生命力溢れる緑の木々の間を、馬車はダンジョンに向かって進んでいく。


濃い緑の匂いを含むじっとりとした高温の空気に汗が流れる。

俺の湿った肌を少しだけカラッとした風が通り抜けていく。


(こんな日は仕事終わりにエールが飲みたくなるな。)


そんなことを考えながらも馬車の運転に集中する。

だからと言って、景気が良くなる訳ではない。

相変わらず懐が寂しく、好きなだけエールや肉串が飲み食いできるわけではない。



それでも馬車は軽快に進んでいく。

道の小石もわだちのでこぼこも感じさせないで。


気分がよくなった俺はいつの間にか鼻歌を歌っていたようだ。

その調子外れのメロディに鳥と風が応えてくれる。

小さな馬車の森の合唱隊は、ご機嫌にダンジョンを目指していく。





▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▽





終着のダンジョンに近づいてくると砂ぼこりに混じり、

汗と血と獣の臭いが立ち込めるもわっとした空気が俺に纏わりついてくる。


振り払うことの出来ないじっとりした風をどこか心地よく感じるようになった。



馬車乗り場にゆっくりと馬車を停止させる。


「到着~。ダンジョン側に到着~。

荷物のお忘れ無きよう。」



乗客を吐き出した馬車はそのままに、

馬に水と餌を与えて労ってやる。


今日は気分がいいから

ついでに俺もぬるいエールで乾杯だ。



視線を感じ辺りを見回すと

遠くの方であのエルフの美少女がこちらを見ていた。


彼女は俺ではない何かを見つめ「ふふふ」と笑いながら去っていった。


それを見送りながら思う。


あれ以来、いつでもどこにいても 風 を感じられるようになった。


もちろん俺はただの人間だから、エルフのように風の精霊シルフの姿を見ることは出来ない。


しかし、すぐそこにいるはずだ。


俺は、夏のじっとりとした暑苦しい南風はえ

熱烈な抱擁を受け止める。



ほら、今 風 も笑っただろ。






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終着はダンジョン前 アルミ @aluumi

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