第39話 もろきゅう

 なんかまだ暑い、九月。


「たいしょー、いつもの!」

「へい」


 今日も今日とて、幼女魔王は暖簾をくぐった。



 天空都市失墜祭りから、およそ一週間ほど。会場の後片付けで酔っぱらった幼女魔王の首を切断し、蘇生し、二日酔い対策のウコンを飲ませてから、一週間だ。

 うちの魔王様は、酒に懲りるということがないらしい。


「……おまつりびーるも、いいけどさ」

「へい」

「っぱ、がらすのぐらすががらがらす~だよね」

「へい」


 がらがらす~とは、魔界の昔の流行語で、大体ごいごいす~という意味である。俺は意味を知らないが、とりあえずうなずいておいた。


「ふふ」


 暗くほほえむ、幼女魔王。

 ピンクのツインドリル髪が、顔に影をつくっていた。


「――――いしゃに。おこられました」

「怒られましたか」

「ん。おこられました」


 機械メイド皇帝に怒られたらしい、幼女魔王。

 そういえば、まどくドックでは一応よくない判定をくらっていた。

 そこに、連日の暴飲暴食夏祭りわひゃーいである。


「いつおこられるのか、とはおもっていた」


 そら、怒られますわな。


「んでんでんでー」

「へい」

「さいけんさが、ちかいです」

「今日は、お店閉めましょうか」

「や!」


 や! らしい。


「なんかこー……けんっこーてきなやつ、ちょーらい!!!!!」


 既に大ジョッキを空にしておいて、無理があると思われた。

 だが、幼女魔王はお客様なので。

 善処は、する。


 洗って。


「じゃーじゃー」


 切り。


「とんとんととんとんとととん♪」


 タレをまぜる内に、ひやす。


「こおりみずになりたい」


 と、いうことで。


「へい、おまち」

「からだによさそー!!」


 もろきゅう、である。

 甘口の味噌だれに、切って冷やしたキュウリを、ドッキングする料理だ。

 料理だろうか。

 手軽でも、料理なら料理だといいはることにした。


「……しゃき、とも。ぽり、とも、ちがう」


 キュウリをかじかじする、幼女魔王。


「…………ぽっきん!!!」


 答えを得たらしい。

 魔王城の最上位者は、やはり頭がいいのだろう。


「ぽっきんぽっきんしゃっくしゃくあみゃじょっぷぁ~!」


 すごい勢いで、キュウリインザ味噌たれ。ぽき。キュウリインザ味噌たれ、を繰り返す、幼女魔王。ビールの減りもはやい。

 ……数秒後。


「きゅーりいんざ……あぇ?」


 タレが、切れた。

 肉みそを混ぜているので、タレの粘度が高く、一度で多くとりすぎてしまったようだ。キュウリはまだ、いっぱい残っている。


「……たいしょー」

「へい」

「おかぁり! みそだれー!」


 俺はほほえんだ。


「再検査では、ないので」

「うぐっ」

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幼女魔王にツマミとビールを捧げるだけの簡単なお仕事です @syusyu101

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