ストーカー
三日月 青
ストーカー
桜が舞う中晴れ晴れと憧れの大学の門をくぐる…
とはならなかった。桜はすでに満開の時期を過ぎ、葉桜への衣替えを終えていた。
まあ、薄紅色ではなく、新緑のスタートダッシュを切ったというだけだ。
長い受験期を終え、やっとの思いで入学できたこの大学。
堅苦しい高校の校則からも解放され、試しに髪を染めたり、ピアスも開けたりしてみた。
少し派手かもしれないが、4年のうち1年くらいこういう年があってもいいだろうし。
これが最後の学生時代だ。
なるべく悔いのないよう過ごしたい。
家は、比較的安かった4回建ての細長いマンションの1階。
初めての一人暮らしに心が踊り、早速家具や、100均で買った小物を飾った。
少し狭い気もするが、学生の身分ではまだどうにもできない。
電車で3駅と、大学に近い物件を見つけられたことに感謝することだ。
ただ、もう少し治安面を考慮してもよかった。
大学に通い始めて1ヶ月ほど。
順風満帆な大学生活に水を差すように、
ストーカーが現れたから。
初めて気がついたのは水曜日、
夕方の大学の講義を終え、ブラブラと駅へ向かっていて、
ショーウインドーの反射でこちらをじっと見つめる人影が写っていたとき。
あまり見ないようにしたから、どんな人かはその時はわからなかったけど、
どこへ行こうとついてくる。
存在は知っていたが、いざ自分が出会ってみると確かに気味が悪い。
自分が魅力的だと思ったことはないが、人の好みは十人十色。誰か自分に興味を持ってくれる可能性は0じゃあない。
でも、こんな形で露呈するなんて、素直に喜べないじゃん。
その日は人通りの多い道を通って、巻くことができたけど。
その次の水曜日、
そいつは再び現れた。
しかも今度は一緒に電車まで乗っていた。
同じように窓の外を見ていたら、偶然反射していたそいつの姿が目に入ったんだ。
その時は気づかれないよう、相手をじっと観察してみた。
年齢は40代から50代の中年。
細く、頼りなげな身体に少し暗めなグレーのスーツを纏っていた。
青白い鼻には黒フチのメガネがかけてある。
見た目で人を判断することはしないよう心がけているが、
結果論、ストーカーのイメージ像からおおよそ外れてはいない。
一つ安心したのは、万が一直接的な危害を加えられそうになっても、あの体格ならそんなに心配しなくても良さそうなことだ。
でもやはり、知らない人と対峙するのは怖い。
親に電話しようか。
いや、
本業はまだ学生とはいえ、社会人と言っても差し支えない年齢なんだ。親ばかり頼ることはもうやめた方がいい。
腹をくくって電車を降りると、案の定そいつも続いて降りた。
わざと東口の改札へ近づき、途中思い付いたように西口の改札へと方向転換をする。
やはり同じようについてきた。
確定だ。
大きな騒ぎにはしたくなかったので、住宅街の方へ歩いて行った。
でも、交番に近い道だ。
角を曲がったところで待ち伏せし、ストーカーが現れるのを待つ。
10秒ほどして現れた手首をがっしり掴む。
「あなた、ストーカーしてますよね。」
声が震えないよう、腹筋に力を込めた。
「あ、いえ、あ、違います、その…」
しどろもどろな態度をとった相手にさらに高圧的に声をかけた。
「ちょっと一緒に来てください。」
初めは往生際が悪く、抵抗しようとしたようだが、
見た目通り弱々しい感じで、強く出ることはできないらしい。
こんなんで社会やっていけるのだろうかと、訳のわからない心配までしかけたほどだ。
強引に引っ張って路地を抜け、あらかじめ決めおいたルートを足速に進む。
すぐに交番が見えたところで安心してしまった。
この油断がいけなかった。
いや、その前に証拠写真や動画などを撮っておくべきだったんだ。
交番の当直の顔が見分けられるような距離まで行った時、
後ろで嫌々ついてきていたはずのストーカーに、
急に手首を掴まれ、前に引っ張られた。
そして、自ら交番へと勢いよく入っていった。
まるで逃げ込むように。
「助けてください、この人、私をストーカーしているんです!」
相変わらず弱々しい声だが、今回の場合は逆にそれが仇となった。
待て、それじゃあ、それじゃあまるで
俺が加害者のようじゃないか。
か弱いO Lとチャラそうな大学生。
側から見れば
そういうことになってしまうじゃないか。
ストーカー 三日月 青 @mikazuki-say
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます