第9話 過去のあたしを褒めてやりたい
今回で本編は完結、次回おまけとして
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六月半ば。そろそろ梅雨に入り、
その理由について、
お察しのとおり、
「いやあ、びっくりしたよ。……遠藤さんが妊娠したって本当なのかい?」
後半は声をひそめて、
「うちのお母さんが佳宏のお母さんから直接聞いた話だから、間違いないよ」
「そっかぁ。危険日にしちゃったのかな? コンドームも過信は禁物って言うしね」
フライドポテトをつまみつつ、小声でそんな感想を漏らす祐司に、あたしは困った顔で――いや、別にあたしが困ることはないんだけど――、真相を伝えた。
「いや、それが……。あいつら、避妊のことは全く考えていなかったみたいなんだよね」
「はあ!?
遠藤さんの両親が共働きで家にいないのをいいことに、ずっと
呆れて物も言えんわ。
「で、どうするつもりなんだろうね」
「遠藤さんは産む気らしいよ。で、佳宏は遠藤さんとこで働きながら、いずれは二人とも高卒認定試験を受けるんだってさ」
遠藤さんの親は、この近辺でコンビニを5店舗ほど経営していて、法人化もしているのだそうだ。一時期社長令嬢だとかいう噂が流れたのは、そういうことらしい。うん、間違ってはいないな。
ハンバーガショップを出ると、雨は上がっていた。祐司の家はこの近所だ。
腕を組んで歩く道すがら、あたしはコンビニに目を止めた。
「ちょっとポプリで買い物して行こうよ」
赤地に白抜きの匂い袋のマークのコンビニに足を踏み入れると、店員さんが挨拶をしてきたのだけれど、その言葉が半ばで途切れる。
「いらっしゃいま……せ……」
「あれ、佳宏、何でこの店にいんの? あんたが働いてるの、二丁目の店じゃなかったっけ?」
「ここも同じオーナーなんだよ。急に人手が足りなくなったから手伝いに行ってくれって言われてさ」
なるほど、ここも株式会社エンドウの持ち店舗の一つってわけか。奇遇だね。
「あっそ。頑張ってるねぇ」
買い物籠を手に、店内を回りながらも、佳宏の恨めし気な視線を感じる。
いや、あたしらには全く関係ないでしょうが。あんたたちが考えなしにヤリまくったってだけの話なんだし。
何だか段々腹が立ってきた。
人づての人づてで聞いた話とは言え、遠藤さんは割りと前向きに考えているみたいだし、考えようによっては、学年一とも言われる美少女と結ばれて子供も授かったんだから、十分幸せなんじゃないか。
それなのに、嫁さんと生まれてくる子のために頑張るぜって腹を
正直言うと、小さい頃――それこそ、幼稚園くらいの頃には、佳宏のことを好きだと思っていた時期もないわけじゃない。恋愛感情と言っていいのかどうか、微妙なくらいの頃の話だけどね。
けど、大きくなるにつれて、
つくづく、こんなやつに、幼馴染だというだけの理由で惚れたりしなかった過去のあたしを褒めてやりたい。
うん。ちょっとくらい意地悪してやっても罰は当たんないよな。
「そうそう、これも買っとかなきゃね。切れかけてたし」
ゴムの箱を手に取り、籠に放り込む。
祐司がえっ?というような顔をしているけど、気にしない気にしない。
お菓子やらジュースやらも必要なだけ買い物籠に詰め、レジに向かう。
レジ打ちは狙い通り佳宏だ。
相変わらずふてくされた顔のままレジを打つ佳宏に、あたしはニヤニヤ笑いながら言ってやった。
「やっぱ避妊はちゃんとしないとね♡」
すっごく恨めしそうな顔であたしの方を見てくるけど、正直、ざまぁとしか思わないよ。
「
祐司が優しく励ましてやっても、何だか余計に表情を歪めている。まったく、あんたはそんなんだからそんなんなんだよ。
「ありがとうございます」
全く心のこもってない挨拶を受け流しつつ、あたしたちはまた腕を組んで店を出た。
「佐藤のやつ、頑張ってるみたいだね。一応はちゃんと責任を取ったわけだ」
祐司がそんなことを言ってくるけれど、あたしの正直な感想は、
「いやあ、単に逃げ損ねただけだと思うよ」
「辛辣だなあ、
「わかってるよ。でもどうせそのうち使うでしょ♡」
「それもそっか」
ふと空を見上げると、綺麗な虹がかかっていた。
祐司と二人、腕を組んだまま何も言わずにしばし虹に見入る。
あたしは、頭の中から佳宏のことをきれいさっぱり追い払った。
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