リーエがふてくされた

 1か月前ではとても想像できなかった大発展を遂げて、世界樹の体力も半分ほど回復したし、女神の仕事としてはかなり上出来だと思うんだけど……。みんなにはやり方が不評だったことも多いんだよね……。


 ひとしきりのこれまでの私たちの激動の毎日の説明を終えて様子を見ると、あきれ半分、尊敬半分。これまたまぁまぁな反応だった。


「女神様すごいね……、私たちが何年もかけて積み重ねた負の清算をたった3か月でここまで持ち直すなんてさ」


 一応はすごさを認めてくれたリーエに、話がわかる~! って抱きつこうとおもったら、なんとなく表情に曇りが見えて、抱き着くのをやめた。


「どうしたの?」


「いや、別に……。私は世界樹をまた元気にするためにって思って帰って来たんだけど、私なんていても変わんないかなって思ってさ」


 私的には全然そんなこと気にしなくてもいいと思うけど、こればかりは当事者じゃないと分かんないことだし、なんて言葉をかければいいかに困ってしまう。


「リーエ、ほんとに言ってますか?」


「だってそうでしょ? 私がいなくても交易できてて、野菜も簡単に育てれてて、私の取り柄みたいなの全部なんとかなってるじゃん」


「でも……、私は何ともなっていないと思います……。この森の様子を見ながらここに来たんですよね?」


「まぁ、そうだけど」


「道を歩いてて植物に飲み込まれそうになる今の状態で良いと思いますか?」


「…………」


「今はリーエの歓迎のためにおいしいシチューを作ってありますが、この土地で主食はいまだに芋やベリーばかりで、お魚やお肉は食べれませんよ?」


「…………」


「家がこんな高所ばかりで下に町を作れていないのは今は下に住める状況じゃないからですし!」


「…………」


 ふてくされてるリーエに今の状況を正しく説明するためなのはわかるけど……、なんか聞いてる私がふてくされてしまいそうになる……。


「それに商会の資金はすっからかんで、よその町からは取引の妨害を受ける現状なので正規の取引もできません。何なら移住してくれる人も全然いませんし」


「…………」


「この土地にいた皆さんが帰ってくるためにはリーエの協力は絶対に必要です」


「できることなんてないよ……」


「サクナでこれだけのことができるんです。もっともっと立派なリーエはもっともっと素敵なことができるはずですよ」


「ちょっと、どういうことさ!」


 黙って聞いてたけど、さすがに失礼じゃない?


「世界樹が元気になるのは喜ばしいことですが、できればもっと普通の生活ができた方が良くないですか? 節度ある魔法も許容して、にぎわいがある町に戻ればいいなって私は思うんです」


 言いたいことは……、納得してしまう。


 確かに私がこの世界にきてしたことと言えば、町を破壊して、町を更地にして、商会の資金を空にして、先代女神から分けてもらった世界樹の枝を勝手に増やして、とんでもない生態系と森を作り上げた訳で……。


 確かにしてることはだいぶめちゃくちゃだし。普通の生活に戻りたいって言うのも正当な意見かもしれない……。


「え、この森のおかげでこの土地は今持ち直しつつあるんでしょ?」


「それでもです。今でこそ林レベルまで見通しが良くなりましたがそれでも手の入れれてないエリアはとんでもないことになってるんですから。少しは残したとしても将来的にはこの林も切り開いて、みんなが木の上じゃないところでも住めるようにするべきです」


 うーん、世界樹の回復ができた後に、町の復興が必要になるなんて全然思ってもみなかった。


 魔法を使って町を作ると世界樹がまた枯れそうになると思うし、交易で資材を運んできて作るにしても他の商会からの妨害はまだまだ続いてる。


 それに、他の世界樹で今のまま商人達が好き勝手してたら、そう遠くないうちによその世界樹が枯れそうになるかもしれない。そう考えると今はその場しのぎで世界樹を持ち直しただけで、事の解決にはなってなかったのか。


 ウミベの島の世界樹も、コーザンの山の上の世界樹も通うのも大変だし、この土地みたいに森を作って地力の補給をするのは難しそうだし、供物にできる物が無いか旧ホーサクの町から野菜を買い取って奉納jしてたんでしょ……?


