青い手帳
久石あまね
青い手帳
少し肌寒い晩秋。
秋の青空に輝く太陽。
黄色く染まった街路樹に沿い、僕は郵便局までのアスファルトの道のりを住宅街を縫うようにスタスタと歩いていた。
郵便局に障害者年金を引き出しにいくのだ。そう、僕は精神障害者だ。この障害者年金を頼りに生活をしている。
横断歩道で信号が変わるのを待っていると、車道を挟んだ反対側の歩道に、幼馴染のけんちゃんがいた。
「けんちゃ〜んっ!」
僕は大きい声でいった。
けんちゃんは片腕をあげて、「よおっ、拓也っ」といった。
信号が青に変わった。
横断歩道ですれ違う僕たち。
けんちゃんの左の薬指には指輪がしてあった。
「けんちゃん結婚してんな!」
「せやねん!」
「おめでとう!」
子供の頃はお互いボーっとした感じの男の子だったが、けんちゃんは結婚した。でも僕は病気になって、結婚どころじゃなくなってしまった。
どこでこんなに差がついたのだろうか。
僕とけんちゃん、人生を分けたターニングポイントのようなものがあったのだろう。運命の神様には抗えない。
戦いに負けたものは敗者だ。
人生というカーレースに負けた車(人間)は廃車(敗者、配車)になる。
郵便局に着いたとき、ふと、そんなダジャレが浮かんだ。
そして窓口に行くと、小学校の時のクラスのアイドルだった美咲ちゃんが窓口をしていた。
「美咲ちゃ〜ん!」
「あれっ、たっくんやん!」
美咲ちゃんは小学生の頃より可愛くなっていた。僕のことも覚えてくれていて嬉しくなった。
僕は美咲ちゃんに手伝ってもらって、障害者年金を引き出した。
僕にはプライドはない。
プライドがないというところが、僕の長所かもしれないなと、ふと思った。
青い手帳 久石あまね @amane11
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