第6話 「幼馴染を寝取られた」などと意味不明の供述をしており、ムカつくのでからかってやることにします その一

前半が佳宏よしひろ視点、後半が有紗ありさ視点となります。

今回ちょっと長めですが、一話にまとめることにしました。


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 日曜日の午後。僕は舞音まいんちゃんと一緒に白亜の建物の入り口をくぐった。


 今日はママがうちにいるんです、たまにはお外でデートしませんか、という彼女の言葉に誘われ、カフェに行ったり、ショッピングモールをぶらついたりして過ごした。

 その後、あらかじめ下調べをしていたらしい舞音ちゃんに導かれるままに、僕たちが訪れた建物は――。


「だ、大丈夫なのかな。僕たちまだ高校生なんだけど……」


 そう、ラブホテルというやつだ。

 まさか、自分がこんなところを訪れることになるなんて、ついこの間まで想像もしていなかった。それも、全男子憧れの遠藤えんどう舞音まいんちゃんとだなんて。


「私服だし大丈夫なはずですよ。自動受付だからフロントの人と顔を合わせなくていいそうですし」


「そ、そうなんだ」


 ネットででも調べたのだろう。舞音ちゃんは準備におこたりなかった。

 もちろん、以前に他の男と来たことがある、なんてことはあり得ない。

 なにしろ彼女は、ついこの間までけがれを知らぬ体だったのだから。


 パネルで部屋を選択し、機械から出てきた「301」と書かれたルームキーを受け取る。

 やっぱりちょっと緊張するな。

 舞音ちゃんも、いつもより緊張しているみたいだけれど、その一方でわくわくしてもいるみたいだ。

 確かに、聞いた話では、ラブホテルというところはただHするだけじゃなく、いろいろアミューズメントなんかも充実しているらしいし、楽しみではあるな。


 部屋はとても清潔そうな雰囲気だった。そりゃそうだ。いかにも、ついさっきまでこの部屋で他の男女がヤってました感が残っているようでは、たいていの人はドン引きするだろう。

 中にはかえって興奮する人たちもいるかもしれないが。


 部屋の壁には大型の液晶モニターがはめ込まれている。


「これでカラオケもできるみたいですよ」


 舞音ちゃんがリモコンをいじる。あ、この展開は……。


「きゃっ!」


 案の定、アダルティな映像が流れ始めて、舞音ちゃんは悲鳴を上げた。

 音声がミュートになっていた分、まだ衝撃は小さかったと言えるだろうか。

 まだまだ初心うぶな彼女は堪らなく可愛い。


「お風呂もずいぶん大きいんだね」


 バスルームを覗いてみて、僕は舞音ちゃんに声を掛けた。


「も、もしよかったら、い、一緒に入る?」


 舞音ちゃんは顔を真っ赤にしながらも、小さな声で「はい」と答えてくれた。



 お風呂で洗いっこしているうちに気分が盛り上がってきて、そのまま合体、そしてベッドでも汗を流し、しばしの休憩。


「ネットで見たんですけど、ここのホテル、ルームサービスの食事が充実しているらしいんですよ」


「へえ、そうなんだ。性欲を満たした後は食欲ってわけだね」


 我ながら下品な冗談に、舞音ちゃんが頬を膨らませる。


「もう、佳宏君ったら。――まあ、ホテルとしてはそうやって客単価を上げようっていう戦略なんでしょうけど」


 さすが舞音ちゃん。中々知的なことを口にする。


「じゃあ、その戦略に乗せられてみる?」


「そうですね。一番人気は、このあんずのタルトらしいですよ」


「なるほど……。本当にすごいね。ちょっとしたカフェ並みにメニューが充実してるよ」


 あんずのタルトにガトーショコラ、それにドリンクを注文し、食欲を満たした後は、もう一度性欲を満たす。


 なんだか幸せ過ぎて怖いくらいだ。



   †††††



「思い出したら何かムカついてきた」


 あたしはベッドの上にあぐらをかいて、祐司ゆうじに愚痴をこぼした。

 せっかく彼氏と楽しい時間を過ごしている時に、あんなやつらのことなんか思い出したくないんだけど。


「まあまあまあ。別に気にすることないじゃないか」


「そりゃそうなんだけどさ」


 佳宏に彼女が出来たと聞いた時は正直驚いた。しかもその相手が遠藤舞音だっていうから、驚きもひとしおだ。

 陰キャであたし以外の女子となんかまともに話をしたこともなかったはずの佳宏が、一体どうやったのか。気にはなったけど、まあ何にしてもめでたいことだ。

 ちょうど同じクラスにもなったことだし、あいつに言わなきゃいけないこともあったので、ついでにおめでとうの一言も添えてやるか。そう思っていたというのに――。


「あ、佳宏。この間のことなんだけど……」


 佳宏に声を掛け、あたしは礼を言おうとした。あたしが祐司とお泊りしたことを、うちの親にバラさないでいてくれたことに対するお礼だ。


 それなのに、あの馬鹿はいきなり喧嘩腰なものだから、あたしも思わず熱くなってしまった。


童貞どうていあおりはちょっとよくなかったね。事実が人を傷つけることもあるんだよ」


 隣のクラスだけどあたしに会いに来てくれた祐司に、みっともないところを見られてしまったのは不覚だった。


「うん、反省してる。まあでも、あの後、童貞じゃなくなったみたいだけどね」


「そうなのか?」


「多分ね」


 自慢じゃないが、あたしはそのあたりの勘は鋭い方だ。一線を越えた男女特有の馴れ馴れしい感覚はなんとなくわかる。

 仁美ひとみたちがそうなった時も、もしかして、と鎌をかけたらドンピシャだったし。


 というか、クラスが違う祐司は知らないのだろうけど、最近のあの二人のイチャつきっぷりは、正直見ていられないほどだ。多分、あたし以外のクラスメイトの大半も察していることだろう。


