第2話 時を経ても変わらないもの
店を出ると、灯りがもう灯されていなく真っ暗だったので、旅立ちの日は明日の朝となった。
とりあえず、わたしは宿屋へ泊まることにした。
「あら、カリーナ様。もうお帰えりになられたのかい」
「ただいま。カマばあちゃん」
「おかえり」
この宿屋は12年前ぐらいだろうか、カマばあちゃんが魔王軍から襲われている際に助けてからお世話になっている宿屋だ。
宿費は無料。そして食事も高級食材を使ったサービス付きで無料。
ここでは、あの日以来、わたし達を神様のように扱ってくれる。
さすがにわたしも毎日おろうなんて卑怯なことはしたくはないが、今は異常な金欠のため、泊まらせてもらっている。
「どうだい? 久々の仲間たちは」
どう?って言われても、セリーヌはいつも通りな振る舞いで母親だったし、ジーナだってお酒を控えてすらないし、ユーブラも優しかった。
わたしもどうだったのだろう。
皆みたいに、いつも通りに接して笑っていただろうか。
「そうだな…… あいつらはあいつらのままだったよ」
「そうかい、そうかい」
そう言うと、カマばあちゃんはなぜか嬉しそうに笑ってくれた。
そして、わたしは自分の部屋に戻り、明日の支度へと急いだ。
◇◇◇
明日は門前の噴水に集合となった。
そして、戦闘服での集合ともユーブラに言われた。
――今、わたしは焦っている。
戦闘服をどこにやったかが、全く思い出せない。
気分転換のために魔王を倒したあと、別の服になったことは覚えている。
それ以降から戦闘服は一度も来ていない。
(どうしよう……)
わたしは久々に全知能を使って本気で考える。が、答えは出てこない。
とりあえず、部屋の中を探すことにした。
―10分後―
「やっぱないか……」
昔に来ていた戦闘服がどこを探しても見当たらない。
ほんの数分まで綺麗に片付けられた部屋が一瞬にしてゴミ屋敷となっている。
(このままじゃ……)
わたしだけ違う服になったら、あの昔に味わえた風景、会話が感じれなくなってしまう。
疎外感につつまれるような気がしてたまらない。
――いや、わたしが今まで信じて旅を共にした"ジュセカ"はそんな弱いものではない。
居酒屋の雰囲気だってそうだったじゃないか。
あの場はあの日のままだった。
何年経とうが、酒癖が変わろうが、あいつらはあいつらのままだったんだ。
わたしもそのあいつらの一部だ。
わたしが変わったって、仲間たちも一緒に変わってくれるはず、ついてきてくれるはず。
「これにしよう!」
そう思い、わたしは戦闘服とは違って、最近着るようになった青のジーパンと緑と白のシャツを合わせた、少しオシャレな服装にした。
新しいわたしについてこれるか、という挑戦状みたいな感じだ。
ジーナ辺りがいじってくれるだろう。
「カリーナ様。ご飯を召し上がれますよ」
「ありがとうございます」
服を決めると同時に、カマばあちゃんがご飯の支度をし終わり、ドア越しに教えてくれた。
「あれ?」
食卓へ行くと、いつもと何か雰囲気が違っていた。
いつもの2倍の量の料理があり、酒が沢山並んでいる。
今日はカマばあちゃんの祝いの日か、わたしが何かした特別な日なのだろうか。
「どうしたのこれ?」
すると、カマばあちゃんはわたしを椅子に座らせてから酒を入れてくれた。
「カリーナ様、今日でお別れでしょうから、今日はゆっくりなさってください」
「あれ、どうしてそれを……」
カマばあちゃんには明日出ていく際にでも言っておこうと思ったが、どうやらバレてしまったらしい。
服を探す音がうるさすぎて聞こえていたのだろうか。
「帰ってこられたカリーナ様のお姿が、あの時と同じになられたからですよ」
「あの時?」
「パーティーの皆様との旅が楽しくてしょうがない、それはまるで子どものような、そんなお姿です」
「――そ、そう。そんな姿を見られてしまったか。すまない」
「いえいえ。旅をする者は皆さんかわいい表情をするものです。どうぞ、ごゆっくり」
こうして、英雄と呼ばれたパーティーが再結成となった今日、わたしは宿屋でゆっくりと1日を過ごした。
そしてそのあと、わたしはまるで遠足に行く子どものように、いつもより早くに眠りについた。
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