006


 冒険者ギルドに入ってすぐ、目の前に酒場があった。高い窓から差し込む太陽の光が埃まみれた壁に当たって、薄く輝きだす。それでも男女問わずみんなは酒場にいて、お互いに喋りながら嬉しく酒を飲んだり、食事をとったりしている。


 アイザックには不思議な光景だった。ずっと森の中で一人研究していたから、このような光景を見たことがない。訝しげな顔をしながら、アイザックは思わず足を止めて、あの妙な光景をじっと見つめる。これは一体なんなんだろう? などと思いながら、妙な感情に襲われていた。


 あの妙な感情が深く体内に染みこみ、直接心臓を襲いかかるかのように蔓延る。そしてその一瞬にして、アイザックは圧倒的な淋しさに包まれていた。しかしその淋しさは人生のように儚くて、次の瞬間までもうとっくに消えていた。すると思わず足取りを止めたアイザックは再び歩き出す。


「ようこそ、迷宮都市アンブローズのギルドへ」


 受付嬢が基本な挨拶をしてくる。それにエリスは軽く手を上げて挨拶を返す。


「やあ、エレナ」

 

 と。


 するとお姉さんに続いて、リラも丁寧に頭を下げて挨拶を返した。

 

「こんにちは、エレナさん」


「あ、エリスにリラ。こんにちは。依頼はどうでしたか?」


 二人は誰なのか気づいていたら、受付嬢は優しくエリスとリラに微笑みかけて言った。


「うん、大丈夫だったよ。……一応」


 エリスの言葉に受付嬢は少し首を傾げるが、何か言う前に、エリスは銀貨二枚アンズをカウンターに置いて言葉を続けた。


「とにかく依頼は大成功だったから心配はいらないよ。報酬はあとで貰う」


「はい、わかりました」


「うん、ってとこで、新入りを連れてきたよ。ほら、自己紹介しなさいよ」


 エリスは言う……もとい命令すると、アイザックに目をやる。


「ああ。どうも、アイザック・クロスです」


 そう言うと、アイザックは恭しく頭を下げる。すると受付嬢はほほ笑みかける。


「こんにちは、アイザックさん。私はエレナと申します。新入りさんってアイザックさんのことですね。よろしくお願いします」


「うん、こちらこそよろしくお願いします」


「じゃあ、せっかく新しくギルドに登録するので、いまからギルドの説明をさせていただきますが、それはいいでしょうか?」


 受付嬢が聞いた。それにアイザックは頷いた。


「うん、いいですよ」

 

 すると受付嬢はギルドの説明を始めた。


 基本的にギルドは冒険者達が登録する施設である。ここで仕事を受けて、クリアする次第に報酬がもらえる。さらに冒険者であったら、迷宮に潜ることもできるようになる。

 

 その後はランク上げとか依頼に失敗すればとか、とりあえずいろいろ説明された。


「以上で説明を終わらせていただきます。わからないことがあればその都度、またお尋ねくださいね」

「分かりました」

「ではこちらの用紙に必要事項をご記入下さい」


 そう言うと、受付嬢が用紙を一枚、アイザックに渡した。用紙には名前とか年齢、そういうのが載せてある。それを見てアイザックは差し出された羽根ペンを受け取って、空欄を埋めていく。


 すると一分後、登録用紙を受付嬢に手渡した。

 登録用紙を受け取った受付嬢は「では少々お待ちください」って言い残すと、カウンターの後ろにある部屋へと向かって入る。


 そして五分後。


「ただいま、戻ってきました。これとこれを受け取ってください」


 受付嬢が言うと、アイザックに真っ黒いカードと白いカードを手渡した。


「その真っ黒いカードはギルドカードで、白いカードは身分証です。なくさないように気を付けてください。特に身分証のほうです。それがないと、他の国や迷宮都市にお金を払わないと入られないですから」


「はい。わかりました」


「では以上で登録は終了です。仕事依頼はあちらのボードに添付されていますので、そちらをご確認の上、依頼受付に申請して下さい。冒険者、頑張ってくださいね」


 そう言うと、受付嬢がやさしく微笑む。すると、


「じゃあ私、ちょっと用事があるからお先に……」


 そんなことを言った。それにアイザックは微笑み返すと、返事をした。


「いえ、大丈夫ですよ。用事、頑張ってね」


「ありがとうございます、アイザックさん。では、私はここで」


 そう言い残すと、受付嬢は踵を返し、さっき入った部屋に戻った。


(なんの用事だろうな)


 と、アイザックは思うと、深呼吸をする。するとエリスとリラに視線を向け、これからどうすればいいと言わんばかりの顔をする。


「よかったじゃない。なぁ、リラ」


 エリスはリラに聞いた。するとお姉さんの言葉を聞いてリラは頷き、言い返した。


「うん。よかったですね」


(いや、何がよかったんですか)


「さて、そろそろ行くか」


「そうですね」


(勝手に話を進むな!)


「あ、二人ともどこ行くの?」


 アイザックが聞くと、返事してくれたのはエリスだった。


「あんたの新しい服、買いに行くに決まってるでしょ」

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不老不死の錬金術師、新しい世界で目覚めたら人生を満喫したいと思います 鏡つかさ @KagamiTsukasa

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