蝉時雨

岸亜里沙

蝉時雨

ショッピングセンターからの帰り道。

片手にハンディファンを持ちながら、ゆっくりと歩く僕らの影が、舗道に長く伸びる。


君と分け合った1個のドーナツ。

頬に付いたチョコレートクリームを恥ずかしそうに拭き取る君の笑顔は、真夏の太陽よりも眩しい。


数日前、突然の夕立をやり過ごそうと、二人で逃げ込んだ公園の東屋あずまやには、シェットランドシープドッグを連れた親子連れの姿。

犬が大好きな君は、「可愛い!」と無邪気にはしゃぐ。


木漏れ陽が踊る街路樹の並木道を抜けていくと、僕らが子供の頃に遊んだ神社が見えた。

縁日の準備が進められている境内には、沢山の提灯が吊るされている。

「ねえ、明日縁日の日に着る浴衣を一緒に買いに行こう!」

君の弾んだ声に僕も笑顔で頷く。


緩やかに続く坂道へと差し掛かると、空はだんだんと夕焼け色に染まってきた。

家路を急ぐ子供たちを横目に、僕らは丘の上の展望台を目指す。

ちょうど一年前の今日、君と初めてキスをしたあの場所。


僕は君の手に静かに触れて、そっと指を絡めた。

高鳴る胸の鼓動は、まるで蝉時雨せみしぐれのよう。

手を繋いで歩き続ける僕らの真上。絵画のような夕映えの向こう、太陽を追いかけるように飛行機雲はまっすぐ伸びていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

蝉時雨 岸亜里沙 @kishiarisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