馬車乗り場を囲むように並ぶ、ピンクの花をつけた木が満開だ。

散った花びらが踊るように風に舞い、

足を止めた人々がその演舞に感嘆の声をあげる。



物見遊山な観客の横で、俺はなんの感慨もなく普段通り御者の仕事に勤しむ。


「ダンジョン行き~。

この馬車は、ダンジョン行っ、ブッッッ!」


花びらの舞いは、俺の熱心な仕事ぶりが気に入らないとでも言うように口を塞ぎにかかる。


「クスクス」

「ははは」


通りすがりの観客たちからも俺の勤勉な仕事ぶりは不評なようだ。


(あぁ、クソッ。

花びらが口に飛び込んで来やがった。

花より客は来ないのかよ。)





▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▽





「ダンジョン行き~。

この馬車は、ダンジョン行き~。

徒歩で4時間、馬車なら2時間。

体力温存に馬車に乗らないか~。」



口下手な俺の誘い文句が少しだけ上達した頃、

脇目も振らず真っ直ぐに俺を目指してくるエルフの美少女が目に入る。

舞い散るピンクの花びらを背に、

真剣な無表情で迫りくる妙な迫力におののくも、それを悟られぬよう俺もじっと見つめ返す。


少しだけ力んで固くなった体に花びらがそっと触れた。

その途端エルフの視線は、花びらに釘付けになる。

意味深な表情を浮かべ


「……風の精霊シルフ


と、ぼそりと言い馬車へと乗り込んで行った。


(あぁ、ドキドキした~。

一体どういう意味なんだ?)





奇しくもエルフの貸し切りとなった馬車は、街を出てダンジョンへと出発する。

視界の両脇に写る森は、若々しい緑のカーテンから清々しい新緑の香りを運んでくる。


御者の仕事に専念すべきなのは分かっているが、先ほどのエルフの言葉が気になって仕方がない。

その意味について考えていると、

時折吹く突風が不機嫌そうに、若葉や砂ぼこりを俺に叩きつけてくる。

それは自分の存在に気づけとでも言わんばかりだ。




馬に水をやるために途中で休憩を入れる。

ふと、背後に気配を感じ振り返るとエルフの美少女がいた。

驚いて飛び退きそうになるのをなんとか抑えていると


「……風を感じるか?」


と聞いてきた。


「どういう意味だ?」


「……お前には風の精霊シルフがついている。」


「…は?

どういうことだ?」


「……そのままだ。」


また、それだけ言って馬車に戻っていく。

その場に取り残された俺は困惑するもその意味について考える。

その時、一陣の風が吹き抜けた。





それから俺は、仕事に戻るべく馬を馬車に繋ぎ、御者席に座る。


馬車を出発させると、なんだかいつもより車体が軽やかに感じる。


俺のすぐ側で鳥たちがピーチクパーチク独特な音楽を奏でている。


馬がその歌に合わせるように、ご機嫌なステップで進んでいるような気がする。


風が俺たちをふわりと包み込んでいるようだ。



いつも通りの御者席が今日は新鮮に感じ、穏やかな風に絆されていく。





温かい風が俺を優しく撫でた。






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