 あれ? 前まではそれでつり合いが取れてたとしても、あの商人達が移動してから私たちが提供できる供物はかなり減ってるし、消費の方が増える一方で今よその世界樹かなり危険な状態なんじゃ……?


 となると──


「ハグミの言ってる街の復興も大事だけどさ、もしかすると他の世界樹が先に枯れて、この町で困った人達以上の人たちが難民になっちゃうかも……」


「……? 今私たちが供物を提供できているのにですか?」


「うん、今は私たちが物々交換できてるけどさ、他の信仰商会の人達がお金に糸目をつけずに買い込みに走ってるとしたらどう? 向こうの商会が私たちの変わりに身銭を切って、お金で買ったものをわたしたちの供物と交換して奉納してるんでしょ?」


「あ、それは確かにまずい……」


 リーエが私の考えに気づいたのか、顔色が悪くなる。


「どういうことです?」


「私たちの商会もお金が無いけど、信仰商会の組合のお金はどんどん商人達の懐に流れてるから、今の状態だと信仰商会はお金が無くなって、資金力がないから通常取引ができなくなっちゃう」


「もしかして、一部の商人はそれが狙いで気づいてるけど放置してた可能性もありそう……。うちのモーケル商会に頭がいい切れ者は少ないけど、他の町の賢い商人が全く気付いてないなんてことは多分ないよ」


 私たちが供物用の野菜を作って回復量より消費が多くならないように気をつけて供物を提供しても、向こうの消費には到底追い付かないだろうし……。無理に送るとこっちの世界樹に負担が偏るし……。


「良い感じに巻き返せたって思ったけど、ジリ貧な消耗戦は終わってなかったんだ」


 今でこそこの土地は地力の供給と世界樹の回復ができ始めたけど、もしもここまで巻き返せてなかったら、この地域と近隣の町が共倒れになってたのは間違いなさそうだ。


 他の世界樹までいって、その世界樹の女神様達と協力しないと……。


「リーエ、やっぱり私たちには貴女の協力が必要です。女神信仰をする立場の巫女としてはよその地域の世界樹も放ってはおけません。力を貸してください」


「うーん……」


「だめですか……?」


「いいけど、巫女としてじゃなくて親友としての頼みとかの方がいいかな。それなら損得勘定なんて気にしなくても本心から頑張れるからさ」


「なら、親友としてのたのみです。どうか……」


「いいよ。一度モーケル商会に帰ってこの土地のこと話してくる。それに他の商会とも掛け合って、魔法の消費を控えるなり、信仰商会の人達に不当な価格のつり上げするのやめてって言ってみるよ」


「助かるよ、ありがとね。リーエ」

 

「ねぇ、女神様。ハグミは女神様のこと不敬にもサクナって呼んでるし、私も女神様のことサクナって呼んでもいいかな?」


「……? 私はその辺全然気にしないから好きに呼んでくれていいんだけど」


「ならサクナ。新しい女神信仰者として、それと新しい協力者としてお願いがあるんだけどいい?」


「なに? 無理な事じゃなければ聞くよ」


「ハグミをこれ以上困らせないこと」


 ふてくされた気分も解消したのか、リーエが笑いながら私にお願いを告げて来る。

 今まで以上に距離感が縮まった気がして嬉しいけど、お願いの内容の難しさときたら何たることか……。


「善処はする」


「約束してって!」


 ともあれ、離れ離れになってから心配していたリーエと再会することができたし、大きな商会に話を通せる協力者にもなってもらえた。


 せっかくこの土地の世界樹は元気になりつつあるけど、まだまだやることはたくさんで女神としての使命を全うするのはまだまだ先になりそうだ。


 なにより、全部のことを片付けて、メギが本心から笑ってくれる日を目指さないとだよね。


 この世界に来る直前にメギとした約束をなんとなく思い出して今日までのいろいろあった日を思い返す。多分リーエにお願いされてた困らせないって言葉は果たせないんだろうけど、私なりのやりかたでこの土地を元に戻せたらいいな。


 

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世界樹の枯れた世界で女神になりました。 読み手のネコ @NARI_02_23

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