死神49
白藍 葵
第1話 記憶
「 150年前、世界中の人が突如として死ななくなった…
そんな世界の ”始まりもせず終わりもしない” 普通のお話 」
__________
都内に建っているとても綺麗な一軒家、
そんな見た目とはうらはらに家の中では強い怒号が鳴り響いていた。
「なんであんたは毎度毎度、優勝することすら出来ないの?こんな子なら産むんじゃなかったわ!」
そんな怒鳴り声を上げ、フィギュアスケートの大会で優勝出来なかっただけの少女に母親は何度も拳を振り下ろしていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
何度も泣き謝る少女であったが、それでも振る手の勢いは、収まるどころかその勢いを増していた……
まだ14歳の少女の身体など構いもせず、母は何度も何度もその理不尽な怒りをぶつけていた…
そんな時、突如ふっわっと家の中に風が吹いた、
母親の拳の勢いは一時的に収まり、少女は恐怖で瞑っていたまぶたをそっと開くと、母の後ろに黒く大きいフード付きのマントを羽織り、大鎌を持った人がそこに立って居た。
「死神!!」
母親もその異様な存在に気がつき、大きな叫び声を上げたかと思うと物凄い勢いで床へと倒れ込んだ。
瞬く間に、死神と呼ばれていたものは母へと近づき、私に聞こえぬように何かを話したかと思えば、大きな鎌を母の首めがけて振り下ろし、鎌の刃先は母親の首を通り過ぎた。
だが不思議なことに切られたはずの母親の首は繋がったまま床にぐったりと横たわった。
少女は、その残虐なはずの光景から目が離せなかった、
それと同時に怒りと悲しみの感情が同時に少女の体から湧き上がった、
だがその湧き上がった感情を整理する間もなく死神と呼ばれていたものは
少女の元へと数歩足を進め、手を差し伸べ、口を開き、少女に話しかけた
「もう大丈夫」
顔は見ることが出来なかったが、その声は以外にも、
春の風のようにとても暖かい声だった…気が…する………
(はっ!)
そこで私の目が覚めた、
「またこの夢か…はぁ」
彼女が毎夜夢に見るそれは三年前の11月1日、
彼女…
毎夜の悪夢に打ちひしがれていると下の階から大きな声がした。
「栞ちゃん起きてる〜?、早く起きないと学校遅刻しちゃうよ〜」
この声は母を失い住む場所無くした私を心良く引き入れてくれた
母の姉の
「大丈夫起きてるよ〜」
さっきまでの憂鬱な気分に、無理やりエンジンを掛けるかのようにベッドから元気よく飛び降り、学校へ行く準備を整え、夏海さんが用意した朝食を急いで食べ、歯を磨き、私は学校へと向かった。
いつもの通学道、桜が散る道を歩きながら、私は何の変哲のない日常的な光景を目にしていた…
それは、会社へと急ぐため赤信号に平気に突っ込む人々や、道路を爆速で走る車達、高いビルから次々と落ちる人達、
これがこんな世界に変わってからの至って普通な日常の光景。
こんな光景を作った原因は、今や教科書にも載っているにも関わらず、誰も何も分からない謎多き事象、通称”死の克服”と呼ばれるもののせいである…
死の克服とは150年前から突然の変化を遂げた力でありその概要とは、どんな人間でも、轢かれても、潰れても、溺れても、焼かれても、凍りついても、刺されても、撃たれても、病でも、毒でも、飢餓でも、何をしても死ぬ事が出来なくなってしまったというものであり、
とある実験では、生きた人を火葬炉の中へ入れ、骨だけになったそうだが、それでも生きて出てきたと言う、
だが、ただ一人だけ人を殺す力を持つ者がいるそれが
” 死 神 ”
数年に一度の頻度で姿を現し、それ以外の年では姿も現さずに人を殺しているという謎多き存在、世間では悪魔や死神などと呼ばれており、見た目は老婆、青年、少女、イケメンの男性、美しい髪の女性など様々な噂が出回っている。
そんなことを考えているうちに、私はいつの間にか学校に到着していた。
____
今日は始業式だったこともあり、学校はあっという間に終わり、正午には学校が帰宅のチャイムを鳴らした。
私が帰りの支度を整えていると、後ろから元気が良い声で突然話しかけられた。
「栞ちゃん今日も一緒に帰ろ〜!」
「うん、帰りの支度すぐに終わらせるね、呑羽ちゃん」
私に話かけてきたその子は、小学校からの私の親友である
「今日の校長の話すごくだるかったよね〜、よくあんなにつまらない話長々と話していられるわ」
「確かにあの校長、話のまとまりが無いし同じ話何回もするんだよね」
下校中そんな呑羽の愚痴を色々聞いていると、ふと呑羽が彼女の話を始めた。
「そういえば最近死神の噂聞かないね〜」
「最後に死神の目撃情報があったのは、三年前の私たちがまだ中学二年の頃だしね」
「もうそんなに経つのか〜、今度見つかったらお父様が絶対に捕まえてくれるのに」
「呑羽ちゃんのお父さん刑事さんだもんね」
「そう、お父様は凄く強いんだよ、今まで剣術で一回も負けたことがないんだから!」
「それは心強いね」
( 呑羽の苗字である不知火家では、
「あっ!、ごめん栞この後稽古があったことすっかり忘れてた」
「全然大丈夫だよ、呑羽って普段しっかりしてる癖にたまに抜けてるところあるよね」
「もう、またばかにして」
くすりと笑った私に、ぷくりと怒りながら呑羽は足早に去って行った
呑羽が見えなくなるまで手を振り、私はまたいつもの帰り道を進んだ。
その帰り道はいつもと何も変わらなかった、右を向けば車に轢かれる人、左を向けば大きな鎌を持ちマントを羽織っている人、前方を向けば高所から飛び降りる人、こんなふうにいつもと何も変わっては……!!
そこにはいつもでは会うはずの無い人の姿があった、
見間違えるはずもないその姿が…
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