いつか消えゆく俺から君に
今の主治医は、俺に存在していても良いと言ってくれた。だが、主治医が変われば治療方針も変わってくるだろう。そのうち俺は統合されてしまうのかもしれない。
だから今、いつか消えてしまうかもしれない俺から基本人格に、言いたいことがいくつかある。
正直、今の段階では俺が消えることに不安しかない。自分の存在が消失することに対してではなく、基本人格の君がちゃんと生きていけるかに対してだ。
俺がいなくなっても、ちゃんと子育てできるだろうか。子供の面倒を見て、よく笑い、ご飯を作り、お金の計算ができるだろうか。
君は現実を怖がってばかりだから、凄く心配だ。
虐待を受け、洗脳され、いじめに遭い、暴力を受け、結婚してからは元姑にいびられていた。子供は自閉症で育児ノイローゼになり、元夫からは浮気されて、辛かっただろう。君は表に出てくるたびに、生きていて辛いことばかりだったという。子供にとっても自分の存在は害悪で、早くいなくなった方が良いんじゃないかと泣く。
これはあくまでも俺の考え方だから、君にどう伝わるかは分からないが、思ったことを伝えておく。
人は多分、ただそこにいるだけで価値がある。君の存在で、子供たちは救われている。君が優しく子供たちを包み込むから、子供たちも優しい子たちに育った。
子供に辛いことがあれば寄り添って一緒に泣いてしまう、そんな母親だから、子供たちは人の痛みに寄り添うことができるようになった。決して害悪などではない。子育てを頑張ってきたと胸を張って欲しい。
辛い過去も多かっただろう。未だに神様と宇宙人を怖がっているが、君が何より怖がっているのは生きてる人間の悪意だ。確かにこの世の中には悪意を持って傷つけてくる人間がいる。優しい人ばかりではない。上から目線でレッテルを貼ったり、ジャッジしてくるやつらもいるだろう。実際そういう人間に君は傷つけられてきた。母子家庭だからお金を騙し取ろうとしてるんじゃないかと、言われたこともあった。そういうことを言ってくる人間もいる。
けれど今は、君を理解して受け入れ、思いやりを持って接してくれる人達がいるはずだ。君が出てきて怖がっていると、話を聞いてくれる友人たちがいる。ネガティブなものに焦点を当てず、ポジティブなものを見つめて欲しい。過去はどうにもならないが、これからに目を向けて欲しい。
そして1歩ずつでいいから、現実を受け止める強さを身につけていってほしい。君の感受性は鋭く、この世には見たくもないニュースで溢れている。怖いもの、悲しいものだらけだろう。押しつぶされそうになったら、君が大事にしている観葉植物や、猫の動画をみたらいいよ。君がどこにアンテナを向けるかで、この世は大きく景色を変える。
ちゃんと薬を飲むこと。ご飯を食べること。病院に通うこと。節約して子供の学費を貯めること。夜は寝ること。友達を大事にすること。あと数年で子育ても終わる。そしたらまた、保護猫を引き取ればいい。きっと、新しい楽しい生活が待っているはずだ。
俺がもし消えてしまったとしたら、どうか命を大事に、体と心を大事に生きていって欲しいのだ。君が俺を必要とするうちは、俺も頑張って手伝うよ。
生きていてよかったと、君も思える日が必ず来る。
いつか消えゆく俺から君に たね胚芽 @tanehaiga
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