第100話『さすが勇者だ。不可能を可能にした』

 ローラン姫が養子で、ヴィトが正統な王位継承者というニュースは、翌日国中に告知された。

 きっといろいろ政治的な事とかもあると思うんだけど、思った以上に早くバラしちゃってたのでビックリした。これまで二十年も隠し通してきたことのはずなのに。


「それはちょっと違うだろ」

 シマはそう言って俺を見た。

 なんで? 今まで誰にもバレないように、ヴィトは静養中とかってことになってたのに。

「いや、ローラン姫が養子かどうかってのが国民に不安を与えるとしたら、そりゃ他に実子がいなかった場合だろうな。養子にするならいくらでも人間の子どもはいるってのに、何でそこで妖精エルフに国をあげちゃうんだって反発が起こりかねない。

 でも今はヴィトがいるだろ。しかもいい年でしっかりしてて聡明だ。そっちがちゃんと国を継ぐなら、今更ローラン姫を排除しようとは誰も思わないさ」

「それにお姫様、みんなに愛されてるしねー」


 ハヤはそう言って笑う。

 確かにローラン姫はみんなに愛されてる。それに今までお姫様がエルフなんだって話してた人だっているんだし、意外とみんな違和感なく受け止めてるのかもしれない。

「それにお姫様自身はエルフに戻っても何も変わらなかったもんな。昔からエルフみたいなキャラだったんだから、今更エルフになったからってこの国をエコに邁進させて滅ぼすとは誰も思わないだろ」

 いや、それは何かすごい極端な……

 王位継承者を外れたことで、ローラン姫はすんなり国事から手を引いたって言ってた。あとは全てヴィトに託されたのだ。


 レツがもし王子様だったら、レツがこの国継いだりとかあったんだろうか。


「いきなり王子様とか言われたら、レツくんじゃなくても拒否るって」

「むしろレツだからやっちゃいそうじゃね?」

「王子様レツも、それなりに面白い感じするけどー」

「お前たちは、国をぶっ潰すためにレツを王子にしたいんだろ」


 キヨが呆れたように言うと、三人はにたーっと笑った。怖い……この人たちのこういうのが一番怖い。でも聞いてるレツはにこにこ笑っていた。


 でも……俺はいつもみたいに笑ってるレツを見た。

 ある意味レツって、生まれてすぐに捨てられたって事だろ。そりゃこの国を護る結界に関わってくるんだから、ちょっと貧乏だとかそういうレベルでのことじゃなかったかもしれない。それでも、家族が選んだのはレツを手放すって事だったんだ。それなのに、全然恨んだりしてないのかな。

 俺だったらきっと……なんでって詰め寄るかもしれない。もし手放されなかったとしても、結果的にヴィトは封印されたりしたんだから、どっちがいいとは言えないけどさ。


「だって、家族捨てられないよ」

 家族? でもレツの本当の家族は王家の人たちだったんであって、むしろそっちは切り捨てちゃったような気がしなくもないんだけど。

 レツはにこにこしながらキヨに近づくと、怪訝な顔をしているキヨを覗き込んだ。


「キヨが不機嫌になったのって、家族取られちゃうと思ったからだよねー」


 にこにこ笑ってるレツとは対照的に、キヨは驚いたように目を見開いた。


 ……思い出せって言いながら思い出して欲しくないような顔してたり、あんな風に声を荒げたのは、本当はレツを、家族を取られたくなかったから? キヨだけがあの時、レツが王家の一員だと知っていたから、だからなのか?

