読書が苦手な彼女は (400字小説)

みちのあかり

願い

『君の腎臓が食べたい』


 それだけでよかった。

 それだけでよかったのに……。





 君と出会ったのは、大学に入ったばかりのある春の日。

 北国の春は初めてだった私は、ゴールデンウイークに桜が見られるなんて思ってもいなかった。


 お花見でジンギスカンを食べるなんて風習を知らない私を、君は笑いながら誘ってくれた。


 君と一緒になりたかった。


 私の腎臓が病気でボロボロになった時、君は『君の腎臓が食べたい』って本をプレゼントしてくれたね。


 冒頭しか読まなかったけど。


 そうか。君の願いは分かった。私に生きて欲しいんだね。

 それなら、私がすることは一つ。

 君の願いを叶えること。そうだよね。





『君の腎臓が食べたい』


 それだけでよかった。

 それだけでよかったのに……。







 刺すとこ間違えたみたい。


 これじゃあぐちゃぐちゃで食べられないじゃない。


 君があんまり騒ぐから。まったくもう。


 返り血の匂いでむせてしまった。吐きそう。




 ……食欲がなくなった。君のせいだよ。

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読書が苦手な彼女は (400字小説) みちのあかり @kuroneko-kanmidou

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