白銀の狼公爵は、妻子に耳をもふられる
時は経ち、グレンとルイスの第一子が誕生した。
母親譲りの金の髪に、父親譲りの青い瞳。それから、狼のような耳と尻尾の生えた、女の子だった。
名前は、エリーゼ。エリーゼ・アルバーン。
エリーゼには、グレンとルイスだけでなく、それぞれの家族もメロメロで。
二人のいとし子は、たくさんの愛情を受けてすくすくと育っていった。
仕事を終えて帰宅したグレンは、使用人に妻子の居場所を聞き、まっすぐにリビングへ向かった。
今はアルバーン家の別邸を、家族三人で使っている。
それぞれの私室に、夫婦の寝室に、子供部屋に、客人用の空間に……と多くの部屋があるが、彼らはプライベートな時間をリビングで過ごすことが多い。
「ただいま。ルイス、エリィ」
「ぱぱ、ぱーぱ」
「おかえりなさい、グレン様」
グレンが、まだ幼い愛娘をひょいと抱き上げる。
エリィとは、エリーゼの愛称だ。
1歳ほどのエリーゼは、父に抱っこされてきゃっきゃと笑った。
最近ではよたよたと立ったり、パパ、ママ、と話したりもできるようになっており、グレンは娘が可愛くて可愛くて仕方がなかった。
「みみ! みみ、ぱぱ」
「ああ。耳が触りたいんだね。いいよ」
父に抱かれるエリーゼが、みみ、と言いながら上に向かって手を伸ばす。
頭のあたりまで持ち上げてやると、エリーゼはグレンの耳に触れた。
まだ幼いがゆえに、触り方に遠慮がない。正直、痛い。グレンには見えないが、おそらく変形している。
しかし愛娘のやることだから、まあいいかと思えた。
可愛いは全てをなぎ倒していく。
「みみ、みみ、きゃー!」
「好きにしてくれ、エリィ……」
1歳の娘に耳をめちゃくちゃにされながらも、グレンはふっと笑った。
ついでに、普段はきれいに整えられた銀の髪もだいぶ乱れている。
そんな二人を見て、ちょっとハラハラしているのが、妻のルイスである。
――グレン様、本当に大丈夫なの!?
あまりのもふられっぷり、耳の変形っぷりに、嫁、ドキドキだった。
獣人の耳にだって、触覚はある。くすぐったさも痛みも感じるのだ。
グレンは「あはは」と楽しそうに笑っているが、エリーゼの触り方は流石に度を越しているような気がした。
まだ幼いから加減などできない、と言われれば、それまでかもしれないが……。
自分の旦那の耳が、思いっきり引っ張られて限界まで伸びる場面を見れば、ハラハラするのも無理はないというものだろう。
「はは、痛いよエリィ」
とめたほうがいいのかしら、触り方をちゃんと教えたほうが……。と悩む妻の心など知らず。
耳と髪をめちゃくちゃにされ続けながらも、グレンはご満悦だった。
エリーゼが、パパとママの次に覚えた言葉は、耳だった。
初めて「みみ」と話したのは、今のように父に抱っこされていたとき。
懸命に父の頭に手を伸ばしながら「みみ!」と叫んだものだから、そばにいたルイスは思わず吹き出した。
どれだけ好きなの、そんなに触りたいの、とルイスの笑いのツボに入ってしまったのである。
「みみ……。パパとママの次が、みみ……。ふふ、ふふふっ……」
「みみ! みみ!」
お腹を抱えてぷるぷると震える妻。みみ、と叫び続ける娘。
そんな妻子を前にして、グレンは「きみに似たんじゃないか?」と妻の耳好きを指摘した。
初めて出会ったときからここまで、ルイスはグレンの狼耳ラブである。
とはいえ、ルイスだって貴族のご令嬢。
思春期を迎えたころから婚約までは、グレンに触れることを我慢していた。
だが、婚約後は今までの時間を取り返すかのように、グレンの耳をもふるようになった。
エリーゼだって、母が父の耳をもふもふする場面は何度も目にしていたはずだ。
それもあってか、エリーゼもよくグレンの耳を触りたがる。
母娘揃って、グレンの狼耳が大好きなのである。
そんなことで、今日もグレンは娘に耳をめちゃくちゃにされている。
本人は笑っているが、それなりに痛みもあるはずだ。
ルイスは、思う。
流石に、触り方を教えるべきではないかと。
「あ、あー……。私もパパのお耳、触りたくなっちゃった。グレン様、私もいいですか?」
「ん? ああ、もちろん」
二人が触りやすいよう、グレンはソファに横になる。
エリーゼは、仰向けになった父にまたがって。
ルイスは、グレンの頭側にまわり、彼の耳を触り始める。
「エリィ、パパのお耳、気持ちいいねえ」
娘に笑いかけながらも、ルイスは優しく丁寧にグレンの耳に触れてみせる。
婚約後、グレンの耳を触りまくったルイスは、彼から「もはやマッサージ」「触られると心地いい」とまで言われるようになった。
ルイスは耳もふ上級者なのである。
先ほどまでは乱暴に父の耳を引っ張ったりしていたエリーゼも、母の触り方を真似し始める。
「うん。そうそう。そうやって優しく……。痛くないように……」
妻による、旦那の耳もふりかた指導が続く。
上から嫁。下から娘。
最愛の二人に囲まれたグレンは、この上ない幸福を噛み占めていた。
「あなたが運命の人を見つける前に、思い出をください」と一夜を共にした翌朝、私が彼の番なことが判明しました ~白銀の狼公爵の、一途すぎる溺愛~ はづも @hadumo
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