探し屋と常勝無敗の武神 後編

「おはようございます」

「お迎えにあがりました!探し屋様!」

探し屋がまだ開ききっていない眠い目をこすりながら外に出ると、宿には既にサミリフたちが到着していた。セシーラの快活な発声に思わず耳を塞ぎそうになる探し屋。


「それで、移動手段は?」

「歩きですね!」

「は?」

「セシーラ。失礼しました探し屋様。馬車を用意させていただきました。ただし森林に入りますと馬車では移動が難しくなるので、そこからは徒歩になります」

「ですです」

「はあ」

団長クレマに会えることが余程嬉しいのか、やけにテンションの高いセシーラの不足の過ぎた説明に押される探し屋。それを咎め、補足するサミリフ。探し屋は今のやり取りから、この先の日帰り予定の旅に少々の不安を覚えるが苦笑いで留める。


「では参りましょうか」

そんな探し屋の心情はいざ知らず、サミリフは白い歯を見せて爽やかに旅立ちを宣言した。


♢♢♢


旅は探し屋の想定を裏切り、意外にも順調だった。馬車を操る御者がこの街指折りのベテランであったことが大きい。積み上げた経験が物を言うのか、乗り心地は非常に良い。これ程の腕を持つ御者、恐らく雇うのにそれなりの資金を費やしたであろうと探し屋は思慮を巡らせる。


(この御者はもちろん、私を雇うのにも大金を支払っている。この二人、否、傭兵団と街にとって、クレマという人物の存在はそれ程に大きなものなのだろうな)


「どうかされましたか?」

「いいえ。少し考え事をしていただけです」

「そうですか」

「はい。…そういえば、なんですが。何故あなた方は私をご存知だったのですか?私は良くも悪くも、それなりに名を知られる方がいらっしゃると自負していますが、しかし私があの街に来たのは二日前のことです。そしてあなた方が訪ねてきたのはその翌日。いくらなんでも早すぎるような気がします。特筆すべきような行動もしていないですし」

「そうですね。ただ、私共も特に誰かから聞いたという訳ではないんです。言うなれば風のうわさというやつでしょうか。『何でも探すことのできる探し屋が街に来たみたいだ』と。我々は今このような状態ですから、藁にもすがる思いで傭兵団の人間を派遣したところ、探し屋様が宿泊されている宿の情報を掴んだという経緯になります」

「風のうわさ、ですか」

「御者さん!止まってください!」

サミリフと探し屋がそんな会話をしていたとき、外の様子を確認していたセシーラが唐突に叫ぶ。


「あれは…昨日仰られていた野盗、ですか」

「ええ残念なことに恐らくそうでしょう。御者殿、森林まではもうあまり遠くありません。馬車は目立ちますので、我々はここからは徒歩で向かいます。もちろんお題は当初の額を支払わせていただきます。契約通り帰りの際も利用させていただきたいので、夕頃にこのあたりでまた落ち合いましょう。では」

サミリフがテキパキと指示を飛ばし、探し屋一行はこの先の道を徒歩で進むこともなった。その決定を受けて、探し屋が嫌そうな顔をしていたのは言うまでもない。


◇◇◇


「で、わざわざ目立たないように徒歩を選択したのにも関わらず、どうして我々は野党に絡まれているのでしょう」

数十分後、探し屋たちは野党に囲まれていた。今もガヤガヤと騒ぎ立てている総勢六人。

そんな中、探し屋は少し棘のある言葉をセシーラに向けて放つ。それを受けたセシーラは申し訳なさそうに顔を両手で隠し、サミリフは苦笑いをした。


「まさかこれから森林に入るというのに、虫にあれほど大騒ぎするとは…」

「すみません…」

赤らめた顔を少し見せながら謝罪するセシーラ。


「まあいいです。それで、どうしますか。私は荒事に向くようなタイプではないのですが」

「それならば心配はいりません。先程は情けない姿を見せましたが、これでも我々は傭兵団屈指の実力を備えています。この程度の人数ならば問題ないでしょう。ここは我々が対処しますので、探し屋様は先へどうぞ。すぐに追います」

