基本人格について

 基本人格は精神状態がかなり悪い。悪すぎて表に滅多に出てこない。出てきた時は確実に病院に行くことになる。基本人格の病名は色々とついている。パニック障害、双極性障害、統合失調症、そして解離性同一性障害である。


 基本人格の精神状態がここまで悪くなったのは、色々と理由がある。


 基本人格は幼少期に叔母から、新興宗教や宇宙人の存在の洗脳を受けていた。両親からは精神的な虐待をされ、叔母からは洗脳である。そうしていつの間にか現実を生き抜くために、俺たちの存在が生まれた。


 幼少期の基本人格は優しさに飢えていて、叔母は優しく接してくれた。その分叔母の言うことを信用しきったのだ。叔母は絵本を読み聞かせるように、宗教の話をした。子供でも分かりやすく書かれた漫画の宗教本を手渡され、基本人格はそれを熱心に読んだ。


 俺は洗脳されてないので基本人格の苦しみは分からないが、とにかく宇宙人が怖いらしい。叔母から宇宙人のことを考えると夜中に宇宙船がやって来て誘拐され、解剖されると教わったからだ。頭の中で宇宙人と考えるだけで、宇宙人にテレパシーで伝わってしまうのだそうだ。そして誘拐され、解剖されて、脳みそだけにされるらしい。基本人格はそのことを幼少期から恐れ、夜になると宇宙人のことを考えないようにと強迫観念に駆られて生きてきた。


 俺から言わせれば何を言っているんだ、という感じだが、基本人格は未だにそれを恐れている。

 他にも、自分の心の声は常に神様に聞かれていて、間違ったことを考えると地獄に落とされると思っている。思考を監視されているのだ。神様から思考を監視されていて、ちょっとでも悪いことを考えると地獄に落とされる、または警察にバレて刑務所に入れられると思っている。それに怯えて布団でガタガタと震えるのだ。そして、罪深い自分を恥じてすぐに死ぬことを考える。

 この時に俺が表に出てきて基本人格を落ち着かせようとするが、なかなか上手くいかない。基本人格が混乱していて、上手く人格をバトンタッチできないのだ。


 窓という窓にダンボールを貼り、カーテンを閉めて、暗闇の中で、宇宙人と警察官と神様に怯え続ける時期もあった。まだ、精神科は未受診だった。子供がいなかった頃だったが、今もその状態であれば大変なことになっていたと思う。


 叔母は今でも宗教の本を熱心に送ってくる。断っても断っても、それが人を救うことだと信じて、送ってくる。


 俺は読みもしないし、基本人格が目にしないようにしている。

 基本人格は現実が辛すぎて表に出てこようとはしない。ここでは言えないようなトラウマも多い。だから俺たちは交代で表に出て、なんとか生活を営んでいるのだ。


 俺たちは、理由があって生まれた人格なのだなと改めて感じる。


 基本人格の記憶はひどいもので、フラッシュバックも辛いのだろう。それでも俺たちは何とかやって、生きていくしかないのだ。虐待にも洗脳にも蓋をして、ただ生きていくしかないのだ。

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