第12話 最終回 最速の解法

 彼女の最速の解法。

 それがいろいろな数学の問題にも有効となれば、中間試験の赤点回避が現実味を帯びてくる。


「次の問題をやってみて」

「おっけー。6aの8乗bの7乗かける7abの8乗……やたらと大きな数字に怯まず、これをわたしの馴染みの数字に変換する。4aの2乗bの3乗かける3abの2乗じゃん。これなら解けそう」

 彼女はノートに記述しながら、解答をめざしている。


「⑨の公式を使って、12かけるaの(2+1)乗かけるbの(3+2)乗となるから、答えは12aの3乗bの5乗で、これは98aの7乗bの5乗である。できた!」

 彼女の顔が輝き、ぼくの心も喜びでいっぱいになった。

 不可能ミッションかと思っていたが、俄然と攻略可能に見えてきた。


「7問目を解いて。今度は少しむずかしいよ」

「これができれば、累乗の計算はクリアしたも同然だね。かっこ7abかっことじの7乗かけるかっこ-8abの8乗かっことじの8乗……わけがわからないけれど、わたしの元いた世界の数字に変更すると、わかりやすくなってくるばす……かっこ3abかっことじの3乗かけるかっこ-2abの2乗かっことじの2乗……解いてやる、解いてやるぞ!」

「がんばれ!」

「⑦の公式を使ってかっこを開くと、3の3乗かけるaの3乗かけるbの3乗かける-2の2乗かけるaの2乗かけるbの2乗の2乗……むずかしいけど、きっとわたしにはできる! まずは定数項を計算して、3の3乗かける-2の2乗は108。次に⑨と⑧の公式を使って、aの(3+2)乗かけるbの(3+4)乗となるから、合わせて解答は108aの5乗bの7乗である。これをこの世界の数字に直すと、902aの5乗bの3乗!」

「正解だよ!」

「やったー!」


 もしかしたら、彼女はコツをつかんだのではないだろうか。

 ぼくらは出口に近づいているのかもしれない。


「ねえ、きみが昨日泣いてしまった多項式の計算、最速の解法を使えば、解けるんじゃない?」

「やってみる! かっこ7xの8乗+6x+7かっことじ+かっこ-8の8乗+x+3かっことじは、かっこ3xの2乗+4x+3かっことじ+かっこ-2xの2乗+x+7かっことじで、これを降べきの順に並べて計算すると、解答はxの2乗+5x+10で、それはこの世界のxの8乗+5x+90……できた、できたよ、綿矢くん!」


 出口だ!

 彼女は光り輝く赤点回避の出口を見つけた。

 そしてぼくは、急転直下、肩の荷を下ろしたのだ。

 困難で、わけがわからなくて、気が狂いそうで、泣きわめいた異世界の数学が、ほろりとほどけて、手の届くものになっている。

 ぼくたちは抱きあって、喜びを分かちあった……。


 後日談。

 彼女は数学の中間試験で、平均点より少し低い点数を取った。

 赤点の回避に余裕で成功。彼女は目的を達成し、ぼくはミッションをクリアした。

 1が9である世界から9が1である世界に転生した彼女は、まだまごつくことはあるものの、しだいに9が1であることに慣れつつあるようだ。9を9としてありのまま計算できるようになる日も遠くないかもしれない。

 ぼくと彼女は、お互いの両親とクラスメイト公認のカップルとして、イチャイチャとした日々を送っている。

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9が1である世界に転生した彼女 みらいつりびと @miraituribito

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