「わかりました。ではお二方、ご武運を」

サミリフの提案に、探し屋は待っていましたとばかりに即答する。


「お前ら状況わかってんのか?行かせるわけねえだろ。特にそこの紫のスーツ。お前が一番持ってそうだからな」

野盗のリーダーらしき人物が探し屋に近づき、武器を持って威嚇する。刹那、割って入るサミリフ。腰から引き抜いた刃の先は、野盗のリーダーの眼前で止まる。


「あなた方のお相手は、この傭兵団副団長サミリフが務めます」

「同じく傭兵団攻撃隊長セシーラ、クレマ様に恥じないような働きをお見せしましょう」


♢♢♢


「誰だ。…野党ではなさそうだな」

森林の奥深く、探し屋は目的の人物を難なく探し当てた。美しい赤い髪に赤い目が特徴な整った顔立ち。美女、という言葉で表したい人物であるが、彼女から発せられる獣のような野生の殺気がそれを妨げる。そして何よりサミリフらと同じ服装と剣。間違いなくあれがクレマだろうと探し屋は確信する。


「私は探し屋と呼ばれているものです。敵意はありません。この度は傭兵団のサミリフさんとセシーラさんからご依頼をいただき、ここへ参りました。あなたが傭兵団団長のクレマさんですね」

「サミリフとセシーラが?…そうか。あぁそうだ、オレがクレマで間違いない」

「お二方をはじめ、傭兵団の皆さんがクレマさんのお帰りを心から願っているようです」

「…だろうな。わかった。戻ろう」

驚いたことに、クレマは何の躊躇もなく帰ることを選択した。特に荷物があるわけでもないのか、すぐに探し屋の横を通った。


その反応を見た探し屋は、これ以上の厄介事にならないことにホッと胸を撫で下ろすが、しかし同時に引っかかるものがあった。それを口にしてしまえば、このあと面倒な展開になるかもしれない。それは探し屋にとって好ましいことではないが、すれ違った際に見せたクレマの目が気になってしまった。探し屋はこれまで幾人もの行方を眩ませた人物たちを探し当ててきた。それは悪人に拐かされた者であったり、災害によって行方がわからなくなっていた者であったり、そして今回のように自ら進んで姿を消した者であったりと色々だ。その中で自ら進んで姿を消した者は、大抵の場合は何かしらから逃げた者たちだ。そして逃げた者たちは帰りたがらない。当然だ。帰れば逃げるきっかけとなった事柄と対面するからだ。だが稀に今回のクレマのように帰ることをすぐに受諾する者もいる。そうした者は、逃げたことで心の整理がついた場合であったり、もしくは時間の経過と共に原因が解決したりする場合であったりするが、いずれにしても彼らの目はどこか決意に満ちた力強い目をしていることが多い。だが今回クレマが見せた目は違った。濁った目。恐らくは逃げる前と変わらない追い詰めた目だ。そうした者が辿る末路を、探し屋はよく知っている。だから、口に出してしまった。


「いいんですか。帰っても」

「む?どういうことだ。お前はオレに戻るようにと言いに来たのだろう?」

「まあ、仕事内容的には探すだけなので、既に終わってるのですが。…そうですね。戻るように説得しに来たと捉えていただいて構いません」

「ふむ。では何故、先のような問いを?」

「あなたは、心の底からの感情で帰ることを選択しましたか?」

「……」

「余計なお世話、であることは理解しています。が、察するに、あなたがあの街から去った原因は解決していないのではないですか」

「…そうだな。だが帰らねばならん。サミリフたちにも心配や迷惑をかけてしまった。何せオレは『常勝無敗の武神』だ。抜けた穴は大きいだろう」

「ええ、まさにそのとおりです。あなたが居なくなったことで傭兵団は大騒ぎらしいですよ。まだ一般の方へはその話は届いていないようですが、あの心酔ぶりを見るに、大変なことになるでしょうね」

