【短編】「有能は必要ある」と言われてパーティーを残留させられた冒険者が成り下がる話~マイナススキルに覚醒したからやっぱり出ていけと言われても、もう遅い~

八木耳木兎(やぎ みみずく)

【短編】「有能は必要ある」と言われてパーティーを残留させられた冒険者が成り下がる話~マイナススキルに覚醒したからやっぱり出ていけと言われても、もう遅い~







「お前はパーティー残留だ、アルド」







 一瞬、言葉の意味を飲み込めなかった。






「な、……何を言ってるんだ? グリフィス」




 冒険者パーティーの剣士である俺、アルドは、自分を見下すパーティーのリーダーたる勇者・グリフィスに言葉の意味を問いただした。

 その酒場ではグリフィスだけでなく、パーティーメンバーである魔法使いのシャルロット、弓使いのフェルト、盗賊のキルス、回復魔術師のリオラも俺を見下していた。



「言葉の通りだ。お前には明日からもパーティーにい続けてもらう」

「ざ…………残留なんてあんまりじゃないか。確かに俺はパーティー最強かもしれない。それでもこのパーティーのために、三年間必死で手を抜いてきたつもりだ。頼む、残留を撤回してくれ。俺を追放してくれよ」

「俺たちと自分のレベルを見比べてから言ったらどうだ? アルド」

「そ、それは……」



 グリフィスにそういわれた俺は、思わず押し黙ってしまった。



 確かにグリフィスたちは、三年間冒険者として活動しておきながら、レベル30――初心者に少し毛が生えた程度のレベルのまま、いくら経験値を獲得しても、レベルアップも新スキルの獲得もできていない。

 まったく同時期に冒険者になった俺が、レベル120代にまで達しているのにも関わらずだ。


 俺に比べて、こいつらは雑魚中の雑魚、と言われても文句が言えない。




「昨日のダンジョン探索を振り返ってみろ。シャルロットは自慢の炎魔法をファイヤーゴブリン相手に使えない、フェルトはゴースト相手に得意の弓矢を当てられない、キルスは持ち前の俊足スキルを使っても豹人たちにスピードで押し負ける。そして俺は、この大剣をもってしてもダンジョンボスのゴーレムに全く歯が立たなかった。だろォ?」

 その言葉に、俺は昨日のことを振り返った。

 認めたくなかったが、グリフィスが俺を見下しながら語ったその言葉は、まぎれもない事実だった。



「それに引き換えお前ときたらどうだ? 水属性スキルと剣技の合わせ技でゴブリンたちを一掃し、除霊スキルでゴーストどもを倒し、類まれな脚力で豹人たちを翻弄して圧倒し、挙句ゴーレムを必殺技で瞬殺してたじゃねーかよ」

 その言葉も、何もかもがグリフィスの言葉通りで、全く言い返せない自分が最早情けなかった。 



「今回だけじゃない。こないだのハイドラゴン討伐戦でも、去年の魔王幹部討伐戦でも、お前パーティーどころかこの街全体でも最強のエースアタッカーとして活躍してばっかりじゃねーか。お前みたいなな、有能な大黒柱はパーティーに必要なんだ、追放していられるか」

「で……でも、その状態がいつまでも続くとは限らないじゃないか。頼む、俺を追放してくれ!」

「いい加減にしてよアルド!!」



 酒場に凛と響いた、俺とグリフィス以外の声。

 声の主は、回復魔術師のリオラだった。



「私たちのためを思って言っているのよ。あなたと一緒じゃなきゃ、私たち、確実に死んじゃうわ」

「ちょ……ちょっと待て」

 グリフィスをかばうリオラだったが、俺の視線は彼女の口ではなく、彼女の指に言っていた。



「り、リオラ……お前、何なんだよ、その左手の指輪は。グリフィスと将来を誓い合ったはずだろ!!??」

「こっ、これは……」

 彼女の左手の薬指に光っていたのが、青色の指輪だったことに、俺は目を疑った。

 昨日までその指には、彼女の恋人であるグリフィスとお揃いの、赤色の指輪がはめられていたはずだ。




 それだけではない。

 俺は気付いてしまった。

 自分の左手の薬指にも、同じ青色の指輪がはめられていたことを。





「カッカッカ……何も知らねーんだなァ、アルド」

 下衆な笑みをあげるグリフィスを見て、俺は全てを察した。

 想像しうる最悪の事態が、今目の前で起こっていたのだ。





「お前は気付いていないだろうけどな、リオラはとっくにお前の女だぜ。昨晩お前が寝ぼけてる間に、リオラをお前に寝取ってもらったんだよ。俺みたいな甲斐性無しの弱小冒険者よりも、お前みたいな男らしくて頼りがいのある冒険者の方がはるかにリオラにふさわしいだろうからなァ」

「し……仕方ないでしょアルド! 前々からグリフィスと私、そりが合わなかったじゃない。……私、今はグリフィスじゃなくてあなたのことが大好きなの」





 二人のその言葉に、俺は唖然とするしかなかった。

 他人の恋人を、自分に寝取らせさせられる。

 男として、これ以上の屈辱があるだろうか?





