6
……土は土に、灰は灰に、塵は塵に。……
少年の遺灰が埋められた真新しい墓石の前にひざまずいてひとしきり祈りを捧げると、クリスは立ち上がった。カソックがくろぐろと小雨に濡れている。ケイは黙って傘を差し掛けた。
「ヴィデオを確認したけれど、何も映っていなかったよ。……ルークはともかく、マイケルも。最初から最後まで」
「そうですか……」
「吸血鬼は鏡に映らないとはよく言われているけれど、ヴィデオ・カメラは知らなかったな。新説として発表するのが楽しみだ」
軽口めかして言ってみても、ケイの心は晴れなかった。
「……あれで、よかったのかな」
「あなたはマイケルの魂を救ったのですよ、ケイ。母親におぞましい罪を犯し、不死の悪霊となって永遠に彷徨う運命を免れ、灰に還った。彼は今、主の御もとで安らいでいるはずです。ミズ・エヴァンズもそれを知っていたから、あなたにお礼を言ったのですよ」
メアリーは息子が灰になった直後こそ身も世もなく悲嘆にくれていたが、葬儀では気丈に振舞い、ケイを見つけるとその手を握って感謝を述べた。息子が化け物にならなくてよかったと、彼女は涙ながらに言った。
「あなたが気に病むことはない。……救えなかったというなら、むしろ私です」
ぽつりと呟かれた言葉を、ケイは聞こえなかったふりで聞き流した。
「それにしても、ヴァンパイアと対決したエクソシストだなんて、前代未聞だな」
「神が、あなたという友人を私に遣わしてくださいましたから」
クリスは穏やかに微笑んだ。
「私たちエクソシストは悪魔の存在を確信している、と言いましたね。それは概念としての抽象的な悪の力や、人の心の悪しき部分の反映ではなく、現実の、生あるものとして悪魔が存在することを知っている、ということです。私が言っていることがどういうことか、あなたにもわかってもらえたのではないですか」
「……俺は未だに自分が見たものを信じられないよ」
「これで終わったわけではありませんよ。マイケルを滅ぼしたもの、ルークと名乗った者は逃げのびた。私たちは彼に立ち向かわなければならないでしょう。ケイ、私はこれからもあなたを必要としています」
「……神様は俺にますます過激な論文を書かせたいみたいだな」
「すべては思し召しです」
……後日、太平洋を隔てた東京で精神科医をしている友人から、ヴァンパイアと遭遇したという女性患者の奇妙な手記が添付されたEメールがケイに宛てて送られてくるのだが、それはまた別の物語である。
灰は灰に 柳川麻衣 @hempandwillow
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