「はは。そうか、お前もあの街の様子を見たか。そうだろう。オレは『常勝無敗の武神』。この二つ名を知らない人間はあの街には居ないだろうさ」

「…それなんじゃないですか」

「何がだ?」

「あなたが街を去った理由は、『常勝無敗の武神』の語り草。それなんじゃないですか?」

「……何故そう思う」

「先程からその肩書を口にする度に、無意識でしょうが歯を食いしばっています。経験上、そうした仕草はストレスあるいは緊張した際に起こすものだと私は知っています」

「はは。なるほど。お見通しってことか」

「そのようですね」

自身の悩みを言い当てられたクレマは、語り始める。


「オレはな。情けねぇが怖いんだよ。期待を裏切り失望されるのが。今の立場を失うのが。常勝無敗、常に勝ち続けることが義務であり、負けることは許されない。それがオレだ。オレを慕う連中は、オレが負ければどんな顔をするだろうか。『何だこの程度か』とそう思うんじゃないか。そうして常勝無敗でなくなったオレは、用済みになるんじゃないか。いつか来るかもしれない未来が恐ろしいんだ。だが、こんなふうに敗北することを想像するオレは本当に強いのだろうか。これまでの勝利は実力通りの結果だったのだろうか。仮にそうならば………。だってそうだろう。真に強いやつが負けるはずがないし、負けることを想像するはずがない。だから勝つしかない。勝ち続けて強さを証明していくしかない。永遠に常勝無敗でいるしかない。…オレはそのプレッシャーから逃げたのさ」

苦しみながら言葉を吐き出すクレマ。


「あなたは常勝無敗だからというだけで、慕われていると思っているんですか」

「わかんねぇよ!」

「そうですか。ではここであなたのその肩書を降ろしてあげましょう」

「…は?どういうことだ」

「わかりませんか?私があなたと決闘して勝つと。そう言っているんです」

「ハッ。笑わせんじゃねぇよ。お前みたいなのがオレに?無理だ。馬鹿馬鹿しい」

「面白いものですね。負けるのが怖くて、期待を裏切るのが怖くて、つまりは自分以上の存在がいつか現れることを認め怯えていたはずなのに、私があなたに勝てると言えば、真っ向から否定する」

「てめぇ。オレの嘆きを聞いて、その上でふざけてんのか?悪いがお前は弱い。怪我したくないなら前言を撤回しろ。お前も街から来たなら知ってんだろ?オレは決闘を断らない」

「ふざけてなどいませんよ。私は弱いですが、それでもあなたに勝てると自信を持って言っています。…本当にそれにしても、あなたは見えない存在に恐れを抱いているのに、いざその恐れの正体であると発言する人間が現れればここまで否定的なのですね。プライドなのでしょうか。あなたのプライドは何を根拠に成形されているのでしょうか。それを紐解けば、そこに解決の糸はありそうなものですがね」

「…どうやらやるしかないようだな。悪いが手加減はできないぞ」

「ええ、結構です。ここには第三者がいませんので、勝ち負けの判定はわかりやすく先に地に膝をついたほうでいいですか?」

「それで構わない」

「ではそうですね。もう少し開けた場所に行きましょうか」

移動し始める探し屋とそれを無言で追うクレマ。


「このあたりでいいですかね」

「…」

飄々とした様子の探し屋に対し、クレマは出会ったとき以上の殺気を見せる。探し屋はそれを受けても動じず、近くに落ちていた手のひらに収まる程度の大きさの石を拾う。


「ではそうですね。はじめの合図は、この石を投げて地に落ちた瞬間にしましょうか」

「…なあ、もう一度聞いておく。本当に撤回する気はないんだな?今ならまだ間に合うぞ」

「ええありません。私は勝ちますよ」

「そうか。残念だ。じゃあ始めてくれ」

「ええ」

探し屋とクレマは一定の距離を取り向かい合う。

そして探し屋は先程拾った石を高く投げた。

そして秒数にして2秒弱。地に落ちる。

先に反応して見せたのはクレマ。

『常勝無敗の武神』と称される彼女は、常人の域を遥かに超えた瞬発力を見せた。そして柄に手をかけ…


◇◇◇


クレマ・セウティスキー

幼い頃から彼女は武の天才だった。

高い身体能力はもちろんのこと、何より飲み込みが早かった。名家に生まれた彼女は、多くの師がついた。そしてその師らの教えのすべてを彼女はものにした。彼女は自分にできることが増えるたびに、母親に強くアピールした。母親はそれを見ていつもとても喜び褒めた。セウティスキー家に集まる多くの人も彼女を褒めた。その笑顔を見るのがクレマの楽しみだった。


