歓喜の舞

「月本くん! 今日はありがとね」


 本橋から電話がかかってきたのはその日の夜10時過ぎだった。



「あぁ、別に全然いーけど。てか、何でこの時間? もしかして、ずっとなっちと一緒だったとか?」


 尋ねると、電話の向こうでは謎の沈黙。



「それなんだけどさ、ちょっと聞いて欲しいことがあって。今から月本くんちの近くのファミレスで合流しない?」


 なんだろう。

 まぁ明日も休みだし、特に予定もないので二つ返事でOKする。


 それにしても今日はファミレスばっかだな。

 到着して中に入ると、すでに待っていた本橋は俺を見つけて手を挙げている。



「よぉ、来たよ。今度は何だよ一体」


「まぁまぁ。あ、ドリンクバーは先に頼んでおいたから。どうせメロンソーダだと思って持ってきておいたよ」


「……だから怖えっつーの」


 テーブルにあったポテトフライを一つつまんでソファに腰かける。

 すると、本橋はいきなり俺の手を両手でがっつり握ってきた。



「は? ちょ、え? なにこれなに!!?(ドン引き)」


 怖気に襲われ、手を引き抜こうとするが、本橋は信じられないほど強い力でそれを許さない。



「本日、自分は月本招つきもとまねきくんのおかげで、素人童貞を無事に卒業することができましたあああッ!!!」


「!!?!!?」


 ファミレスの中で大声で俺のフルネームを叫び、俺の手をぶんぶんと振り回す本橋。


 もちろん、周囲の目線は俺たちに一点集中。


 ここは地元のファミレス。

 知り合いは……いないようで助かった。



「ちょ、わかったからとりあえず離せっての!」


 何とか本橋の手を振りほどくと、とりあえずメロンソーダをゴクリと飲んで心を落ち着かせる。


 それにしても――



「あのさ、童貞捨てたって、相手はその、やっぱり――」


「なっちさんだよ(にこにこ)」


 言われてみれば、何だかやたらとツヤツヤしている気がする。

 こんなに穏やかな表情の本橋を見るのは初めてかもしれない。



「まぁそうだよな。でも、今日会ったばかりで……その、何かスゲーな(ドン引き)」


「何言ってんの? 自分だって前に合コンでお持ち帰りした話とかしてたじゃない」


「いや、合コンと今日の……紹介? は全然違うんじゃ。大体今日は酒も入ってないだろ。それに素人童貞のくせに、会ってすぐなんてスゲーと思って」


「フフフ……。今まで僕が素人童貞だからって格下に見ていたと思うけど、これからは対等な立場として付き合ってもらうからね」


「いや、本橋の場合は素人童貞云々は関係ないと思うけど……」


 でもまぁ……

 本橋がこれだけ喜んでるんだからいいのかな。


 たぶん。

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