第5話 葉を滑る朝露のようにみずみずしいプリン

 早怜はやとき真実まみ夏瀬なつせたまきは駅前のカフェにいた。


 目的は言わずもがな。


「結局、あの二人は待ち合わせるところからやり直したらしいよ。それで石葉いしば君が芽衣めいに告白して、二人は付き合うことになったんだって」


「そうですか。それはよかったですね」


 夏瀬環の報告によると、二人の彼女に対する態度も元に戻ったらしい。

 ただし二人が以前より親密になったため、夏瀬環は疎外感を抱く羽目になったようだった。


「お待たせしました。デラックス・プリンパフェになります」


 早怜真実の眼前に置かれた3000円もするお高いスイーツに二人の視線は釘付けになった。


 卵色の大きなプルプルボディの上に、焦げ色の香ばしいカラメルがたっぷりかかっている。

 中央には赤く輝くサクランボが鎮座し、周囲をホイップクリームやイチゴ、チョコチップが囲ってプリンをドレスアップしていた。


「いただきますね!」


「はい、どうぞ」


 夏瀬環が答えたときにはもう早怜真実はスプーンを握っていた。

 彼女は贅沢ぜいたくにもスプーンいっぱいにプリンをすくい、それをおもむろに口へと運ぶ。


「おいしいです!」


 例の二人の交際報告でも顔に感情を浮かべなかったポーカーフェイス少女の早怜真実。

 そんな彼女も、いまこの瞬間だけはこの世のすべての幸福を享受したかのような恍惚こうこつの表情を浮かべていた。



   おわり

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掛け違いのボタンのように 日和崎よしな @ReiwaNoBonpu

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