ダブルストーキング

 それから1か月くらいが過ぎた頃。


 ある日を境に突然なっちから、再び着電の嵐が鳴り響くようになった。

 だが、怖いのでもちろん無視。



 さらにしばらく経ったある日。

 友達との待ち合わせに向かうために車で家を出てすぐのこと。


 ほぼ私道と言える田舎道の真ん中に、真っ黒な巨大な物体が飛び出してきた。



「うぉおお! 危ねええっ!」【キキー!】


 轢く寸前だった。ったく何なんだよ。

 一言何か言ってやろうと、ドアを開けて車の前でうずくまる物体を見ると――



「え? なっち? こんなところで何やってんだよ。まさか、またストーキング――」


「違うの違うの! だって、月本くんが全然電話に出てくれないから」


「いや、つーか警察に俺には電話も近づいてもダメって言われてんじゃなかったっけ?」


「そうなんだけど、月本くんしか頼れる人がいなかったから」


「……どういうこと?」


 友達と待ち合わせをしていたが、さすがにこんなに色んな意味で凄い人を家の前に置き去りにはしておけない。


 会う予定だった友達には遅れると連絡を入れ、俺はなっちを車に乗せると地元のファミレスへ。


 なっちはそれまでずっと黙ったままで、何を考えているのかちっともわからない。


 到着すると、二人とも無言で車を降りる。


 駐車場をてくてく歩き、ファミレスの入口へと向かう途中。

 背後から突然声を掛けられた。



「みぃつけた。なっちぃ」


「きゃあああああ!!」


 振り向くとそこには本橋が。



「え? 何で本橋?」


「はぁ? それはこっちのセリフだよ。月本くんに相談しようと思っていつものファミレスに来てみたら、月本くんとなっちが一緒にいるってどういうこと?」


「いや、なっちがまた俺んちの前にいたから」


「だからって何で一緒にいるんだよ! おかしいだろ! アンタはなっちのことをずっと避けてたはずだろ!?」


 なんかすごい怒ってる。

 どうしたんだろ? こんな本橋は初めて見るな。



「とにかく落ち着けよ。意味わかんねーって」


「落ち着いていられるわけがねーだろ! とにかくなっちは僕のモノだからな! 行くぞなっち」


 言って、なっちの腕を無理やり掴む本橋。


 え~と、なんだろこれ?

 なぜか突然なっちを奪い合う三角関係みたいな展開になってるし(泣)



「やだ! いかない!」


「どうしてだよ!?」


 本橋はなっちを強引に連れて行こうとするが、確実に本橋の倍以上の体重があるなっちは微動だにせず。



「あのぉ、とりあえず中に入んね? ここだと逆に目だって恥ずかしいし」


 俺が言うと、本橋は興奮冷めやらぬ表情のまま、なっちから手を離し、今度はその大きな背中を押してファミレスへと入っていく。


 完全にもらい事故の感がある俺だったが、事の真相は確認しなきゃという謎の使命感が生まれ、しぶしぶ二人の後に続いた。



「で、何なのこれ?」


 6人掛けのソファシート。

 俺の正面には奥に本橋、間を空けた通路側になっちが座っている。



「『何なの』って何だよ!? 見て分かんねーかなぁ? 修羅場だよ!」


 何だよ修羅場って。

 変に恋愛にかこつけるのはやめてもらいたい。

 それに、修羅場感を出しているのは本橋だけだと思うけど。



「カズくん(本橋)がしつこいからじゃん! 私、もう辛い恋愛はしたくないのに」


 って、お前も何演出に乗っかってんだよ!?

 逆に俺だけが空気が読めない人みたいになってんじゃん!


 すると、なっちの言葉をふるふると震えながら聞いていた本橋が――


 

「はぁー!? お前正気か?

 見てわかんね? 俺、マジでブチギレそうなんだけど。

 俺がこれだけなっちを愛してるって言ってんのに、何でその気持ちに応えてくれねーかなぁ?


 なぁ、なっち。なっち! なっちよ!

 お前さ、自分のことしか考えてない自己中だって自覚あんの?

 俺がこれだけ苦しんでいるのを見て、恋人のお前は何も思わねーの?

 俺が辛くて死んだら、お前責任取れんのかよおおッ!!」


「「!!?!!?」」


「ちょ、え……お前、何言ってんの?(ドン引き)」


「月本くんは黙っててよ! これは僕となっちの問題なんだからさッ!!」


 こいつぁヤベぇ……、ガチで頭がおかしすぎる……。

 ふぅふぅと肩で息をして、完全に目の奥がイってしまっている本橋を無視し、俺は正面のいたたまれない様子のなっちにボソッと小声で尋ねる。



「ねぇ、コイツってもしかして……」


「うん、気が付いたら私のストーカーになっちゃって……」


 ですよねー!!!(号泣)



「あの……何だか本当にすいません」


 ストーカー本橋。

 そのあまりのイカれっぷりに唖然とする俺。



「お前ら、さっきから何コソコソしてんだよ! 月本くんよぉ! 分かってると思うけど、なっちは俺のモンだからな! 二度と手を出すんじゃねーぞ!」


 言いながら、ファミレスのフォークを俺に向けて威嚇してくる本橋。

 その姿に思わずメロンソーダを吹き出しそうになる。


 いや、どっちかと言うと俺が一方的にストーキングされていた方なんだけど(泣)



「うん、警察に電話すっか……(二度目)」

 


 こうしてストーカーがストーカーを呼ぶという、世の中的にも割とレアなダブルストーキングが完成したのであった(号泣)



 ちなみに、本橋は俺が警察にマジで電話をかけようとすると、突然態度を改めて、ソファの上で正座をし出し、深々と土下座。


 もう恐怖以外の何ものでもなかったので、その場は適当にいなし、その日は俺がなっちを送っていくことで場は一旦は収まった。


 だがしかし、暴走するストーカー本橋は、そのわずか数日後になっちによって通報され、警察にめちゃくちゃ怒られたらしい。


 まぁ、ストーカーの本質ってなかなか治らないんだろうね。。。



 結局なっちとは別れさせられたらしく、本橋は職場でもすっかり魂が抜けた様子。以前にも増してげっそりして、負のオーラ全開で逆の意味で浮きまくっていた。


 それからしばらくして少しずつ元気を取り戻して行ったが、俺は本橋から何を言われても女性を紹介することはなくなった(当然である)



 てなワケで、この意味不明なエッセイから改めてわかることはただ一つ。


 行き過ぎた行為はダメなのよ、ぜったい(知ってた)



 本橋とは会社を辞めてから一度も会っていないけど、今はただ犯罪者になっていないことを願うのみである(合掌)




〈おしまい〉



 ★作者のひとり言


 いやー、このお話が実話と言うのが一番怖いですね(震え声)


 最後にお願いです。

 このお話は、「カクヨムWeb小説短編賞2023」応募作品となります。

 もしよろしければ、★評価を1~3で付けていただけると大変ありがたいです。



 最後までお読みいただきありがとうございました(,,>᎑<,,)

 また別の作品でお会いできることを願って!

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ダブルストーキング~止まらないストーカーの恋愛バトル、そして時々メロンソーダ~ 月本 招 @tsukimoto_maneki

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