ももたろう

@gesicht

第1話

洋輔へ


この手紙を読んでる時にはお前にすでに多大な迷惑をかけた後だと思う

すまない

迷惑ついでに俺の部屋を片付けて欲しい

暗証番号は偽誕生日だ



数年ぶりに兄から手紙が届いた

ここ数ヶ月勤めていた会社は潰れるわ泥棒に入られるわ碌なことがなかったが転職先も決まりようやく落ち着いてきた矢先のことだった

ズボラな兄の事だ

部屋が汚れすぎたけど他人を入れたく無いから昔の感覚で使いパシリにしようと俺に白羽の矢を立てたのだろう

再就職先の初出勤までまだ数日あるし久々に兄の顔でも拝みに行くか

手紙の前半部分をただのエヴァパロディの導入だとしか思ってなかった俺はそんな事を考えていた


兄は社会不適合者だ

何を考えてるか判らず突拍子もない事をしてその尻拭いは弟の俺の役目

そんな日常が嫌で卒業と同時に東京へ出たのだが尻拭い役がいないならいないでそれなりに過ごせてる兄に昔は腹を立てたものだ

ちなみに偽誕生日とは兄の本当の誕生日の事だ

7月21日生まれの兄は学生時代に誕生日を揶揄われた時から自分の誕生日は8月21日であり7月の方はネタ、つまり偽誕生日ということにしてしまった

兄の恐ろしい所はこの「真実」を公的にも事実にする為役所に何枚もの書類を出し、ついに真の誕生日を勝ち取ってしまった事だ

そんな兄が今度は何をやらかしたのか

俺は何の尻拭いをさせられるのか

兄の家が近づくにつれ意識が部屋掃除から尻拭いに変化していっているのは長年の勘のようなものかもしれない


兄の部屋についた

兄の部屋は全く散らかっていなかった

暗証番号を入力するようなオートロック的なものも存在しないごく普通のマンション

手紙に同封されていた鍵で普通に入ることができた

からかわれたのか?

とりあえず兄が帰宅するであろう時間まで待つことにした時にそれが目に入った


一見なんの変哲のないペン

それが机の上のペン立てに立ててある

しかし兄の事を知る身としてはこれがおかしい

このペンは特殊な操作をする事で中身を取り出せる構造をしており昔探偵ごっこにハマった兄の自作の愛用品だ


兄はこのペンを肌身離さず持っていた

そんなペンがペン立てにあるはずは無いのだ

最低でも鍵のかかる机の引き出しに箱に入れて収納するのが兄のやり方だ

虹村形兆リスペクトらしい


いつもの手順でペンを開封する

学生時代の秘密のやり取りは大抵このペンを経由したのだから慣れたものだ

中から出てきたのはmicroSD

時代を感じる

昔は紙だった


スマホに突っ込んで中身を確認する

ここでパスワードか

兄の偽誕生日

すなわち昭和60年7月21日

アルファベットでshowa600721

これを間に挟んで6s0h0o7w2a1

逆から読むとパスワードの完成だ

変形には何パターンかあるが間に挟んで逆から読むのは偽誕生日と指定された時だ


さて中身は……


その時インターホンが鳴った

ドアカメラで確認する

警察の制服が見えた

なぜ警察が?と思うより先に気づく

2人いる警官の後ろの方

知っている

会っている

俺の家に泥棒が入った時に来た警官だ

県が違うのに?

東京の警官が制服で?

ありえない


気づくと同時に逃亡に入る

ベランダ……すでに何かがいる

玄関……偽?警察官が2人

だけど兄なら

きっと兄なら何か用意しているはず

クローゼット?違う

風呂トイレ?ここも違う

タンスにあった

タンスの最上段に3つある引き出しの左右を同時に押すと真ん中の引き出しが空気圧で少し出る

それを3秒以内に左右に2回ガタガタさせてから押す

すると最下段の引き出しが扉のように開いた

そこにはハシゴがあった

どうやら下の部屋も兄の部屋だったらしい

用意されていた服に着替えてマンションを出る

マンションは複数の「コスプレ」警官に囲まれていた


なんとか逃亡に成功した俺はボロい喫茶店に入った

漫画喫茶とかとは違い監視カメラを気にしなくて済む

こちらからは入り口が見やすく外からは見えづらい席

そんな席を探す

そこで兄からの宿題を読む事にした


兄からの宿題はなんとも気の抜ける内容であった

気が抜けるだけに恐ろしい

これは真実なのか?

真実だとして何か問題があるのか?

そしてもし問題があったとして兄は無事なのか

知ってしまった俺はどうなるのか

気づくと俺は資料にのめり込んでいた


きっかけは些細な事だ

兄は常々思っていたらしい

桃太郎って本当に岡山の話なのか?と

くだらない

くだらないが兄にとっては真剣な事だった

それは何故か

犬だ

桃太郎の家来といえば犬猿キジ

猿は日本ならどこでもいる

キジはまあ鳥だし置いとく


では犬は?

日本で強そうな犬といえば土佐犬

あと秋田犬

しかし岡山で犬といえば?

いない

「岡山 犬」でググっても犬と行けるカフェの話とか散歩スポットの話とかしか出ない

トイプードルが人気らしい


それにきび団子

美味しい

美味しいけどこれ持ち歩くか?

と言われたら疑問が湧く

甘いから褒美的な?


あとは鬼だ


諸説あるけど鬼の正体は外国人遭難者では無いかという説がある

岡山の海は瀬戸内海

流れつくか?瀬戸内海に

つかないでしょう


そう考えた兄は鬼が居そうな県を探してみたらしい

そしてたどり着いたのが秋田県だった


秋田には古来よりナマハゲの伝説がある

ナマハゲは鬼じゃ無いよ!と言われそうだけどその話は置いとく

もう兄の中ではナマハゲ=鬼は確定してしまっていたのだ


まさに秋田犬がいる

あの最強大統領プーチン様も御用達の最強犬だ


ナマハゲのことをググってみた

秋田の男鹿半島周辺で行われる年中行事である

男鹿半島?オーガ半島!?

つまり鬼ヶ島


さらに調査を進める中で童謡桃太郎の原曲を入手した


もーもたろさんももたろさん

お腰につけた「きりたんぽ」

一つ私にくださいな


きりたんぽ

そう秋田である


秋田犬、男鹿半島、きりたんぽ

様々な証拠を入手した兄は秋田でついに特大の地雷を踏み抜いた


その組織の名は男鹿ナマハゲ委員会

Oga Namahage Iinkai

通称ONI

それは現代の鬼が多数在籍する秘密結社であった


このONI達は秋田に鬼が実在する事実を長年に渡り隠蔽してきたのだ

童話桃太郎の舞台を岡山に移し

童謡の歌詞を改変し

ナマハゲが鬼でないと主張する

鬼達に不都合な真実を闇に葬る事によって


そして兄も……


先だって俺に降りかかった災難や兄のマンションで遭遇した警官もONIの仕業に違いない

兄に代わりこの真実を世間に広める事が後々自分の身を守る事につながる


そう信じてこの小説を次はあなたに託します


そしていつか……



おわり

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