「あたしらは学校じゃ遠慮してるっていうのにさ」


「はは、あまり見せびらかすもんじゃないしね。というか、いいのかな、こんなとこに来ちゃって。有紗とは真面目にお付き合いするって、ご両親と約束したばかりなのに」


 そう。旅行から帰って来たところを佳宏に見られてしまい、あいつの口からうちの親にバラされることを覚悟したあたしたちは、先手を打って親に打ち明け謝ったのだ。

 お父さんとお母さん、特にお父さんは、あたしたちが嘘をついたことに対して相当腹を立てた様子だった。

 でも、祐司も真摯に頭を下げてくれて、あたしたちは無理矢理別れさせられることもなく、お互いの両親公認で真面目なお付き合いをすると約束した上で、晴れて交際を続けることとなった。

 祐司はいかにもチャラそうな見た目で誤解されがちだけれど、根は真面目ないいやつだってことを、うちの両親も理解してくれたようで、すごく嬉しい。


「将来のことも考えて真面目にお付き合いするっていうことと、今Hすることとは別に矛盾してないでしょ。それとも、祐司は大学卒業して就職するまでとか我慢できる?」


「……いや、それは無理」


「だよね~。それに、本日はお日柄も良く安全日ってことで」


「もう。有紗はHだなぁ」


「お互いさま♡」


 雰囲気が盛り上がってきたけれど、その前にちょっと腹ごしらえ。

 このラブホはルームサービスの食事が充実していることで人気なのだ。

 以前、部の先輩から教えてもらったんだけどね。

 フロントに電話をかけ、注文を伝える


「すみませ~ん。302号室ですけど、唐揚げとフライドポテト、それとあんずのタルト、あとレモンスカッシュ二つお願いしま~す」


 地元産のあんずを使っているというここのタルトは、普通にカフェの人気メニューになりそうなくらい美味しい。

 祐司が唐揚げをモリモリ頬張る様子を微笑ましく眺めながら、あたしはタルトに舌鼓したつづみを打った。


「にしてもさあ。何か納得がいかないんだよね。別にあたしは佳宏が誰と付き合おうと気にしてないのに、お前なんかよりずっといい女だぜ、って雰囲気を漂わせて来るのがマジムカつく」


 また愚痴が出てしまった。祐司も気を悪くするかな?

 でも、始業式の日だって、あたしは単にお礼が言いたかっただけなのだ。

 親には先手を打って打ち明けたとはいえ、あいつの口から伝えられて、なるほどそれがなければ隠し通すつもりだったのか、なんて思われたら心証を悪くする。だから、黙っていてくれたことには感謝していたのに。それなのにあの馬鹿ときたら!


「うーん。ほっときなよって言いたいところだけど……。有紗のことを遠藤さんより格下だと思っているのは確かに許しがたいな。そりゃあ、たしかに胸は完敗だけど」


「祐司?」


 あたしが睨みつけると、彼は慌てて謝った。


「ご、ごめん。俺は有紗のちっぱい大好きだよ」


「ちっぱい言うな」


 冗談だってわかっているから、別に本気で怒ったりはしないよ。


「胸なんて飾りです。エロい人にはそれがわからんのですよ」


「何、それ?」


「さあ? 昔佳宏に見せられたアニメにそんな台詞があったような気がするけど詳しくは知らない」


 祐司はオタク趣味は全く無いのだけれど、あたしのオタノリにも拒否反応を示したりはしない。

 それにひきかえ佳宏のやつは、何かというとマウントを取ろうとしたり、あたしが好きな作品やキャラを「腐女子ふじょしびてる」とか言って小馬鹿にしたりしていたからなぁ。

 よく、付き合うなら趣味の合う人と、なんてことを言うけれど、本当に大事なのは、趣味が合うかどうかよりも、他人の趣味を否定しない人であることだと思う。


「んふふ」


 祐司の顔を見ているうちに、自然と笑みがこぼれる。


「ど、どうしたの?」


「別に~。あたしの彼氏はマジ素敵だな~って思っただけ♪」


 などとじゃれ合っているうちに、段々雰囲気が盛り上がってきた。

 祐司のたくましい腕に抱かれながら、あたしは言った。


「あいつらにちょっと仕返ししてやりたいんだけど、協力してくれる?」


「あんまりやり過ぎないようにね」


「別に意地悪とかしようとは思ってないよ。あいつらが勝手に恥をかくだけ」


「悪い顔してるなあ」


 そう言いながらも、祐司はあたしを止めようとはしなかった。祐司も腹に据えかねるところはあるのだろう。


「でも、彼らがリアクションを返した場合は?」


「うーん、その時は、しゃくさわるけど仲良くするしかないね。ま、多分期待は裏切らないでくれると思うけどね」


「そっか。……さて、そんな話はこれくらいにして」


「そだね♡」


 あたしたちは唇を重ね、お互いの体をまさぐり合う。

 祐司が、本日2枚目のゴムに手を伸ばした。


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※この物語はフィクションです。法令は遵守しましょう。

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