転機が訪れたのは15歳のときだった。

彼女の父親はその数年前に家業を継いだが、才の無かった父は、セウティスキー家が名家たる所以であるその家業で大きな失敗を起こしてしまった。そしてセウティスキー家は没落した。

結果、これまでセウティスキー家を支援してきた者たちは離れ、クレマを幼い頃から指導してきた師らも去り、母も家を出ていった。


クレマは絶望した。

苦しんだ。嘆いた。血を吐いた。

これは夢だと言ってほしかった。

だが彼女はもうひとりだった。

誰も彼女の心に寄り添わなかった。


そしてクレマはこう感じた。

『価値ある人間の元には人が集まる。一人になりたくないのならば、価値ある人間であり続けろ』


その後、彼女は弱き人を守る活動を始めた。

彼女に残った武という力をもって。

誰かにとって価値ある人間であるために。

そうしてその行動に賛同する人間が集まり、傭兵団ができた。


♢♢♢


クレマの膝は地についていた。

否、膝ではなく全身が地についていた。

探し屋は前のめりに倒れているクレマの前で立っていた。


「…な、にが」

驚きを隠せないクレマは思わずそう溢す。


「簡単に言えば私の装備の能力ですよ。あなたの剣と一緒。装備です」

探し屋はそう言って、握った手の中にある小さな黒いボールのようなものを隙間から見せた。


「重力玉と言います」

「重力、玉?あの重力玉か!?神話の装備じゃないか!実在しているわけがない!」

「まあ私も最初はそう思ってたんですが、意外にもあったんですよね。握るだけで自身の周りに大きな重力を起こせる武器。そんなものがあるなんて驚きですよ」

「…仮に本物だとして、何故、お前が持っているんだ」

「まあ、"探し屋"ですから」

「…ハッ、そうかよ。…オレの負けだ。さっさと解除しろ」

「わかりました」

探し屋は重力玉の効果の発動を停止させ、重力から解放されたクレマはゆっくりと立ち上がる。

そして暗い顔でこう呟いた。

「これで、終わりか…」


その様子を見て、探し屋はこう返す。

「いいえ」


「クレマさん。私は成績というものに過度に固執する必要はないと思うのです。いえ、もちろん成績の存在をすべて否定するわけではありません。成績があるからこそ地位は確立しますし、それはどう取り繕うとも歪ませることのできない真実です。ただし、成績の上の数字というのは、あなたをわかりやすく測るための物差しのひとつでしかありません。言ってしまえばそれはあなたの装備です。決してあなた自身ではない」


「私はあなたに勝ちました。しかし私は優れた装備のおかげで勝っただけです。もし装備を外し服を脱ぎ捨て、その身一つで戦えと言われれば、膝を付き敗北するのは私でしょう。戦の場で鍛えられた肉体、思考、判断力。時間を費やし経験の上で成ったものは代え難い。私は弱く、あなたは強い。そう。成績なんて装備がなくともあなたは紛れもなく強いのです。今ここで初めての敗北をし、無敗が一敗になったとしても、あなたは強いのです。所詮、その上の数字はイレギュラーひとつで変動するもの。それでも拘るのならば結構、しかし縛られるのであればもはや足かせでしかない」

探し屋はクレマを真っ直ぐに見つめて話す。


「でもよ。だったらなんでお母様たちは…」

クレマは何かを言いかけてそこでやめた。

その様子を見た探し屋は続ける。


「改めてお聞きします。あなたは常勝無敗だからこそ慕われていたのですか。であるのならば、その肩書が変わったあなたはもう慕われないのでしょうか。……………いえ、この先は私が言うべきではありませんね」


