第3話 DVプレイヤーの素質
嫁と間男と俺。三者での会合は不発に終わり、気がついたら間男ちゃんは俺の家に住み着くことになってしまった。今夜は居候が来た記念でピザと寿司とちょっと高いお酒でパーリィーである。もちろん俺は一切喋らなかった。だけど嫁と間男ちゃんはひたすらぺちゃくちゃぺちゃくちゃとしょうもない話題で延々とお喋りを続けてもりあがっていた。そしてだいたいピザも寿司も食いつくしたあたりで嫁が風呂に入った。そしてリビングには俺と間男ちゃんが残された。
「おまえさぁ。なんで俺の嫁を選んじゃったの?」
それは俺の偽らざる本音だった。そんなこと起きなければ今でも平穏に生活できたのだ。酒が入っているせいもあるだろう。俺は少し弱気になっていた。
「…オレは…昔からモテモテでした」
「いきなり自慢?うぜえんだけど」
「どんな女の子からもモテモテでした。でも理想の相手には出会えなかったんです…」
「それでうちの嫁が理想の相手だったと?」
「オレの理想の女性は男性向けラブコメに出てきそうなぐいぐい引っ張ってくれてチャーミング(死語?)で小悪魔系なのに初心で可愛い処女です」
「そんな女現実にいるわけねーだろばーか。つーか処女厨かよキモ」
俺がそう言うと、間男ちゃんはぽろぽろと涙を流し始める。
「奥さんはオレの理想の女の人でした…。なのになんで処女じゃないんですか!あなたのせいですよね?!」
「それ俺に過失ある?なくない?」
「奥さんと初めて会ったのは、バンドのライブ後の打ち上げ飲み会です」
「はぁ?!そんなくそみたいな飲み会に嫁が参加してたの?!それバンギャがバンドマンに食われに行く奴じゃん?!まじかよそこまでビッチだったのか…」
「奥さんはビッチなんかじゃない!!むしろ逆です!オレの元バンドメンバーたちは容赦のないヤリチンどもです。ひとりの女の子が酔いつぶれてうちのメンバーたちにお持ち帰りされそうになったんです。そのときです。嫁さんが颯爽と現れて酔いつぶれた子をさっと介抱してうちのバンドメンバーたちをうまく躱して連れて帰ったのです。酔いつぶれた子が潰れる前に奥さんに電話したみたいなんです。それで奥さんは友達を助けに来たんですよ。…かっこいいじゃないですか。惚れますよ。そんなの」
なんか普通にいい話が出てきてちょっと俺は戸惑ってしまった。
「オレはホストもやってたわけで、女なんてみんなDV好きの誘い受けマゾしかいないって絶望していました。そんなくそみたいな現実に打ちのめされて恋することを諦めていた俺の前に現れたのが奥さんだったんです。なのになんで処女じゃないんですか?!」
「処女厨やめて。キモいからやめて。ていうかホストやめればいいじゃん。そもそもホストクラブに来る女がおかしいだけで世の中の女の人はまっとうだからね」
「本当にそうですか?思い出してくださいよ中学高校時代を。モテるのはたいていの場合、オレみたいにすごく顔が良くてバンドやってる爽やかで紳士な男か、大してうまくもないくせにサッカーとかとりあえずスポーツやってる運動部で陰キャに暴言を吐いてる屑かボッチしか殴れないヤンキーがモテてますよね?違いますか?」
「まあそう言われればそんな気もするね」
スクールカーストって奴かな?こいつは処女厨だしきっと嫌な思い出があるんだろうな。
「顔が可愛い子って大抵受け身でヤンキー相手に中学で処女捨ててるんですよね。そんでDVされるのが癖になってるんです。まったく。あーあ!なんでオレと出会うまで処女を守れないんですかねぇ!!そう。世の中の女ってのは受け身でDV大好きなマゾしかいないんです。オレの理想の女の子は「うふふ!隙あり!ちゅ…。ごめんね。君の初めて奪っちゃった。でもわたしもはじめてだよ」ってファーストキスしてくれる人ですよ!いますか!?いないでしょ!だから女なんてみんなDV大好きな誘い受けマゾなんですよ!」
「お前の理想の女像がキモすぎてついていけないんだけど。つーか別にうちの嫁はDV好きどころか俺はDVしたこと全くないぞ」
俺がそういうと間男ちゃんは鼻で笑った。
「何が可笑しい?」
「DVを息を吸うようにする男ほどそういうんですよ。奥さんが愚痴ってましたよ。とても楽しそうにね…曰くうちの旦那は絶対に家事をしないとか」
「それは家事を嫁がやった方が効率がいいから任せてるだけだ」
「違いますよ。押しつけるのが上手いんですよ。あとデートの時に絶対に意見を聞いてくれない。気分で動きすぎて先が読めない。一度もご飯何処に行くか希望を聞いてくれたことがないって奥さんがぶー垂れてました。でもあれうっすらと笑ってましたね」
振り返ってみると確かにデートはいつも俺の気分で決めている。食べたいものを食べて、行きたいところに行くだけだ。
