第5話 雪降る夜に(後編)


「荒削りな印象だが、悪くはなかった」

「そ、そう」


 勝った!勝ち申した!

 私は浮かれ舞い上がる。


「母さんも……褒めていた」

「へぇ……」


 ポーカーフェイスを決め込むには、そろそろ限界まである。


「だけどな……」

「は、はい!」


 私は思わず背筋を伸ばす。


「あとがきの内容……ああいうのは直接言え。バカモノ」

「え!?ごめんどこ?後で読み返してみる」

「なんだと!?」

「しょーがないじゃん!緊張してたし初めての書籍作業で忙しかったし、でもテンション上がって長々色々書いてたし!」

「……そうか、そういうものなのか」

「そんなもんだよ」


 どの部分だろう?

 ほんとに結構書いたからなぁ。

 ひとまず、父は言うほど怒ってはいないようで一安心した。


「第一部だろう、どこまで話を考えたんだ?」

「今のとこ五部までかな」

「ほう」

「でもね!三部から先書くにはどうしても取材行きたいところあるし、担当さんみたいな人にも色々相談したかったから……だからどうしても賞とりたかったの!」

「賞金や、名声じゃないのか」

「そういう人もたくさんいるけど、私は〝続きをずっと書きたい〟って理由が一番大きいかな」

「なるほどな」


 そこまで話し、私は珍しく饒舌になる自分の姿が恥ずかしくなってきた。


「シャワー浴びて寝るね!おやすみ!」



昨夜ゆうべは寝ちゃっててごめんねー」

「いいよ別に」

「いつまで居るんだ?」


 達成感と充実感を得た翌朝。

 三人で食卓を囲んだ。


「午前中には帰ろうと思う」

「あら-、もっとゆっくりすればいいのに」

「母さんの言うとおりだ」


 たった一つの目的、確認は最高の形で済んだしね。もう満足!


「仕事たまってるからねー」

「家だとできないのー?」

「場所を選ぶ作業でもなかろう」


「決まったお店じゃないと無理なの。自宅でもほとんど書かないなぁ」

「あらあら」

「そういうものなのか?」


「私の場合は、ね」

「パソコンで打つの-?」

「タッチタイピングくらい覚えたか?」


 手元のスマートフォンを開く。


「私は大体これ!PCとも同期できるアプリだから、仕上げはそこかな」

「便利ねー」

「無視するな」


「うるさいなぁ、ブラインドタッチなんかできなくても困りませーん!」

「そういえば、あの本買ってきた日にお父さんね」

「言わなくていい」


「え、何!?お父さんが買ってたの!?」

「そうなのよー。それでねぇ……」

「母さん、言わなくていい」


「まあいいや、これ持ってくね。帰りに読んでからサイン書いて送ったげる!」

「あら、ありがとねー。でもペンならうちにも電話の横に」

「よせ、持っていくな!」


 母の指す場所に確かにペン立てがあった。


「ならここで……」


 表紙にサインを書きながら、さり気なく奥付を確認する。


『初版』


 私は、たまらなく嬉しくなった!

 

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