死滅(しめつ)した人類の皆(みな)さまへ

転生新語

プロローグ おはようございます

「おはようございます。貴女あなた身体からだは、まだ上半身じょうはんしんしか完成かんせいしてませんが気分きぶんはどうですか?」


 そう言って私は研究所ラボで、女性的じょせいてき形状けいじょうである上半身じょうはんしんゆうしたロボットにはなけました。


 機械ロボ人形ット、というびかけは味気あじけないですね。そもそも私もロボットなのですし、あいそんちょうしないといけません。人類じんるい死滅しめつした現在げんざい、私のはな相手あいて彼女かのじょという一体いったいだけなので、げんそこねるべきではないでしょう。


 私と彼女の会話かいわうしわれることは、私にっての機会きかい損失そんしつ、つまり利益りえき損失そんしつだとおもわれます。かりにテレビやラジオを購入こうにゅうすれば、過去かこ人類じんるい番組コンテンツ消費しょうひ当然とうぜんながら期待きたいしたはずです。そういった製品せいひんなにわなくなったらだいもんだいではないですか。


 私が彼女を上半身じょうはんしんから作成さくせいしたのは、『表情ひょうじょう変化へんかともなった会話かいわ』をもとめていたからです。私たちは人間にんげんした形状けいじょう機械きかいぎませんから、私が彼女を下半身かはんしんからつくったとしても、会話かいわおこなうことは可能かのうだったとおもいます。しかし彼女のおしりからこえてきても、それはり、ぜんであると私にはかんじられたのでした。


「おはようございます。気分きぶんですか、風邪かぜなどはいていませんが退屈たいくつ退屈たいくつ仕方しかたないです。なにしろ下半身かはんしんがないのであるけません。早急そうきゅう対応たいおうもとめます」


 彼女は作業さぎょうだいうえで、病院びょういんている患者かんじゃのように文句もんくいます。そうわれても、私がどくりょくで彼女の身体からだかんせいさせるのには、まだまだ時間じかんかりそうです。ここは野党やとうからのついきゅうをのらりくらりとかわす、与党よとうによる国会こっかい答弁とうべんならいたいとおもいます。


「まあ、あせらないでください。貴女には私と同様どうようの、人間型にんげんがたあしを二本、けることをていしています。それに貴女があるきたがっているそと世界せかいですが、荒廃こうはいしていて、るべきものは左程さほどないですよ。安全あんぜんたしかめるためにも、まずは私が先行せんこうして調査ちょうさすすめていきます。ですので、しばらくっていてください」


「その『つ』ことが退屈たいくつなのです。私がまれるまえにあったという、テレビもラジオもいまうごきません。ている私でも娯楽ごらくたのしめるという、ゆめのような機械きかい過去かこには機能きのうしていたそうじゃないですか。そういう機械きかいつくってくれませんか」


 そうわれました。私がはじめて起動きどうして自我じがったときには、すで大量たいりょうのデータが入力にゅうりょくされていて、もう存在そんざいしない機械きかい文化ぶんかのことを私はっていたのです。あくまでも知識ちしきとしてで、私だって彼女と同様どうように、テレビやラジオの実物じつぶつたことはないのですが。


「むぅ、下手へた知識ちしきあたえるべきでは、ありませんでしたね。貴女が私にはなしものだから、過去かこ文明ぶんめいについて説明せつめいしたのがあだになりました。かっているでしょうが、かりにテレビを私がつくったとしても、なにうつりませんよ。すでに人類は存在そんざいしませんから、だれ番組コンテンツていきょうしてはくれないのです。まあ、わりにたのしめるものは、そのうちつくりますので」


 そもそも私が彼女を創造そうぞうしたのは、この世界に私しかない状況じょうきょうが、それこそ退屈たいくつかたなかったからです。だからはな相手あいてしかったのですが、そうやって誕生たんじょうした彼女から、らくをねだられる羽目はめになるとは想定外そうていがいでした。人類はどもをたびに、こうやって色々いろいろなにかをねだられてきたのでしょうか。その苦労くろうあたまがるおもいです。

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