 キヨは不機嫌そうに視線を外して「はぁ?」とか言ってたけど、他のみんなはにやにや笑っていて明らかにバレちゃってるみたいだった。


「ずっと一緒に育ってきた家族、今更なかったことにできるわけないよ」


 レツがそう言うと、ハヤがにやにやしながら「よかったね」と言ってキヨの頭を撫でた。キヨは鬱陶しそうにその手を払って「うるせぇ」と言った。


 もしかしてレツがシャマク王や家族や、彼らにレツを手放すよう勧めたはずの宰相まで恨まないのは、レツが仲間のみんなと一緒に育ってこられて幸せだったからなのかな。

 うわべは腐れ縁みたいな顔をして、誰よりお互いを信用してる、家族と呼べる仲間たちと。


「皆さん!」

 声に顔を上げると、ローラン姫が近づいてくるところだった。

「出てきちゃって大丈夫なの?」


 ヴィトを王位継承者にするって発表をしてから、何だかお城はいろいろ忙しくなってた。国の仕事なんてわからないけど、名前を変えるだけで済まない事とかあるのかも。


「ええ。私はこの国の王家の者ではあるけど、この国の行く末を動かす者ではありませんから。そういった会議の席には、もう出ないつもりです」

 それってやっぱり一般の国民の手前そうしてるのかな。でもみんなお姫様が大好きだから、やっぱり王家の中にいて欲しいと思ってると思うんだけど。

 でもローラン姫は俺たちにちょっとだけ屈むようにして顔を近づけた。


「それにホントの事言うと、ちょっと頑張れば離れてても声は聞こえるの」

 いたずらっぽくそう言ったローランに、俺たちは吹き出した。

「こんな魔法の力、いきなり渡されたら混乱するかと思ってたけど、なんだか不思議……すごく自然なの。昔から私の体に染みついてたみたいに」

「エルフは古代からの種族だからね。ちょっと隠したくらいでその血筋が変わるわけじゃないよ」

 ハヤはにっこり笑ってそう言った。


 ローランはやっぱり、みんなを明るくするような笑顔を見せた。こういうのって、エルフだから誰でも出来るってわけじゃないよな。

「それで、皆さんはこれからどちらに向かうんですか?」

 ローランに問われて俺たちは顔を見合わせ、それからシマが口を開いた。

「これって目的もないし。とりあえず一旦サフラエルに戻ろうかって話してて」


 サフラエルから旅を始めて、もうどの位経ったんだろう。

 あの時、俺は剣士の訓練も何もしたことがなかった。それでもみんなの仲間に入れてもらって一から教えてもらった。今では普通に冒険の旅に出るくらいにはレベルを稼いでる。


 そうは言っても見習いのレベルだし、まだまだ一人で戦えるレベルにはいないけど、このままちゃんと訓練を積めばギルド登録する時までに、ちゃんと一人前の剣士になれる。


「そう言えば、あんまりサフラエル離れて長くなる事ってなかったもんね」

「ちょっとホームシックとか?」

「それはコウだろ」

 キヨはそう言ってチラッとコウを見た。

 コウは何だか驚愕の表情でキヨを見たけど、キヨはもう全然違う方を見ていて、コウは納得いかない顔で眉間に皺を寄せていた。コウは難しい顔で鞍を直していたから気付かなかったけど、その後キヨとハヤがニヤリと笑い合っていた。


 バレて……るのかな。あの頃みんな全然知らない感じだったのに。

 コウも自分が意識変わったのわかってるから、あんな顔してたけど別にあのことがバレたってわけじゃないのかも……っていうのは、好意的に見すぎだな。この人たちのことだからそんなハズないよな。


 結局泊まらなかった宿から俺たちの馬は連れてこられていた。まさかお城のゲストルームに泊まれるってのに街の外れの宿に戻ることもない。

 シャマク王たち王族の三人はもともと粗食の人らしかったけど、ヴィトが『人前に出られるほど元気になった』お祝いということで、俺たちを招待してごちそうを出してくれた。妖精王との会食と同じくらい美味しかった。

 その席に、南の戦場からモンスターの出現がなくなったという通信が届いた。


 レツが王家を正式に出たことで、王位継承者はヴィト一人になったからだ。結界は正統な継承者を得た事で、きちんと安定を取り戻したのだ。

 あの戦場の事を思うとぬくぬくごちそうを食べてるのは悪い気がしたけど、でも俺たちは俺たちできちんとやるべき事をやったんだよね。俺は何もしてないけど。


 レツは既にシャマク王たちに話していたのか、発表の時にレツの存在は一切語られなかった。王家の人々は、シャマク王とジュルー王妃、それから養子のローラン姫と王位継承者のヴィトの四人のままだ。すでに王家との繋がりを切っていたからとは言ってたけど、それにしたって王家の実子には違いないのにな。