「「クレマ様!」」

「サミリフ、セシーラ?」

「はい!サミリフです!お迎えにあがりました!」

「うぅ。よかっだ!また会えてよがっだ!」

そこに現れたのは、野党を片付けてから探し屋を追うと話していたクレマを慕う二人だった。


「お前たち…オレは…」

「負けたんですよね」

サミリフがその言葉を口にする。


「見ていたのか」

「正確には負けられた後、ですが。探し屋様がお話になられているので、機会を伺いながらお待ちしておりました」

「おりました"」


クレマは悲しい顔をする。

「オレは、常勝無敗ではなくなった。これでもう…」

クレマがみなまで言い切る前にサミリフが遮る。

「はい。私たちの敬愛する強い団長です!」

「私たちの団長でず!」


「だそうですよ。クレマさん」

「…そうか」

そう言ったクレマの目はもう濁ってはいなかった。


♢♢♢


その後、探し屋たちはクレマを連れて馬車へと戻り、更にそこから時間をかけて街へと戻ってきた。日が沈む前に終わるはずだった旅は、月が照らす夜に終着した。しかし、この街は酒が盛んな街だ。夜と言っても街は明るい。


「では、これがお約束していた報酬です」

サミリフが探し屋に後払いの成功報酬を手渡す。


「これからどうされるんですか?明日はクレマ様がお帰りになられたことを祝うパーティーを傭兵団で行う予定なのですが、是非探し屋様を招待させていただきたく!」

馬車の中でクレマから今回の顛末を聞き、泣きじゃくっていたセシーラはすっかり元の元気なセシーラに戻っていた。


「そうですね。明日の朝にはこの街を発ちます」

「そうなのですか…。それはとても残念です。ならば今ここで改めてお礼を。探し屋様。クレマ様を見つけてくださったこと、本当にありがとうございました。全傭兵団員を代表して感謝申し上げます!」

「いえいえ。依頼ですから。…あの、頭あげてください」

頭を深く下げ続けるセシーラに戸惑う探し屋。

そんな様子を見かねてクレマが助け舟を出す。


「ところで探し屋、お前はどこまでわかっていたんだ?」

「と、いいますと」

「とぼけなくていい。どこまでお前の想定通りだったんだ。探し屋の能力は馬車で聞いた。"探した"んだな?オレの過去の記憶を。能力を使ったのは…恐らくは帰ろうとするオレを引き止めたあたりだろう」

「さあ、どうですかね」

「話す気はなさそうだな。ならいい。だが見くびるな。オレは多くの人間を見てきた。追い詰められていたあの場ではわからなかったが、その程度のことわかるさ」

この話をよく理解できなかったであろうセシーラは、いつの間にか頭を上げて、愛想笑いをしてから改めて探し屋に向き直す。


「あの、本当に明日の朝に出発されるんですか?もう少し滞在なされてもいいのでは?我々は歓迎しますよ!」

「まあ、一日二日ぐらいなら別にいいんですけれどもね。ただ今日の話が出回ると、依頼者が多くなるかもしれませんので」

「探し屋様が街を出られるまで、我々が口外しなければいいのでは?」

「かもしれませんけどね。ただ」

「ただ?」

「風のうわさ、というのがありますからね」


♢♢♢


探し屋が街を離れてから数日後、クレマの行方がわからなくなっていたこと、とある協力者の尽力により発見されたこと、そしてその協力者にクレマが敗れたことが、傭兵団により街中へ伝えられた。


人々の反応は、まずは驚きから始まり、クレマが無事だったことに安堵することに着地することが多かった。また一部ではあるが、クレマが敗れたことに対して彼女に辛辣な言葉を投げかける人間も確かにいた。しかし「ならば自分自身がクレマと決闘してみろ」という論調が人々の中であったことで、すぐにその辛辣な声は消えていった。


そしてクレマはその日からこう自らを称するようになった。


「傭兵団団長『常勝一敗の武神』クレマだ!その決闘!受けて立つ!」

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探し屋さんは最期に旅をする 赤路湊 @akamina

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