第45話 体育祭の種目決め

「種目はこんだけあるから。じゃー、ちゃちゃっと決めちゃおうぜー」


 体育祭実行委員会の真人が一人サクサクと説明し、もうひとりの実行委員がちょっと待てと苦言を呈しながら、慌ててチョークで黒板に種目を書いていく。


 6月頭に体育祭があって、今はその種目決めをしている最中。そろそろ話題が出る時期かなと思ってたけど、立木先生は帰りのホームルームで突然決めろと、クラスの体育祭実行委員に丸投げして自信の作業をしている。クラスの実行委員は普通に手順がわかってるみたいなので、彼らにのみ事前に知らせてあったのかもしれない。


 ちなみにチーム分けは1~3年合同で、学年ごとに2~3クラスで分かれ4チームになる。全学年合同チームでの団体競技の出場者と、少人数や個人種目を決めていく事になる。


 部活動もそんな傾向があるけど、この学校の体育祭は本気で競いあうというよりお祭としての方向性が強い。なので全体の流れを通す練習はあるけど、チームごとでの競技練習はない。というかむしろ禁止されている。


 チームの上級生にスポーツガチ目の生徒が居たりすると、運動部でもない下級生を無駄にしごいたりしてトラブルが起きる事があるので、それを避けるためでもあるらしい。


 チームごとで集まる時間はあるけど、リレーや綱引き、騎馬戦などの団体競技の、クラスごとに決まったメンバーで順番や配置を決める程度の内容のみ。


 ただしチームごとに決めた、小道具や飾り付けなどを作る美術班の作業と、応援団による競技中の応援や応援合戦は別だ。担当教師が居る中で、ある程度の作業や練習が許されている。体育祭というかお祭りの花だから、ここら辺については逆に学校側も力を入れている。


 競技に関してはそんな感じなので、それを知っている2年生は「勝ちに行ぞー!」というようなノリは少ない。このクラスは真人の主導の元、目立ちたい派と苦手派でバランスをとりつつ、出場者を決めていく感じだ。


「団体競技はこれで決まりだな。こっからは個人か二人競技だから、適当に決めてくぞー。一人一競技には参加しろよー」


 団体競技は案外と立候補も多く、プラス推薦ですぐに埋まった。問題はこっから。運動が苦手だったり、挙手するのが苦手なクラスメイトも多い。どうしてもグダりやすい。


「真人、俺は何時も通りでいいよ」

「了解っと。あー、余りものでいいやつが居たら言ってくれ。後で文句言うのはなしだけどな」


 目玉のリレーみたいな目立つ競技には出る気ないけど、それ以外なら特に苦手なものもないしどれでもいい。苦手なやつの手助けにもなるし、こういう時間が短くなる方がありがたい。真人が係りなのですぐ察してもらえたし、後はのんびり勉強しつつ、決まるのを待つのみ……と思ったけど、隣の海羽の様子がどうもおかしい。


 なんだかむすっとした顔で、文句があるといわんばかりに俺のほうを見てくる。


「どうした?」

「なんでもありませんよ?」

「そか」


 いや、絶対なにか不満に思ってる顔だこれ。未だ教室では猫を被り、俺のほうも家に居る時のように過剰に絡まないようにしてるから聞けないまま、放課後まで時間が立った。






「同じ競技に出たかったです……」

「へ?」

「だから、同じ競技に出たかったです!」


 何を不満に思ってるのかと思ったら、どうも一緒の競技に出たかったようだ。


「いや、そんな事言われても。競技決めるのも今日急に言われたことだし」


 仕方ないと強調するも、海羽は依然ご機嫌斜めのようだ。


「もー、星乃君はそういうところがなー」

「そうですよー?拓海さんはもっと海羽さんの事考えてあげるべきです」

「おにーちゃんはみーちゃんをもっと大事にすべき!後私ももっと甘やかして!!」


 日向さん、紬星先輩に真優ちゃんまで。何故か全員に批難される。俺が悪いのか。


 種目決めをした日の放課後。部活動対抗リレーの話し合いで部室に集まったけど、女性陣全員から批難を受けている。


 教室ではまだまだそっけない雰囲気の海羽だけど、部活にいつも集まるメンバーだけだと素に近い状態に戻る。むしろ、俺と二人で居る時よりも幼く感じる。いや、甘えてくる時は幼くなる事もあるけど、俺にはそういうところをあまり見せたくないらしい。まあ感情の起伏が起こると、猫が剥がれて頻繁に素に戻っているんだけど。


 俺が書道部に出ないときも、たまにこのメンツで集まって女子会を開いてるそうだ。皆いい奴だし、そのせいもあってかここでの海羽はかなり自然に振舞っている。


 俺との事をどこまで話しているのかは分からないけど、海羽が俺に好意……多分それに近いものを抱いているのは知れ渡っているようで、ここのところは何かにつけて口を挟まれるようになった。


 ちょっと居辛いけど、でも海羽が楽しそうなのでいいかとなってしまう。どうも以前の学校では友人付き合いに問題があったみたいだ。学校の話は、行事などの事を多少は話してくれるけど、友達付き合いの内容になると表情が曇るのが目に見えて分かってしまうから、余り触れないようにしている。


 なのでこちらで楽しく過ごせているのなら、細かい事はまぁいいかなとなってしまう。おしゃべりに花を咲かせ楽しそうに笑ってる海羽を眺めながら、そんな事を思う。


「ふふふっ、ここは私に任せなさい!」


 一人考え込んでいると、日向さんがなにやらわざとらしく不敵な笑みを浮かべ海羽へサムズアップしている。なにやら、出場競技の変更を画策しているようだ。


「あんまり変なことするなよ?」

「だいじょーぶ。変な事はしないからさ」


 一応嗜めるけど、日向さんには悪い事をするわけじゃないと笑って流されてします。海羽のほうはよく分からないといったふうにきょとんとしている。


「海羽さんのこともだけど、そろそろリレーの事も決めちゃいましょう?」

「そうだな、そっちをとっとと終わらせちゃうか」


 紬星先輩の催促に肯定し、とりあえず海羽の事は置いといて決める事を進める事にした。

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婚約破棄した幼馴染と再開したけど、俺はまだ彼女のことが全然大好きみたいだ あきばこ @openbox

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