第154話 ボーナストラック

 ムデンは厳しい顔でお菓子を作っていた。精悍な顔、と言っても、だれも文句は言わないだろう。しかも背筋が伸びている。

「これでおじさまだったら」

 テティスの言葉に、ウリナが鼻で笑った。

「ほんと爺さん好きすぎだろ」

「あなたには良さが分からないのです」

「わからないんじゃない。卒業したんだ」

「卒業」

「そうっ、お父さーんと追いかけ回すようなことは卒業している!」

”アルバから追ってきてるじゃないですか”

 ボーラのその思念は大層気に食わなかったらしく、ウリナはボーラを追いかけ回している。

「ブル、どうしたの?」

 騒ぎをよそに、テティスはブルを呼んだ。ブルはテティスに抱きつくと、潤んだ目を向けた。

「料理をしている姿が、シレンツィオに見えました」

「だって本人だもの。私は心が読めるから、大丈夫、怖がらないでいいわ」

 ブルとテティスは額をくっつけあった。

「甘えてもいいんでしょうか」

「おじさまは気にしないと思うわ」


 実際、このやり取りも含めて大騒ぎをムデンは完璧に無視して扁桃の粉と砂糖を混ぜている。真剣である。


「それで、所有権はどうする」

 ウリナが戻ってきて言った。

 なんの所有権か、と言えば、もちろんムデンの所有権である。

「譲りませんよ」

「にゃーはお姫様から分けてもらいます」

”正妻は私ですがなにか”

「私に任せろ。アルバには知恵と伝統がある」

”全然信用ならない感じですが”

「黙れ羽妖精。男の所有権回しならアルバの右に出る国はない!」

”そもそも所有権というあたりが”

「じゃあ、ボーラはいらない、と」

”いるに決まってるじゃないですか”

「そうだよな。ほら」

「私はおじさまを手に入れるためなら世界滅ぼしても構いません」

「分かってるって。んでだ。まず5年をボーラに」

”私が一番なんですね。あー。時間的な話で?”

「うん。羽妖精は寿命短いからな」

”まあ、長生きする予定ですが、さておき。その後は?”

「私が25年」

「長すぎます」

 即座にテティスが横槍を入れた。ウリナは首を振った。

「エルフ年なら六年だぞ。それから先はずっとお前のものでどうだ」

「うっ」

「悪くない話だろ?」

「にゃ、にゃーは」

「そうです。獣人はあまり寿命がないのです」

「獣人はまともな婚姻制度がないんだからたまに借りるでいいじゃん」

「そ、それは……」

 ブルは話を聞いた跡、目を泳がせた。

「どんなに好きでも自由気ままに旅とかしたいんだろ。どうせ」

「それはそう、です」

「決まりだ」

 ウリナが自分の膝を打った瞬間に、ボーラが待ってくださいと思念を飛ばした。

”この際日替わりとかでもいいのでは”

「シレンツィオは目を離すといなくなる。だから駄目だ。逃げられたら自己責任のために、日替わりはなし」

”なるほど。逃げられたら自分の持ち時間が減ると、中々よく考えられていますね”

「だろ!?」

 ウリナは得意げに笑った。

 その時、ムデンが氷魔法を使い始めた。テティスが慌てて駆け出す。冷やすのは自分の仕事、譲れないと思っていたのである。

「ちょ、話途中だろ。というか抜け駆けすんな!」

 ウリナはテティスが頭を撫でられているのを見て立ち上がった。

 残されたボーラとブルは互いを見る。

”一瞬で瓦解する作戦だったか”

”心は自由とにゃーは思います”

”まったくですね”

 ボーラはそういったあと、ブルが自分を視えるようになったことに気づいて笑顔になった。

”また視えるようになったんですね。嬉しいです”

「にゃーも、嬉しいです」

”よし、じゃああの三人にまざりましょうか”

「うん」

 ボーラは飛んだ。ブルはおっかなびっくりで、様子を伺った。


英雄その後のセカンドライフ 今度こそ了










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 次回作もあります。是非御覧ください。

(2025年1月14日から、火曜土曜更新)

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書籍2巻好評発売中:英雄その後のセカンドライフ 芝村裕吏 @sivamura

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