ストーキング
中学の友達男女7人が集まって作ったお遊びサークルが、友達が友達を呼ぶようになって徐々に大きくなっていった。
そのサークルの幹事だった俺(当時一番ヒマだったことが主な理由)は適当にホームページを作り、そこから月一程度の飲み会に数人のゲストを受け付けることができるようにしたんだけど、そこに応募してきたのが〈なっち〉と名乗る女だった。
なっちは積極的だった。
俺が当日の時間と場所をメールで連絡すると、すぐさま返信をしてきてなかなか艶めかしい情報を送ってきた。
・ホストの彼と別れて、寂しかった時に地域の掲示板でこのサイトを見つけたこと
・背は170㎝でEカップあること
・去年までレースクイーンをしていて、現在は芸能事務所で働いていること
(本当にどうでもいい話だけど、当時の俺は背が高い女子が好きだったのだ)
『ほほぅ、そりゃ可哀想に(フフフ)。それならこの月本が色んなところを慰めてやらないといけないようですな』
というバカな妄想が頭を支配し、つい俺はなっちの携帯に電話をしてしまったのである。
「で、テレホンセックスしたんだっけ?」
「してねーよ! いや、しそうにはなったけど、そこはやり方がよくわかんなかったから未遂で終わった」
「ホントかなぁ」
「ホントだってば! んじゃとりあえず続きな……」
その時は確か2時間近く電話で色々話して、俺も当日を楽しみにしてたんだ。
で、当日。
待ち合わせ場所に時間の5分前に着くと、そこにはすでに半数以上が集まっていた。
身長170㎝の元レースクイーン。
さてさて、もう来ているのかな?
俺がキョロキョロと辺りを見渡していると、背後から声を掛けられた。
『こんばんは、月本さんですよね。お会いしたかったですっ』
振り向くと、そこには俺(179cm)とほとんど身長が変わらないデカい女が立っていた。
『あぁどうも。えっと……』
『あたしです! 先日電話でお話させてもらった――』
(ッ!!? まさか、なっち……なのか!?)
ヒールを履いていたのでめちゃデカではあったけど、確かに身長は170㎝くらいだろう。
それに、胸も確かにデカい。Eカップと言われたらそれくらいありそうだ。
しかし――
(クソデブじゃねぇかああああああああ!!!)
なっちはデブだった。
体重は相撲の新弟子にスカウトされそうな、貫禄の推定100kgオーバー。
全身黒で固めたそのいで立ちも相まって、魔王のようなオーラを放つ真っ黒で巨大な物体は、駅前にいた人々の視線を一点に集めていた。
『アガガガ……』
『今日は沢山話しましょうね、ウフ』
その日の飲み会では、俺はなっちによって角に追いやられ、ほぼ
精神がだいぶ削られていたため、当然二次会には行かず、早々に引き上げたのであった。
それからもなっちからの飲み会への申し込みは続いたけど、身の危険を感じた俺は返信をせずにいた。
そしてしばらくすると、携帯に昼夜問わず電話がかかってきたため当然のように着信拒否。
知らない番号からの電話にも当然出ないという徹底っぷりでガードを固めていた。
なっちの恐怖は約2カ月ほど続いたけど、ある日を境にパタリと申し込みも知らない番号からの着電もなくなった。
そして、俺は元の日常を取り戻す。
しかし、真の恐怖はここからだったのだ。
ある日の休日。
ウチの飼い犬がやたらと吠えていたので目が覚める。
誰か来たのかと思って、二階の自室の窓のカーテンの隙間から外を覗くと……
なっちが門の横に立っていたのだ。
『ちょちょ、え、なんで!? だって、ウチって最寄駅から徒歩1時間くらいかかるど田舎だし、なっちって車持ってないって言ってたよな? それに、そもそもどうやってウチの住所がわかったってんだ?』
色々パニック!
しかし冷静に考えてみると、当時はまだハローページにウチの住所が載っていたのである。
それを頼りに、俺の出身中学を他の連中から聞いたなっちは、学区内にある俺の苗字をしらみつぶしに当たったということだろう。
駅から離れたクソど田舎
庭だけはやたらと広い
たぶん、持ち合わせていた情報はそれくらいだろうけど、なっちはそれだけの情報でウチまでたどり着いたのだ。
「いやー、あれには本当に参ったぜ。両親が仕事に行くのを見計らって週に2~3回待ち伏せてやがるから俺も気持ち悪すぎて家を出られなくて、おかげで当時のバイトをクビになっちゃったし」
「結局警察沙汰になったんだっけ?」
「そうそう。しょーがないから通報したんだよ。それで結構叱られたっぽくて、何とかおさまった」
「へー」
ここまで伝えてふと思う。
本橋はなぜ今さらその話に興味を持ったのだろう、と。
「別にそんなに面白い話じゃねーだろ。なんで今それ?」
そう尋ねると、本橋は予想の遥か斜め上を行く言葉を口にした。
「……実はさ、そのなっちさんだけど、僕に紹介してもらうことってできないかな?」
しばらく唖然としてしまう俺なのであった。
★作者のひとり言
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