黒鯱は、夜雨の銀鯨へ《甲》
鳥兎子
私は、海獣を呑み込んだ。
𝒕𝒐 𝒃𝒆 𝒄𝒐𝒏𝒕𝒊𝒏𝒖𝒆𝒅……と歌うイヤホンを投げ捨てれば、聴覚が
「ねぇ、
『鯨に鯱』なんて、誰が言い出したのか。
「私は、あの時先生に喰われかけた
「爽快な自由への渇望が、
海琴の
「今更試さないで。“優しい先生 ”の振りは効かないよ。私は“凶暴な父親”である先生の本性を思い出したの……嫌という程に。私より、先生の方がはっきりと
左手の指先で作られた『
あれは、
『私達が海琴を守らなきゃいけないのに……もう無理だよ、遼ちゃん。海琴を土左衛門なんかにする前に、抱っこしてあげたいの。後ろのチャイルドシートを外すから、遼ちゃんの肩借りるね』
車窓が袋詰めの小銭で割れぬ中、無共感が支配した。今まで彼女が伸し掛ることは無かった。俺が押し倒す側だったから。『愛』が分からないから、俺を選んだ彼女から『愛』を学ぼうとした。確かに、初めの頃は承認欲求を満たされていた。しかし価値観を共有出来ない者が、真綿で絞める慈愛は恐怖を生んだ。平和ボケした彼女とは、反りが合わなかったのだろう。
――今も
車窓を割る勢いで振りかざす。袋詰めの小銭では気を失っても上手く死なない。バーベキュー用に気取ったサバイバルナイフは、非常に有効だ。振り返れば、眼を見開く海琴。ソシオパスは後天的トラウマで発症するらしい。 同じ
奇妙な
「先生が良い子だと褒めてきてくれたから……私は『両親が死んで』いても、耐えてこれたんだよ。
「嘘なんかじゃない。雑食の俺は、群れる
「
銀の刃先が示すは、
「私を殺せないんだっけ? なら、
街灯の瞬く青が切れても、聖歌を聴くように冷静になれた。遠い屋上で唸る鉄骨から逃げなければ、海琴の
走馬燈ってやつなのか、俺の本当の欲望だったのか。あと半年で修学旅行だな、と笑いあったあの日が遠い。
『ねぇ、玖墨先生。なんで銀箔が無いのに、銀閣寺って言うの? 金閣寺と違って、地味だと思うんだけど』
『まぁ、太陽の下では黒光りする奇妙な建物だもんな。由来は諸説あるが……夜には月光を反射し、黒漆の楼閣が銀色に見えたんだと。
月下、がらんどうに嗤う愛娘。あぁ、
「ばいばい、お父さん」
巨大な鉄骨の影が、動かぬ俺に伸し掛ろうと迫る。夜雨に濡れるアスファルトは、
――自由への渇望は、凶暴に満たされる。
黒髪とプリーツスカートを艶めく尾の様に翻し、
✧︎イメージ挿絵✧︎
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黒鯱は、夜雨の銀鯨へ《甲》 鳥兎子 @totoko3927
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