第5話 雪降る夜に(後編)
「荒削りな印象だが、悪くはなかった」
「そ、そう」
勝った!勝ち申した!
私は浮かれ舞い上がる。
「母さんも……褒めていた」
「へぇ……」
ポーカーフェイスを決め込むには、そろそろ限界まである。
「だけどな……」
「は、はい!」
私は思わず背筋を伸ばす。
「あとがきの内容……ああいうのは直接言え。バカモノ」
「え!?ごめんどこ?後で読み返してみる」
「なんだと!?」
「しょーがないじゃん!緊張してたし初めての書籍作業で忙しかったし、でもテンション上がって長々色々書いてたし!」
「……そうか、そういうものなのか」
「そんなもんだよ」
どの部分だろう?
ほんとに結構書いたからなぁ。
ひとまず、父は言うほど怒ってはいないようで一安心した。
「第一部だろう、どこまで話を考えたんだ?」
「今のとこ五部までかな」
「ほう」
「でもね!三部から先書くにはどうしても取材行きたいところあるし、担当さんみたいな人にも色々相談したかったから……だからどうしても賞とりたかったの!」
「賞金や、名声じゃないのか」
「そういう人もたくさんいるけど、私は〝続きをずっと書きたい〟って理由が一番大きいかな」
「なるほどな」
そこまで話し、私は珍しく饒舌になる自分の姿が恥ずかしくなってきた。
「シャワー浴びて寝るね!おやすみ!」
*
「
「いいよ別に」
「いつまで居るんだ?」
達成感と充実感を得た翌朝。
三人で食卓を囲んだ。
「午前中には帰ろうと思う」
「あら-、もっとゆっくりすればいいのに」
「母さんの言うとおりだ」
たった一つの目的、確認は最高の形で済んだしね。もう満足!
「仕事たまってるからねー」
「家だとできないのー?」
「場所を選ぶ作業でもなかろう」
「決まったお店じゃないと無理なの。自宅でもほとんど書かないなぁ」
「あらあら」
「そういうものなのか?」
「私の場合は、ね」
「パソコンで打つの-?」
「タッチタイピングくらい覚えたか?」
手元のスマートフォンを開く。
「私は大体これ!PCとも同期できるアプリだから、仕上げはそこかな」
「便利ねー」
「無視するな」
「うるさいなぁ、ブラインドタッチなんかできなくても困りませーん!」
「そういえば、あの本買ってきた日にお父さんね」
「言わなくていい」
「え、何!?お父さんが買ってたの!?」
「そうなのよー。それでねぇ……」
「母さん、言わなくていい」
「まあいいや、これ持ってくね。帰りに読んでからサイン書いて送ったげる!」
「あら、ありがとねー。でもペンならうちにも電話の横に」
「よせ、持っていくな!」
母の指す場所に確かにペン立てがあった。
「ならここで……」
表紙にサインを書きながら、さり気なく奥付を確認する。
『初版』
私は、たまらなく嬉しくなった!
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