 レツとヴィトはまるっきり会ったことも話したこともないのに、まるで前から知ってるみたいに和気あいあいと話していた。それだって本当の兄弟だからって気がしなくもないのに。


「サフラエル……遠いところですね」

 ローランはちょっとだけ寂しそうな顔でレツを見た。

 お姫様だってレツとは義理とはいえ姉弟になるのに、もうちょっとゆっくりしてもいいんじゃないのかな。ヴィトが復活して、たった一日いろいろ話をしただけで、それで今日もう出発とか。

 ……みんなが、レツが家族と一緒にいるのを妨害したいとか。レツが王族と仲良くなって、やっぱり旅に出ないとか言い出すのを妨げるつもりで……

 俺はみんなをこっそり盗み見た。でもいつもと変わらず旅の支度をしているだけで何もわからなかった。


 それに、旅に戻ると宣言したのはレツだ。

 レツはやっぱりふにゃーって感じに笑った。


「うん、でも俺たちはいつも旅を続けてるから、来ようと思えばここにもすぐ来れるよ」


 そんなにすぐでもないと思うけど……それでもローランは嬉しそうに笑った。シマやキヨたちはちょっとだけ顔を見合わせて笑う。

「国に認められた勇者ってことは、もうギルド職業に戻らなくていいって事なのかな」

 シマはとぼけたようにそう言った。


 そう言えば結局みんな、宰相の申し出を断っちゃったんだよな。あの後会食の席でも正式にお願いされたってのに、みんなあからさまに興味なさそうな顔をしていた。根っから好きに動きたい人たちなんだ。


「あ、でも何か調べる時に図書館は使いたいかも」

 キヨが図々しくそう言うと、宰相は驚いた顔をしていた。それを見てシャマク王は吹き出した。

「ああ、好きに使うがよい。あれは国家の財産だ。それは国民の財産でもある。それにおぬしらが必要になって使うのは、人のため国民のため、ひいては国のためになるのだからな」

 寛容な王様がそう言ったので、宰相は駆け引き出来なくなってしまった。

 使う許可が取れないうちに図書館の本を借りパクしようとしてたなんて、口が裂けても言えないな……

 まぁ悪者から巻き上げた資産で自警団を作っちゃう人だし、私利私欲のために使うことはないだろうけど、また誰にも目的を話さずに勝手に使用しそうだよな。


 それでも結局その翌日一日は、シマとハヤとキヨはお城の機関でそれぞれの職業の統轄機関で何か助言を与えていたようだった。

 5レクスを越える旅を続けている高いレベルの冒険者の言葉は、室内で勉強を続けている人たちにとって有益な意見となる。コウも求められたらしいけど「鍛錬」とだけ言って逃げたらしい。


「才能まではカバー出来ないから、結局はガンバレとしか言えないんだけどねーみんな僕みたいに天才ってワケじゃないし」


 ハヤはそう言って笑った。まぁ……そこは確かにそうなんだけど。

 その上で、人の冒険者が持つレベルの印はいつか表示不可能になるかもしれないと教えてもらった。

 印はもともとギルドでの登録の時に、欲しい仲間の選別や給料を決めるために必要なものだ。だからレベルが表示するのは、5レクス圏内での旅で必要な強さまでだ。

 ただ表示がマックスレベルだとしても、それ以上の強さがないワケじゃないし、5レクスを越えて旅するのならもっと強さは必要だから鍛錬は必要なのだけど。

 でもお告げが来なくなったら勇者じゃなくなっちゃうし、お告げがいつ来なくなるかは誰にもわかんないのに、ずっと勇者一行でいられるんだろうか。


「お告げのシステムはイマイチ微妙だからな。それが勇者の能力なのかどうか……だいたいお告げを受けていれば、選んだパーティーまで5レクスを越えられる印を受けられるってのもわかんねぇし」


 キヨはそう言いつつ、何となくもうすでに考え始めてるようだった。


 5レクスの結界は、過去の妖精王が人間の王家と契約を結んで敷いたものだ。

人間側の要望は強力なモンスターをある程度結界の外から入れないようにするって事だけど、妖精王がそれに何を付加しているかはわからない。実際ヴィトの封印に関しては、ヴィトの精神を自由に国中飛び回れるようにしていたし、それがシャマク王たちの要望の一部じゃなかったことは明らかだ。

