第2話 幻影の足音
いつもの匂いといつもの景色、そこに佇む大鎌背負い見覚えの無い異様な存在。
彼は以外にも信号の前に立ち、その色が青へと変わるのを律儀に待っていた。
彼の周りには沢山の人々が居るが彼の異様な存在には気づいていない様子で赤信号の横断歩道へとどんどんと歩みを進めていた。
そんな情報過多な光景を見ているといつの間にか信号は青へと変わり、彼は何事も無いかのように横断歩道を渡っているのだった。
彼は見た目通り本物の死神なのか?
なぜ周りの人々には気づかれていないのか?
それらが気になり私は彼の跡をつけることにした。
_______
彼の跡をつけかれこれ十数分たったが彼が何かをする様子は一向に無かった。
途中、コンビニの前を通ったり、トンネルを抜けたり、木々が生い茂った神社の長い階段前なども通ったが、彼の見た目以上の異変は特に無かった、数十人の人とすれ違たが、背負っている大鎌で切り殺すどころか、武器を構える様子もなかった。
私が尾行を諦め、そろそろ自宅へと帰ろうかと、悩み始めたその時、彼は突如人家の壁をすり抜け、家の中へと入って行った。
彼が壁をすり抜けたことで、私の彼が死神だという予想が核心へと変わると同時に、驚き、恐怖、感動、様々な感情が頭の中で渦を巻き、私はその場で立ちすくんしまったが、しかし、それらは全て、今家の中で何が起きているのかと言う興味によってかき消され、私は死神の入ったその家のチャイムを何度も何度も鳴らしていた。
「キャァァァァァァ」
家の中から大きな悲鳴が聞こえた、
中が気になり、無理だろうなと思いつつも玄関ドアに手を掛け、取っ手を引くと、扉はいとも容易く開き、私はすぐさま室内へ駆け込み、声のする方へ駆けつけると。
そこには、死神と体に数多くのあざのある少年そしてその少年の母親らしき姿があった。
少年は怯え、死神は立ち尽くし、母親らしき女性は床にぐったりと倒れ込んでいた。
その光景は私が毎夜夢に見る
私がその光景に呆気に取られていると、怯えうつむいていた少年が、何かを探すようにキョロキョロと周りを見渡しながら呟いた。
「死神さんどこ?」
私は、その少年の言葉の意味がまったく理解出来なかった、
なぜなら死神はずっと立っているから、
少年の前に今もなお立っているから、
目の前に立っている死神をその少年は探しているから……
「さっきの神社で待ってるよ」
少年が放った言葉に動揺している私の横を、死神はその言葉だけを残し通り過ぎて行った……。
私は、ここ数分の出来事に困惑しながらも警察に通報し、
到着するまでは泣きじゃくる少年をなだめ続けた。
それから数分で警察が到着し、事情聴取などが行われ、
警察からの拘束が解けたのは時計が三時を回ったところだった。
自由になった私は、その場を逃げるように去り、死神をつけた時に通った神社へと一直線に向かった。
山の中腹にあるその神社への長い階段を駆け上がり、息を切らしながらも鳥居をくぐると、どこからかタン、タン、タン
、とリズムの良い足音が聞こえてきた。
音の聞こえる方へ視線を向けると、電柱の上でさっきの死神が舞い踊っていた、まるで蝶の羽ばたきのように不規則に、 数センチの足場の上で美しく舞っていた、そんな死神に見とれていると、死神が私に気づき電柱からふわりと降り私へとゆっくり近づいてきた。
「やはり君には、まだ僕が見えているみたいだね」
「…どういうこと?どうしてあの母親を殺したの?どうしてあの子供にはあなたが見えなくなってしまったの?本当にあなたがあの死神なの?」
死神による少しの問に対し、私は今までの全ての疑問を投げつけた。
死神は私の勢いに押され少し戸惑いながらも話し始めた。
「あの母親は子供に虐待を働いていた、それにより”我々”死神の決定よりも遥かに早く子供が死に至ることを確認した、その改変を阻止するために僕が命令を受け母親を殺したのさ、君の母親と同じようにね」
「やっぱり、あなたが私の母を殺した死神なのね、でもまだ全ての答えは聞いていない、結局子供に姿が見えなくなった理由が分からないだけどころか、死神が一人では無いというさらなる謎が増えただけじゃない!」
「僕が君の質問に全て答える義務はないだろ?、それに君の疑問には十分な返答をしたつもりだ、もし君がそれ以上を知りたいのならば僕に着いてきな」
そう言うと彼は、重そうな大鎌を軽々と担ぎ、ゆっくりと長い階段を下り始めた
そんな彼の言葉と姿に興味をそそられ、
その真偽を知るために私は彼の言う通りに、彼について行く事にした。
_______
彼の真意を疑いつつも歩くこと約20分、気づくと私の目の前に、死神にはとても似つかわしくないほどに落ち着きのある喫茶店の姿があった。
「ここが僕らのアジトさ」
そう言いながら彼は喫茶店へと入っていった、
私は少しの恐怖を覚えながらも彼に続き、店内へと吸い込まれるかのように足を運ぶと、そこには多種多様な時計が飾られている、とても雰囲気のよい普通の喫茶店の風景が広がっていた、そんな風景に見とれていると、カウンターからすらりとした体型の男性が近づいてきた
「いらっしゃいませ喫茶『
彼は丁寧な挨拶の言葉の中に、恐怖の言葉を一滴垂らし私へと言い放った
「なんで私の名前を知っているの!!?」
「それはあなたが、3年前最後に死神の姿を見た少女だからですよ、私は死神の信者のようなものですから死神に関連する話は全て知っています」
その言葉の怖さと気持ち悪さに、私の身体中に悪寒が走り回る、その悪寒を止めたのは以外にも彼だった
「もうそろ30代のいい大人が少女を怖がらせてるんじゃねぇよ」
「おっと済まない、” 新しい者 ”への興奮が抑えきれなかった、ふぅ、だがお前には言われたくないぞ48、彼女への説明もろくにしていないのだろう」
「48と呼ぶな、説明は今からするさ、人を殺せるこの力はなんなのか、なぜ僕は人から視認されないのか、君が知りたかったことを教えよう、もちろんただという訳には行かないけどね」
死神49 白藍 葵 @siro_0706
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