「ま、そういうわけで、せいぜいパーティーの要として、愛され、信頼され、尊敬されながら裕福な人生を送ってくれ。もちろん、死ぬまでな?」




 俺を見下しながら、肩をポンポンと叩いてくるグリフィス。




「わ、わかったよ……い続けるよ」

 ぼそっと、そう呟くしかなかった。




 

 ―――こんなパーティー、俺の方から所属し続けてやる。

 呟きながら、心の中で俺はそう毒づいた。







 子供の頃から、俺は冒険者になりたかった。

 最強のモンスターになすすべなく敗北する、最弱の冒険者に。

 武力や暴力になすすべなく打ちのめされ、貧しさも汚名も一身に背負い、弱者だ、無能だ、と嗤われ、惚れた女も寝取られ、挙げ句パーティーも追放される、最弱の冒険者に。






 殴られ、貶され、無力感にさいなまれる。

 そんな快感に、俺は憧れていた。

 このパーティーに所属したのも、無能ゆえに蔑まれ、無能ゆえに追放される、そんな興奮を味わいたかったからだ。





 だが、現実は厳しい。

 グリフィスの言った通り、今の俺はこのパーティーはおろか、街全体を見渡しても最強ランクの冒険者だった。

 ただ、「パーティーメンバーが倒されたら、俺のことを無能だと蔑む相手がいなくなってしまう」という理由で、パーティーメンバーがモンスターや無法者に襲われた時真っ先に守り続けてきたというだけなのに。

 今俺にあるのは、汚名でも無力感でもない。

 ただの、地位と名誉だ。






「フンッ……まったくほんとうに尊い奴だな。見てて泣けてくる、自分が情けなくて」

「このような高貴な方には、私たちのような下賤者たちのパーティーにいつまでも居座ってて欲しいですわね。まったく猛々しい……」

「つーかコイツ、カッコよすぎるから、アタシの所からずっと離れないでほしいんですけど……」





 パーティーメンバーのキルス、シャルロット、フェルトが、口々に放ってくる賞賛の言葉の数々。

 その言葉に、俺は歯ぎしりをしながら耐えていた。

 耐えながら、俺の心の奥底で、憎悪の炎が渦巻いているのがわかった。

 








(くそぅ……くそぅくそぅくそぅ…………!!!)











 そして心に誓った。

 将来こいつらを、絶対に見損なわせてやる、と。










◆   一年後   ◆










「断る」

「うっ……!!」





一年前のあの時と全く同じ酒場の全く同じテーブルで、俺は、グリフィスの頼みを拒否した。






「俺はもう、パーティーを出て行くつもりはない。悪いなグリフィス」

「な、なあ……出ていってくれよ。俺たちやっぱり、お前がいちゃダメなんだよ……」





 あれから一年。

 

 俺は三つのマイナススキル・【自分弱体化・敵強大化】【逆加護】【オールフレンドポイズン】に覚醒していた。

 マイナススキルの一つ・【自分弱体化・敵強大化】は、戦闘時に自分と自分のパーティーメンバーのレベル・パラメータを100分の1にまで下げ、逆に相手のモンスターや魔王軍のレベルやパラメータを100倍にまで上昇させる、レア中のレアなマイナススキルだ。

 このスキルゆえに、今や俺はこのパーティーどころか、この国全体で見ても最弱の冒険者と言っていい。




 俺を慕ってくる仲間も、ずいぶんと減った。

 一般人や味方の冒険者に触れるだけで猛毒効果の状態異常に陥れる【オールフレンドポイズン】のおかげで、俺を最強だ、かっこいいと賞賛してきた冒険者も女達も二度と近寄ってこない。





 それどころか、この【オールフレンドポイズン】と、ただいるだけで遠方から敵をおびき寄せる【逆加護】スキルが相乗効果を発揮したのか、ただ近くの森を歩いていただけなのに神木と崇められている大樹を枯らせることになった。結果、今俺は森の民のハイエルフ族に追われており、命の危機に瀕している。





「な、なぁ、頼むよ……お前さえいなくなってくれれば、俺たちパーティーはもっと高みを目指せそうなんだ。頼む、出て行ってくれ! もちろん所持金もアイテムも全部俺に渡してくれ!!」

 その一方で、俺以外のメンバーは、一年の間で全員チートスキルに覚醒していた。

 今目の前にいるグリフィスは【攻撃力・防御力100倍】【全体攻撃・二回攻撃】に覚醒しているし、リオラは【即HP全回復蘇生】【無期限自動回復加護】に覚醒している。

 





 この一年間で、俺たちの状況は完全に逆転したと言っていい。






 まさに【ざまぁ】という言葉が似合う状況だった。

 一年前の誓い通りに、俺は自分を賞賛した奴らを見損なわせられたのだから。





「あなたがマイナススキルに覚醒したって知った時、私たちすっごく情けなかったのよ? お願い、パーティーを出て行って。私たちと縁を切って……!!」

 今更グリフィスの恋人面して、俺のことを無下に扱ってくるリオラ。

 掌を返すように態度を変えて来るこいつらに、俺は虫唾が走った。




「いくら頼まれても、もう答えを変える気はない。一年前に、お前らが俺を残留させたこと、忘れたと思ってるのか?」





 懇願してくる彼らを前に、俺は一年間心の中で溜め続けた感情を言霊にして紡いだ。





「いいか? 俺を残留させ、有能だ、最強だと褒めちぎってきたお前らに、今更出て行けなんて言われても―――」





 一年間、心の中で抱き続けてきた屈辱と憎悪のはけ口を、やっと見つけられた、という安堵と。

 今グリフィスとリオラが、俺のことを害虫のように見ながら、追い出したがっているという事実への快感を抱きながら。






「もう、遅い」

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