 魔法に多くを望めば、それだけ契約は難しくなるからだ。

 それじゃ5レクスの結界の契約には、何が含まれているんだろう。その魔法をかけた妖精王は、まだこの世界を旅している。


「……謎はまだまだいっぱいあるねぇ」

 ハヤはそう言って面白そうにキヨの肩に腕を載せた。

「旅は続くよどこまでも」

 シマはそう言って鞍に荷物を固定して、馬の肩を叩いた。

「サフラエルの部屋引き払って、旅暮らしも悪くないね」

 ハヤはそう言ってニヤリと笑った。キヨはちょっとだけ眉を上げた。

「コウも来るんならな」

 あ、そっか。コウがいなかったらご飯が不味くなるんだ。それは最悪だ。いや、もしかして今のって、コウがサフラエルの家族の元に落ち着くかもって事指してる?

「今更仲間はずれにしないでよ」

 コウはそう言ってキヨを拳で押すと、キヨは面白そうに笑った。

「っていうか旅暮らしだよ! これからずーっとみんなで!」

 レツがそう言うとみんなちょっとだけ顔を見合わせて笑った。


 それから馬に乗り込む。きっと王都の城門はごった返してるはずだ。

 昨日の発表の時、南の地区のモンスター騒動は収まったとシャマク王自ら報告したから、避難してきていた人たちがぞくぞくと自分たちの村に帰ろうとしている。

 しばらくは軍隊も、モンスターに破壊された村の再建に手を貸すらしい。


「お見送りが私だけでごめんなさい。お父様もヴィトもみな忙しくしてて」

「いいって、王様に見送られるとか落ち着かないよ」

「別に何にもしてないんだし」

「暇つぶしできたしね」


 ホントに暇つぶしで国を救っちゃったよ、この人たち。しかも昨日の協力で、いつ来てもすんなりお城に入れる王家の印もせしめたらしいし。

 不法侵入はバレてないっぽいけど、今じゃそれもいい思い出かな。俺たちは馬を門へと向けた。


「それでは、どちらへ行ってもお元気で」

「あ、それから」

 レツはそう言ってローランに向き直った。ローランはちょっと驚いてレツを見上げた。

「伝言があるんだ」

「伝言、ですか……?」


 ローラン姫はちょっとだけ、首を傾げてレツを見上げた。

 ローラン姫の話し方をみても、まだレツのことを弟とは思ってないみたいだ。でもレツは全然気にしてないみたいで馬上からローランを眩しそうに見た。

 ……そうか、レツがときどきローラン姫に見惚れてたのは、一度は思い出した家族の風景にいた人だから引っかかってたんだな。


「あー、そういえば」

「すごいなレツ、さすが勇者だ。不可能を可能にした」


 シマとキヨは小さくそう言ってコソコソ笑っていた。

 え、何の事? 何かあったっけ? レツはちょっとだけみんなを振り返ってからローランに向き直った。


「アーセンが、妖精王がね……姫が、妖精国の元に来てくれる日を待ってるって」


 え、そんな事言ったっけ!? いや、会うのを楽しみにしてるとは言ったけど、一応意味合いは違わないけど、何かそう言うとお嫁に来てくれるのを待ってるみたいに聞こえないか……?

 言われたローランは、あっという間に真っ赤になった。


「いえ、あの……それは……」

「レツくんは勇者だからウソはつかないよ」

「俺たちもその場で聞いたからなー」

「今すぐにでも奪いに行きたいみたいだったよね」


 真っ赤になって顔を伏せるローランに、みんなはたたみ掛けるように言った。

 いやーえーと、それはちょっと言い過ぎかと思うんだけど……


 でもローランはエルフだったんだし、それってつまり、もしアーセンと結婚することになっても妖精国の王家の魔法が絶える事はないってことじゃん。

 しかもローランは人間王家の一員なんだから、これって両国にとってもいいことなのかも!


