくなった。
何かおかしなことでも言っただろうか?
「え、なんで? あんなに頑張ってたのに」
「だって、ほら俺って顔も良くないし、要領も悪いからさ。これ以上愛華の近くにいるのはちょっと駄目だと思うんだ」
「は?」
俺がそう言うと、雨夜は心底不思議そうに首を捻った。
「何言ってんの?」
素で聞き返された。
俺は何もおかしなことを言っていないと思うんだが。
「え? 俺ってブサイクだし、鈍臭いだろ?」
「……」
俺がそう言うと雨夜はちょっと呆れたような顔で俺を見ていた。
「……まあ、本人がそう思ってるならそれでいいや」
そして投げやりにそう言った。
「なんだよ」
何か思わせぶりな言葉だったので、俺は聞き返す。
しかし雨夜は手を振った。
「いーのいーの。……本人がそう思ってるならそっちの方がやりやすいから」
「ん? なんか言ったか?」
途中から急に小声になったので俺は聞き取ることができなかった。
「なんでもなーい」
雨夜は気だるげに返事をする。
そしてもう話す用事はないとまた机に突っ伏してしまったので、俺は深く聞くこともできなかった。
休み時間になった。
俺が愛華にフラれたことはもうすでに学校中に広まっているようだった。
なぜそれが分かったのかというと、一年生から三年生まで、色んな学年の生徒が教室までやってきて俺のことを見ていたからだ。
皆廊下から俺のことを見ている。
見物している生徒は女子が圧倒的に多いが、俺にはその理由が分かる。
俺は今までずっと愛華に付きっきりだったので、きっと俺は学校中で美少女にずっと張り付いているストーカーとして有名だったのだ。
そのため女子たちは今度は自分が被害に遭わないようにそのストーカーを確認しにきてると思われる。
ただ名誉のために言わせてもらうなら、俺は愛華の命令した時しか側にいなかったし、それ以外は付き纏ったりしないように離れていた。
でもまあ、俺は確かにブサイクだし、そういう目で見られても仕方がないか……。
ただ見物している女子たちの、「あれが王子……!」とか「かっこいい……!」とか「やっとフリーに」とかは何のことを話しているのだろうか?
俺はトイレに行こうと机から立ち上がり、廊下に出ようとした。
その瞬間、悲鳴が上がる。
ストーカーの俺に近づかれて気持ち悪かったのだろう。
ちょっと傷つくが、まあしょうがないよな、と無理やり納得させる。
しかしトイレには行きたいので、俺は扉の前を通ろうとした。
すると扉の近くにいた女子が俺が近づいたことが気持ち悪かったのか、驚いて後ずさる。
そして足をもつれさせ、後ろから倒れた。
「えっ?」
「っ! 危ない!」
俺は咄嗟に彼女を受け止める。
「大丈夫?」
「ひゃ、ひゃい……!」
俺が受け止めた女子生徒は顔を真っ赤にしていた。
俺の顔が近くにあって今にも怒りで爆発しそうなのだろう。
「あっ、ごめん! 気持ち悪いよな!」
「い、いや私は……」
俺は慌てて彼女から顔を離す。
距離を取ると彼女は何だか落ち込んでいたが、それは至近距離でブサイクを見たからだろう。
「じゃあこれで」
俺は一刻も彼女の視界から消えようとする。
しかし、他の女子生徒から呼び止められた。
「あ、相羽くん!」
「ん?」
振り返ると、何人かの女子生徒が固まって俺の前に立っていた。
「相羽くん、天童さんを諦めるって本当ですか!?」
「ああ、もう愛華のことは諦めるつもりだ」
俺がそう言うと、彼女たちはなぜか嬉しそうに喜んだ。
「噂は本当だったって!」
「やった!」
「これで私たちもチャンスができる!」
俺は予想とは違う反応に首を捻った。
もっと「私たちにも近づかないでほしい」とか言われると思ったのだが……。
少し不思議だったが、俺は特に気にすることなくトイレへと向かった。
その日から、俺は女子生徒によく話しかけられるようになった。
それは隣の席の雨夜も一緒だった。
今まではずっと休み時間は寝ていて俺に話しかけてくる機会は少なかったが、最近はよく俺に話しかけてくるので、俺は休み時間は大抵雨夜と話していた。
愛華に比べて、雨夜は何だか話しやすかったからだ。
愛華に何か話しかけてもスマホを触っていて返事すらないことが多かったので、雨夜と言葉を交わして会話するのは楽しかった。
加えて俺と雨夜は趣味も一緒だった。
あまりにも気が合うため、一週間と言う短い間で俺たちは親友のように名前で呼び合うほどの関係になった。
そして愛華にフラれてから二週間が立った頃。
「空」
甘露は気だるげに俺に質問してきた。
「なんだ?」
「私と付き合わない?」
「はあ?」
俺はいきなりそんなことを言われたので動揺した。
「何で急にそんなこと言い出したんだよ」
「ほら、私モテるじゃん」
「そうだな。全く、顔が良いやつは羨ましい」
「ずっと自分を磨いてきた人間が不細工なわけ無いでしょ……」
甘露は何か言いたそうに俺を見つめていたが、俺には聞こえなかった。
甘露はため息を吐くと続きを話し始める。
「私完璧美少女だから話しかけやすいし、だから告白してくる男子も多いんだよね。でも、ぶっちゃけこれ以上告白されるのも面倒だから、彼氏を作ろうと思うんだ」
「それなら俺以外の方がいいだろ」
俺はブサイクだし、甘露の隣にいても甘露の評判が下がるだけだ。
どうせいつもの冗談だろう、と思い俺は甘露の誘いを断る。
「嫌。空くらいがいい」
しかし甘露は食い下がった。
「ダメだ。俺が彼氏だと甘露に評判に傷がつく」
「ねえー、良いでしょー!」
「うおっ! 離せ!」
甘露が俺の制服の裾を引っ張ってきた。
俺は制服が伸びるので何とか剥がそうとするが、なかなか剥がせない。
「いつもは面倒くさがりのくせに、なんでこんな時だけ力が強いんだ……!」
「私は自分のためなら力は出し惜しみしない……!」
なんて面倒臭いやつなんだ!
