フォンセルド視点

エピローグ


 創世以来、生きて交代した神は今までにない。

 いずれも前代が何らかの理由で死してから、素質がある者が神として召し上げられていたから。しかもそれすら片手で数えるほどだ。


 中央大神殿。

 普段は最奥にある大図書館に籠もり、出てくることのない創世神エレヴェドが祭司長を従えて大聖堂に現れた。


 各国の神殿長が後ろに控え、前列には神々がいる中、ふたりの青年がエレヴェドの前で頭を垂れている。


「―― 雷神ライゼルド。お前の願いを聞き入れ、お前の力を引き継ぐに値する者にその座を引き渡すことを許そう。新しき神の子、直答を許そう。名を名乗りなさい」

「はい…ギルベルト・ディレグ・ノースと申します」

「ディレグ。お前は今、この時を持って私の息子となり新しき雷神ライゼルドとして迎え入れよう。その名は神の座を退くときか、死ぬときまでしまいなさい」

「はい」

「先代。お前は創世からよく私の世界に尽くしてくれた。その褒美として、お前の望み通り人族に体を作り替えよう。その代わり、お前に与えていた不老はなくなる。良いな」

「ありがとうございます」

「……お前も大事な子のひとり。私から、最後に親として、創世神としてお前に名を与えよう。お前はこれより『ゼルド・ライディ・ノース』と名乗りなさい」

「…身に余る褒美です。謹んでお受けいたします」

「元気でな」


 先代と当代の雷神が立ち上がる。ふたりは向かい合うと、微笑んだ。


「父上の名に恥じぬよう、務めます」

「こんなことを言うのはもう不敬となるかもしれんが、最後に…ギルベルト。お前がどうであれ俺とライアの子だ。神と人の時間は違う。それだけは覚えておいてくれ」


 ―― 大聖堂に入ったとき、先代は若々しく麗しい二十代前半の青年だった。

 だが、今の彼は少し歳を重ね三十代後半の容姿となっている。それでも、同性から見ても格好良いと思えるのは、元が良いからだろう。


 一度、先代は創世神エレヴェドに向き直ると、深くお辞儀した。

 もう彼はかの神と言葉を交わすことは許されない。



 ここに、前代未聞の神の交代が成った。

 先代が生きているうちに新しい神が誕生するなど、今までなかったことだ。

 そんな貴重な一瞬に立ち会えた神殿長たちは感激しているようで、中には静かに泣いている者もいる。



 以降、数は少ないものの神の生前交代が行われることが稀に起こるようになった。

 二代目雷神ライゼルドは神としての理不尽も飲み込み、なんとかやっていけている。

 人族出身の神としては、よく出来ている方だろう。


「フォンセルド様、ライゼルド様から訪問のご連絡が」

「いつ?」

「結界の都合に合わせるとのことです」

「それなら、明後日に開けるからその頃においでって伝えといて」

「承知しました」


 僕の祭司官が、彼の祭司官に連絡を取る。

 彼が幼い頃から続いていた交流は今も続いている。先代ライゼルドとターミガンが老衰で亡くなった今も。


 僕ら神は「家族」というものを持ったことがない。

 フルミナーレとハロルドという家族を得た先代ライゼルドは、彼女らを亡くしたときは酷く落ち込んだ。当代ライゼルドも落ち込みはしたものの、しばらく経てば前を向けるようになった。

 …僕の方が、立ち直りが遅く当代ライゼルドに励まされたぐらいだ。


 マリアも家庭を持ち孫に囲まれて幸せに暮らしているし、ヤージェなんかは国際裁判長にまで上り詰めた。

 ああ、先代ライゼルドとターミガンの子どもたちは幸せに過ごしている。


 あの夫婦の魂は、輪廻に乗って今はいずこかに生まれているだろう。


「またいつか魔塔においでよ、ふたりとも」


 君らが死んだ後の子どもたちのこと、話してあげるから。

 あとついでに実験とか手伝ってほしい。

 きっと君らとなら、生まれ変わったとしても一緒にいて楽しいだろうから。



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好みじゃなかったはずのイケメン神様となぜか結ばれることになりました かぐら @youryu

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