「超期待しちゃっていいと思うよ。お姫様がエルフってわかったから、お迎えに来るかもね」

 俺が言うとローランは両手で頬を包みながら、上目使いで俺たちを見た。

「あ、あの……あの、ありがとう、ございます……何もかも」

「エルフは気が長いから、お姫様から押して行っちゃうってのも手だよ」

 ハヤがそう言ってウインクすると、ローラン姫は更に赤くなった。

 俺たちは笑って馬を城門に向けた。

「さて、行きますか」

「姫もお元気で」

 ローランは拗ねたような顔をしていたけど、それから吹き出すように笑って手を振った。

 俺たちも馬上から手を振る。お城の城門の門番も、笑顔で手を振ってくれた。


「王都ともこれでお別れか」

 シマはそう言って肩越しにお城を振り返った。

 みんなも何となく振り返る。


 明るい太陽を背負った、そびえるような城。

 このお城に、この王都に、あの王様の前に立つことに、どれだけ憧れてただろう。

 みんなと旅を始めて、全くのゼロから始めてここまで来た。みんなに助けられて、教えられて。そうやってここに辿り着いた今、あの頃とは全く違う気持ちでこの城を見上げている。


 あの頃の気持ちだって間違いじゃない。今なら逆にそう思える。だけど、それだけじゃないって事もわかってる。


「やっぱり俺……」

 呟いた言葉に、ハヤが俺を見た。

「……やっぱり俺、勇者になりたいな」


 絶対何か言うと思ったのに、みんなは何となくそっと笑っただけで何も言わなかった。


 やっぱり、勇者になりたい。

 コウみたいに強くて、キヨみたいに頭が回って、シマみたいに周りが読めて、ハヤみたいに絶対的で、レツみたいに……レツみたいに弱くて強い、勇者になりたい。


「……なれよ」

「え、」

 驚いて振り向いたけど、もうみんなとっくに馬を進めていた。

 え、今の、誰が言ったの? 風が運んできた声みたいで、誰が言ったのかわからなかったんだけど。っつか、空耳?


「何やってんだ、行くぞ」

「のろのろしてっと、おいてくぞー」

 キヨが俺に気付くと、先を行くシマが振り返って言う。

 いや、今誰かがですね……まぁ、いっか。

 俺はもう一度城を見上げてから、気持ちも新たに馬の向きを変えてみんなに合流した。


「あ!!」

「何だよ、忘れ物か?」

 広場に出たところで唐突にレツが声を上げたので、シマが小さくため息をついて言った。でもレツはシマを見て、何だかゆっくり首を振った。キヨは怪訝な顔をする。


「なんだよ」

「……お告げが、来ちゃったみたい」

「えええええ!!」


 それって今受けたんだから王都に関わるもん? そしたら出発は取りやめなのかな?

「……絶妙すぎるタイミング」

 ハヤが呆れたようにそう言うと、コウが「あー」と言って空を仰いだ。キヨは頭をかいている。

「もう出るとこだし、行き先決めてあるから何とも言えねーな」

 そしたらサフラエルに関することなんだろうか。こんだけ離れたところからサフラエルのことじゃ、辿り着くまでに状況変わってそうだけど。俺たちはレツを見た。レツは拗ねるように唇を尖らせていたけど、吹っ切るように一つ強く頷いた。

「ここに足止めってのは違う気がする。旅に戻るよ」

 それから顔を上げるとみんなを見て、いつものようにふにゃーって笑った。


「旅に戻るよ」


 レツが言い切ると、みんなはチラリと視線を交わした。

「はい、勇者命令出ましたー」

 シマが面白そうにそう言うと、みんなは笑って馬を進めた。


 俺たちは旅に戻る。

 勇者に続いて、そのお告げをクリアするために。誰かのためになる、お告げをただひたすらクリアするために。


 レツは今見たばっかりのお告げなんか気にしてないみたいに、おやつにお菓子を買ってから出ようとか言ってる。シマはバナナはおやつに入らないとか力説してる。キヨはおやつならコウに作ってもらえとか言ってる。ハヤはカロリーは少ない方がいいなとか言ってる。コウは既にメニューを考えてるのか難しい顔をしてる。

 全然勇者一行っぽくない、このパーティーが。


 最弱で最強の、俺たちの勇者に続いて。

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Ⅰ勇者になるハズの俺がしょうがなく見習いとして入ったのは、ゆるふわ勇者とチートな仲間 さい @saimoon

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