「ねえ、付き合うふりでいいから! お願い!」
「分かった! 制服が破れるから離せ!」
今にも俺の制服が破れそうだったので、つい甘露の言葉を承諾してしまった。
「やったー!」
「どうなっても知らないぞ……」
そして、今日から俺は甘露と付き合うことになった。
放課後。
「空、一緒に帰ろう」
「……分かった」
俺は席から立ち上がる。
甘露も席から立ち上がると、俺の手に指を絡めてきた。
「お、おい!」
「恋人なんだからこれくらい当然だって」
「そんなわけないだろ!」
俺は甘露の手を振り解く。
「あー! 何すんの!」
俺と甘露がそんな風に騒ぎながら教室を出ると、誰かに話しかけられた。
「ねえ」
俺は振り返って、驚いた。
そこには愛華が立っていたからだ。
しかも明らかに不機嫌そうな目で俺を睨んでいる。
「えっと……」
「何で謝ってこないの」
俺が質問しようとすると愛華が言葉を遮って質問してくる。
「ちょっと頭を冷やしたらすぐに戻ってくると思ってたのに、何で二週間も私のとこに来ないわけ?」
「えっと……」
「確かに、私も言いすぎたわ。それは悪いと思ってる。だから──」
「いや、愛華。もう俺は愛華のところには行かないぞ?」
「え?」
愛華が素っ頓狂な声をあげる。
「だってもうフラれたんだから、これ以上付き纏うわけには行かないって。これ以上は本当にストーカーになるし」
「で、でも……」
「それにさ、俺って見た目も悪いし、そんな奴が隣にいたら不快だろ? 愛華も言ってただろ。俺みたいなブサイクが隣にいるのなんて不快だって」
「そ、それは──」
「愛華に言われて初めて気付いたんだ。俺みたいな奴は愛華に相応しくないって。だから、俺は愛華にもう一生関わったりしないと誓うし、愛華もその方がいいだろ?」
「ぁ……」
愛華はなぜか取り返しのつかないことをしてしまった子供のような表情で俺を見ていた。
どうしたのだろうか。
愛華はこれが望みだと思っていたのだが。
「それに、今は私という彼女がいるし」
その時、甘露が話に割り込んできた。
今までは甘露に気がついていなかったのか、愛華は甘露に驚いていた。
「は、はぁ!? 彼女!?」
「本当だよ? 今日恋人になったし」
そう言って甘露がまた俺の手に指を絡めてきた。
今度はぎゅっと思い切り力が込められていて、振り解けない。
「な、何言ってんの! 空に彼女なんかできるわけないし! きっと空が彼女のふりをしてもらってるだけでしょ! そうに決まってる!」
まずい。バレてる。
俺から彼女のふりを頼んだわけではないが、俺たちが恋人でないことは見透かされているようだ。
どうやって誤魔化そう。
俺がそう考えていると甘露に「こっち向いて」と言われ、顔を掴まれて無理やり横を向かされた。
そして──甘露がいきなりキスをしてきた。
辺りが静寂に包まれた。
俺からゆっくりと顔を離した甘露が、愛華へと笑みを向ける。
「これで信じた?」
「そんな……うそ……」
愛華は絶望したような表情になった。
愛華は俺に震える手で指を伸ばそうとして、がくりと肩を落とした。
そしてくるりと振り返ると俯いて去って行った。
「な、何でキスなんか……」
やっと衝撃から回復した俺は甘露に質問する。
「それは……本当に空が好きだったって、こと。恋人のフリなんかじゃなくて」
甘露はしてやったり、という顔で笑う。
「何で俺なんか……」
甘露はそう言う俺を悩ましげに見る。
「うーん……この勘違いはしてもらってた方が良さそうだし直さないで置いとこ……」
「え?」
甘露の声が小さいので聞き取れなかった。
「なんでもない。それで、どうなの?」
甘露が質問してくる。
これがどういう質問なのかは俺でも分かる。
「言っとくけど空が好きなのは私くらいだよ? そのうえで、私と本当に恋人になる? それともならない?」
俺はずっと自分に価値が無いと思っていた。
愛華にはそう言われ続けてきたからだ。
しかし甘露と仲良くなって、こんな俺でも価値があるのかもしれない、と思うようになった。
だから──
「これから、よろしく頼む」
俺は甘露の手を取った。
「よろしくね、空」
甘露は嬉しそうに笑った。
長年片思いしてきた幼馴染に振られたら隣の席のダウナー美少女と付き合うことになった件 水垣するめ @minagaki
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