終着はダンジョン前
アルミ
冬
「ダンジョン行き~。
この馬車は、ダンジョン行き~。」
木の葉の服を脱いだ木に自分の影が長く伸びている。
首筋に突き刺すような冷たい風がぶつかり体がブルッと震える。
ツンと痛んだ鼻には、薪の燃える匂いを微かに運んでくる。
(あぁ、この季節は嫌いだ。
過去を色々と思い出す。)
先ほどから大きな声で馬車の行き先を告げるも、風と共に皆足早に通りすぎていく。
「今日は、もう店仕舞いか。」
ついポツリと、誰の耳にも届かない独り言を呟いていた。
▼ ▲ ▼ ▲ ▽
普段使っている馬車と馬を引き、
足取り重く運輸ギルドへの道を引き返す。
途中通りすがった広場には、木枯らしにも負けず元気な子供たちが追いかけっこをしているのが目に入る。
(この街に来て10年くらいになるか。
始めは荒くれ者ばかりの冒険者相手に、おっかなびっくりだったよな。
今ではこの御者の仕事にもすっかり馴れたもんだな。)
ひとり苦笑いを浮かべ、この感傷を振り払うようにギルドへの道を急ぐ。
「お疲れ様です。今日の運行はお仕舞いですか。」
運輸ギルドに入ると、早速受付に座る職員に問いかけられた。
「あぁ、この季節はどうもな。」
「まぁ、仕方ないですよね。」
お互いいつものことと、半ば諦めの現状にさほど気にとめず、職員から裏の厩舎の鍵を受け取る。
裏に回り、馬の首筋を労うように撫でてやる。
「今日もあまり走らせてやれなかったな。
明日もよろしく頼むな。」
それに応えるようにブルルンと一鳴きし、厩舎に入る馬を見送った。
運輸ギルドに馬車と馬を預けた後は、少し早いが晩飯の調達に向かう。
先ほど通りすぎた広場には、まだ子供たちの楽しそうな声が響いている。
それにつられるように広場に足を踏み入れると、肉の脂が焼けるうまそうな匂いが漂ってくる。
(この匂いを嗅ぐと新人の頃を思い出す。
あの頃も懐が寂しくてよく食べたっけ。
そういえば、はじめは一般の長距離御者だったんだよな、俺。
あの頃は、この怖い顔にゴツい体躯、無愛想で無口が仇となって客が寄り付かなかったんだよなぁ~。
子供にもよく泣かれたっけ。懐かしいなぁ。)
「おやっさん、肉串3本。」
「あいよ。包むか?」
「あぁ、頼む。」
俺は肉串のいい香りを身にまとい、
肉のうま味を北風に拐われる前に家路を急ぐ。
(はぁ、今はエールを買う余裕もないか。
それぐらいの楽しみがあってもいいってもんなのにな。)
通りすぎる民家のあちこちからは、温かい家庭料理の匂いが漂ってきた。
すると、俺はこの世界にひとり取り残されたような気分になり途方に暮れた。
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