耳毛は伸びるよどこまでも
西しまこ
五十マイルの笑顔
「五十枚要る? 折り紙」
「え? 五十マイルの笑顔?」
「違うよ、五十枚の、お・り・が・み」
「え? 五十マイルの、いい笑顔?」
「……もういいよ。耳毛切ってよ」
「耳毛、そんなに伸びてないよ」
「絶対に伸びているよ! どうしてちゃんと話も出来ないの?」
「話、してるよ!」
「じゃあなんで、聞き間違えるの?」
「発音が悪いからじゃない?」
「何よ、わたしが悪いの?」
「……そうは言っていない」
「言ってるよ! ねえ、で、折り紙、要るんだよね?」
「ああ、要るよ」
「五十枚要るの?」
「うーん、三十枚でいいかな?」
「何に使うの?」
「分からん」
「は?」
「何か、会社で持って来いって言われたんだよね」
「誰か入院しているの?」
「そんな人はいないなあ」
「千羽鶴折るのかと思ったよ」
「おれ、鶴折れないよ」
「は?」
「だから、折り紙で、鶴折れないって」
「え⁉ 冗談でしょう! 教えてあげるから折れるようになったら?」
「別にいいよ」
「鶴くらい、折れた方がいいよ」
「別に困らないからいい」
「いいからいいから。はい、折り紙を三角に半分に折って。……それからもう半分に折って正方形にするの。……うん、いいじゃない。で、三角に折り目をつけて、で、ここを開いて。……違う違う、開いてこうするの。見てて。開いて、折る。裏側も開いて折る。簡単でしょ? ……え? 何してんの? あああ、それ違うよ、こうだってば! ああああ、それはもっと違う!」
「もういいよ、おれ折れなくても」
「鶴なんて、簡単なのに……。耳毛があると、鶴も折れないの?」
「ちょ、それ、ひどくない? もういいからさ、五十枚、折り紙ちょうだい」
「五十マイルの笑顔、あげる」
了
耳毛は伸びるよどこまでも 西しまこ @nishi-shima
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