第3話 夢は過去につながる記憶
「おい、ジーナ。明日は魔王城へ行くのだぞ!」
「だいじょうぶだって〜。おれにはなかまが」
「ユーブラ。そろそろジーナを酔いから……」
「ああ、そうだな。今日ぐらい気を抜いたっていいと思っていたんだが・・・ って、なんだこれ? おい、ジーナ! これは宿屋のじいちゃんの酒じゃないか!!」
――あれ? ここは…… どこかの部屋?
なんで皆がいるんだっけ?
たしか、居酒屋でそのあとにカマばあちゃんが…… なんだっけ?
「――カリーナ、大丈夫か?」
「えっ」
目の前には、なぜか懐かしいと思えるパーティーの皆がいる。
ユーブラは左手を負傷して、セリーヌは姿が分からないほどに厚い装備を着用していて、ジーナは酔っ払っている。
いつもの仲間たちだ。
「カリーナもぼっとしてないで、明日は魔王討伐だぞ」
「明日?!」
「おいおい、カリーナまで酔っているじゃないか」
魔王討伐って10年前に終わったよね・・・ ん?10年前ってなんだ?
やばい、今日はわたしもジーナみたいに酔いが酷いかもしれない。
一人で魔王の幹部を全滅させたからって、勢い余っていつもの二倍の酒を飲むんじゃなかった。
「セリーヌ、いったん俺も含めて解毒剤をくれ」
「私は飲まなくて良かったよ、ホントに」
セリーヌは3人に無理やり解毒剤を飲ませ、場は一気に静かになった。
「よし、ジーナは大丈夫か?」
「ああ。酒はいつも俺を変えちまうぜ」
酔いが少し残っているかもしれない発言だが、顔を見る限り大丈夫そうだ。
「カリーナは?」
「そっか、わたしもジーナと一緒か……」
「なんで落ち込んでいるんだ? もしかして俺やらかした?」
「いや、ジーナは何もしていない」
「そっか、それは良かった」
がっかりだ。
ジーナをあれだけバカにしておいて自分も酔ってしまうなんて、恥ずかしい。
お酒は控えよう。暫くの間。
「まぁ、カリーナ。そういう辛いことがあれば、お酒を飲んで楽しくなろうぜ、俺みたいにな」
「バカ」
「あれ、励ましたつもりなんだけど……」
ジーナは頭をかしげて落ち込んだようすで、セリーヌとユーブラは少し笑っているようだった。
「じゃあ、明日の作戦会議を始めようか」
ユーブラの合図と同時に、皆は酒のグラスを机の上に置き、正座をして、場の空気が一瞬にして真剣なものとなった。
「これが最後の会議ですか」
「今まで楽しかったな……」
「死亡フラグみたいなこと言うな」
「では、最初に・・・」
最後の作戦会議が始まった。
◇◇◇
最後の会議とは言ったものの、特に変わったことは無かった。
敵の配置とわたし達の配置、そして互いの戦闘の仕方や掛け声、そして持ち物といった確認で終わった。――のだが、皆は頭を悩ませていた。
「とはいったものの…… 魔王は厄介だな」
「魔王の呪いが特に」
「そうだな」
"魔王の呪い"
それは、魔王が放つ異臭を吸った者や、魔王が放つ言葉に耳を傾けた者がかかると言われている呪い。
その呪いにかかってしまえば、魔王の言いなりになり、心の奥底で隠している秘密を暴露してしまうと言われている。
だれもがその呪いを恐れていた。
「俺達にしている秘密はないよな」
下を向いているわたし達の方を見て、ユーブラが問いかけてきた。
だれも顔を上げない。
「そ、そういうユーブラは何かあるんじゃないのか!」
「そうです、そうです。いつもユーブラの部屋から物音もしますし」
セリーヌとジーナは負けじとユーブラに言い返した。
しかし、ユーブラは顔をちっとも変えない。
ユーブラは少し何かを考えている素振りをみせてから口を開いた。
「ああ。俺だってお前達に隠していることはあるさ」
「あるんだ……」
ジーナは驚きのあまり、口が開いたままだった。セリーヌは解毒剤を袋にしまう作業を止めた。
そしてユーブラは、一瞬わたしと目があったように感じたが、すぐに目をそらし、セリーヌ、ジーナと他の仲間を見回した。
「好きだ 俺はこのパーティーメンバーが。だからこそ一つだけ嘘をついてしまった」
意外だった。ユーブラがわたし達のことを好きだと言ってくれたこと。
長年一緒に旅をしていたが、ユーブラは自分よりも他人を優先する人だから、そういう思いは初めて聞いた。
ジーナもセリーヌも、この空気になるとは思っていなかったのか、黙っている。
「ジーナ。俺はおまえと出会った時、周りの人を助けたい。平和にしてみせる。と、いろいろ夢を語ったな」
「たしかに、言ってたな」
わたしには何の会話をしているのか分からなかったが、ユーブラの夢がそのようなことだとは、ジーナから聞いた気がする。
「俺、本当はな。遥か遠くにある、未だ誰もが到達したと言われていない街"マンジュギク"へ行ってみることが夢なんだ」
「"マンジュギク"?」
聞いたことがない街名だった。
正直、もうユーブラやジーナ、セリーヌと出会えただけで幸福なことで、ユーブラの本当の夢にはあまり驚きはしなかった。
そして、ユーブラが意外と自分のことも考えていて、なぜか嬉しくなった。
「嘘をいうほどのことか?」
ジーナも驚いている顔をしておらず、前から分かっていたような顔だった。
「いや、これはカッコいい自分を作り上げたかったっていうやつなんだ。すまない、自分勝手で」
ユーブラは頭を下げていたが、誰も怒ることなく、ユーブラの頭が上がるまで、静かに待っていた。
「んで、その"マンジュギク"っていう街には何があるんだ?」
「それは弟が言っていたんだが・・・」
すると、その時
誰かが扉を強くノックし、勢いよく扉を開けた
「だれじゃあぁぁぁぁぁぁ!! わいの酒を飲んだやつはぁぁぁぁぁ!!」
現れたのは、酔っ払っていた宿屋のおじちゃんだった。
そして、わたしはあまりの声の大きさに気絶して、長い夢から目を覚ました。
◇◇◇
「朝か……」
朝、気持ちよく目を覚まして、ベッドから降りる。そして歯を磨き、朝食を食べ、あの準備した服に着替える。
そして時間を確認する。
「9時34分」
たしか、噴水前に8時に集合だったはず。
あれ? 9時・・・9時・・・9時・・・8時……
「あっ」
結成1日目。
わたしは遅刻した。
芽生えるマリーゴールド 〜魔王を倒して10年、英雄達は宝探しの旅に出る〜 @ichiwalu1
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