再会
推定体重100kgオーバーの巨大な女、なっちにストーキングをされた話を同僚の本橋に伝え終えると、彼は突然なっちを紹介して欲しいと頼んできた。
もちろん動揺しまくりの俺である。
「はあああ!? てか、マジで言ってんの?」
「マジマジ!!」
「本橋さ、俺の話ちゃんと聞いてた?」
「今ガッツリ聞いてたじゃん」
「うわぁ……」
普通にドン引きである。
ちなみにこの本橋。
同期と言うこともあって、普通に呼び捨て&タメ口を利いているけど、歳は俺よりも5つ上である(結構後でわかったんだけど、本人は全然構わないらしかった)。
なので当時27歳。そして素人童貞。
風俗には有り金全てをぶち込む勢いで通っているので、プロとは何度も対戦経験があるそうだ。
「なぁ、一応聞くけど、本橋ってそっち?」
「あぁ、ふくよかな人が好みってこと? うんそうだよ(あっさり)」
「うわぁ……(二度目)」
いやー、なんかコイツすげえな(汗)。
でも確か、なっちってホスト通いが趣味って言ってたもんな。
言っちゃ悪いが、本橋のようなメガネのガリガリ君は全然タイプではないだろう。
だが、実際に二人が会ってなっちがそう思ったとしても、さすがに警察沙汰は避けたいだろうから、再び俺に矛先が向いてストーキングしてくるような真似はしないはず。
ならこの話……面白そうじゃん(ニヤリ)
(この間、0.6秒)
「オッケー。いいぜ。んじゃ今から電話してみるか?」
「マジかよ!? さすが月本くん。行動早いッ!」
「いやー、まぁそれほどでもあるけど」
という流れで、なっちに電話をすることに。
ストーキングはされたけど、別に二度と会いたくないってほど嫌っていた訳ではないし(ただ怖い&迷惑だっただけ)、そこは躊躇なく発信したのだった。
――TRRRRR
「え? あ、はい。月本くん?」
「あー、お久しぶり。あのさ、今って電話大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫だけど」
「突然ゴメンね。実は、俺の友達がなっちに会ってみたいって言うもんだから電話しちゃった」
「月本くんの友達が?」
「そうそう。で、もしよかったら俺も最初は顔出すから、近いうちに飯でもどうかなって」
言って、しばらく沈黙が降りる。
確かに俺がなっちの立場なら警戒すると思う。
自分がストーキングしていた相手が突然電話をかけてきて、友達を紹介すると言い出しているのだ。
別に悪いことは何もしていないのに、何だか罪悪感が湧いてくるのはなぜだろう。
「行くうううう!」
杞憂だった……。
なっちは電話越しでもわかる大喜びした様子ではしゃいでいる。
いくつ? 何してる人? 身長は? 仕事は? 趣味は? 車は?
などなど、早口で思いつく限りの質問をぶつけてくる。
「あー、それはさ、会ってから直接本人に聞いてよ。で、いつなら空いてる?」
「それなんだけど、月本くんたち、今一緒にいるってこと?」
「そうだよ」
「じゃあ、今から会おうよ。どっかの駅で待ち合わせでもいいし」
うわぁ、スゲー食いついて来るじゃん。
やっぱ怖えんだけど……
結局、なっちの家から近いと言うファミレスで待ち合わせをすることになった。
俺と本橋はそれぞれの車で向かう。
電話から1時間30分後。
俺となっちは約一年ぶりの対面を果たしていた。
久しぶりに見たなっち。
彼女はさらに太っていた。
もう、とにかく凄い。とにかくデカい。
たぶん、当時の俺の2倍近い体重はあったと思う。
ヒールを履いて、全身黒で固めたあまりにも巨大な女は、完全にラスボス格の強烈なオーラをまとっていた。
その姿は、恐怖のあまり近くにいた子供が泣き出す有り様。
「あー、こっちが俺の友達の本橋。で、こっちがなっち」
6人掛けソファテーブルになっちの対面に座った俺は、凄く雑に二人を紹介した。
「あ、えと、本橋です」
「どぉもぉ、なっちです」
本橋はどうでもいいとして、気になるのはなっちである。
俺はメロンソーダを飲みながら、チラリとその表情を窺う。
うん、何考えてるか全然わかんないや。
でも、これで俺の役目は終わったのだ。
てなワケで、用も済んだし退散だな。
「じゃあ俺帰るわ」
「え? 月本くん、もう行っちゃうの?」
「あー、このあと別件があって(普通にヒマです)」
「そっかぁ。久しぶりに会えたからもっとお話したかったのにぃ」
「いやいや、あとは二人で楽しくやってよ。んじゃまたな、本橋」
「うん、今日はありがとね」
手を振ってその場を離れ、駐車場の車に乗り込み、ふと思う。
あれ? もしかしてこれって良いことしたんじゃね?
たまには人の役に立つのも悪くないなー。
この時はそんな風に思っていたっけ。
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