「もうねぇ。旦那さんには元ホストとして痺れますよ。女の子を自分の我儘に振り回しまくるそのDV気質!女の子にご飯何食べたいって聞いて「なんでもいい」って言わせる時点で三流ですよ。一流のDVプレイヤーは何も言わないで「飯此処で食うから。文句は聞かねぇ」そういう風にDVするんですよ。あとラブホに夜じゃなくて最初に行ってプレイしてから街に出て疲れた状態で振り回すのマジでクズでほんと尊敬します!」
「俺がDVプレイヤー…?!いやいや俺は普通の男だ。普通普通。つーか処女厨!てめーなんで人妻の俺の嫁に手を出したんだよ!」
「…確かに俺は処女厨です。でも!それでも!奥さんのかっこよさに俺の理想の女の姿を見ました!だからなくなく処女でないことには目を瞑ることにしたんです!経験があるのは野良犬に噛まれたようなもんだと自分に言い聞かせて!そうしてオレは理解のある彼くんになったんです!つまり奥さんはオレの中では実質処女です!」
「一目ぼれに頑張って理想をすり合わせてるだけだろそれ…ていうかまじでバカすぎて話にならない…」
とりあえず間男ちゃんが嫁にタゲった理由はわかった。だけどそれがただ美人だったからとかかわいいとかおっぱいデカいとかそんな理由じゃなくて、その行動が尊いからだったというのには複雑な感情を覚えた。間男ちゃんは理想高きユニコーンだが、闇落ちしてバイコーンになってでも嫁を愛したのだ。それはそれですごいことなのかもしれない…わけねーよ。ただのバカ。馬鹿オブバカ。
「まあある意味お前がよくいる女に夢中になったお馬鹿なやつだったってのは良かったよ。もしきれいごと並べたててたらぶん殴ってたよ。マジで」
俺は持っていたお猪口を間男に差し出す。間男はそれを見て首を傾げてから。恐る恐るそれに唇を近づけて、中の酒を吸い始める。
「ばか!!まじでばか!酒を注げって意味だよアホ!」
「え?なんだってっきりこのかわいいオレに間接キスして欲しいのかと思いました」
「いいから注げくそ馬鹿野郎」
「罵倒しながら女の子にお酌させるなんて!!まじでDVプレイヤー!!」
間男は近くの日本酒の瓶で俺のお猪口に酒を注いだ。ぶっちゃけていえばこいつのことを許してなんていないし、認めるつもりもない。だけど暫く住むのはまあ勘弁してやろうとそう思った。
「ふぁあ。そろそろ眠くなってきたんで風呂借りますね」
「まあ好きにしろ」
そう言って間男ちゃんは風呂場に向かった。そして。
「うほおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
間男ちゃんの汚い叫び声が聞こえた。俺が風呂場に向かうと、そこには鼻血を出して床に横になりもだえる間男ちゃんと全裸の嫁がいた。
「何があったの?」
嫁はタオルを体に巻きながら俺の問いに答える。
「さあ。彼ったら、ここで私と鉢合わせた瞬間に鼻血出してこうなったの」
間男ちゃんは両手で自分の体を抱きしめながら甘ったるい声で呟く。
「女の子の乳首と大事なところ…生で初めて見ちゃった…うひょ!ひゃは!ぶひいい!!」
キモイ。死ぬほど気持ち悪い。ていうか今の聞き捨てならない。
「なあなんでこいつこんなこと言ってるの?こいつ浮気相手だよね?普通見てなきゃおかしいでしょ。乳首とかあそことか」
「それってわたしのことをふしだらなビッチだって言ってるの?!あんまりだよ!私は自分から下着は脱がないの!そういうのを脱がせるのは男の人の役割でしょ!彼は自分は先に全部脱ぐけど、私の下着を脱がせなかったのよ。恥ずかしかったわ!ラブホのベットの上で彼は全裸、私は下着姿で時間ぎりぎりまで睨みあいするの」
何このバカども。どうして普通にセックスできないの?下半身の緩さよりも頭の出来が心配になってきた。
「なにそれぇ…この童貞何考えてんだマジで。おい処女厨童貞間男。なんでお前は嫁の下着を脱がせなかったの?」
間男ちゃんは鼻血で汚れた笑顔で言った。
「だって奥さんの下着のブラが前で止める奴か後ろで止める奴かわからなくて…。男ならそこはスムーズに脱がせなきゃダサくて…だから頑張って考えているうちにラブホの休憩時間終わっちゃって…」
「ばか?まじでばか?逆に同情するレベルでバカだね?ブラなんて上にズラせば前止めだろうと後ろ止めだろうと関係ないだろうが」
「旦那さん…奥さんのブラの違いに興味ない感じマジでDVプレイヤーっすね…パネェ…これが非童貞の考え方かぁ…がくぅ」
そして間男は気絶した。多分酒の酔いのせいだろう。そのまま死ねばいいのに。この先もこんな生活が続くのだろうか?俺は本当に頭痛が痛かったのだった。
嫁の間男がトラックに轢かれてTSしたらすごく可愛い件について 園業公起 @muteki_succubus
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