第6話 エピローグ


 自宅に戻った私は真っ先にデビュー作を手に取って、あとがきまでページを捲る。


『私にファンタジーというジャンルを与えてくれたのは父親でした。なので、今も感謝しています』


 これかぁ!


 それは見開き2ページにわたる文章の、ほんの一部分。

 言われてはじめて「そんなことも書いたっけ」と思い出すレベルだ。


 そうして、新しい日常が始まった。

 新しいこと、大変なこと、苦しいこと、たくさんあるし吐きそうな日もあるけど……今までにないくらい私の人生は充実してる!



「2巻たくさん平積みされてたよ〜」

「ほんと!?近所のイオンモール!?」

「そうそうー」


 母からの電話で、私は幸せを噛みしめる。


「そういえばお父さんねー」

「うん?お父さん何か言ってた?」

「ネット投稿?の頃から応援してたんだってー。使ってた名前は確か……」


 奴かよ!!


 毎回熱心にコメントを残す割に、妙に上から目線の奴!

 確かに奴には何度も助けられ支えられた。

 アドバイスを取り入れて改稿に反映したのは一度や二度じゃない!

 最古参と言ってもいいポジションの読者!


「お父さんずーーっとねぇ、『これはアイツの書く文だ、間違いない』なんて言ってて、そしたら本当に……びっくり!」

「なら、なんか言ってくれてもよかったのに」

「誰かさんが連絡、無視してたからねぇ」


 それもそうだ!

 しかも、途中から父の心も折れたのか遂に一通も連絡が来なくなっていた。

 そんなことされると私の方からも送りにくくなる!


「でね、お父さん……公募のページで受賞作品見た日に泣いちゃってー」

「へ、へぇ」


 目の前には化粧台、鏡に映る私の顔は分かりやすく口角が上がってる。


「それでね!本買ってきた日も涙目で、もう……こんな顔見たことない!ってくらい真剣に読んでたの!」

「そうなんだ!?」

「そこから最後にまた!あとがき読みながらぼろっぼろに泣きだしてー」


 改めて鏡を見ると、私の顔は過去最大級に緩みきっていた。


「長々ごめんねぇ、まだ大丈夫-?」

「ん、全然へーき」

「あの夜に何話してたか分からないけどね、帰ってからそれはもう褒めてて褒めてて」

「お、おう……」


 段々とこそばゆく、くすぐったい気持ちになってきた。


「これはハリウッドで実写化しても問題ない!とか言い出して!親バカなんだから」

「ごめん、やっぱりそろそろ……またね!」


 恥ずかしさに耐えきれなくなり、私は一方的に電話を切る。


 私は決めた。

 お正月以外も、たまに実家に帰ることを。

 そして説教してやる!


『直接言え、バカモノ』ってね。


 私はファンタジーが好きだ!

 だから、これからも私だけのファンタジーを書き続ける!


 完

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娘と父とハイファンタジー トモフジテツ🏴‍☠️ @tomofuzitetu

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