第14話 鬼兄弟の結末

 気まずい雰囲気が、俺とリーファスの間に流れる。そんな俺たちにお構いなしに、鬼兄弟は、なおも言い争いを続けていた。


「お前だけでも逃げろ!どのみち、ここで死ぬか、将軍様に殺されるかの違いしかないんだ!」


「い、嫌だよ、お兄ちゃん!お兄ちゃんが居なくなるなんて、絶対に嫌だよ!」


 議論は、平行線のようだ。お互いの事を思っているが故に、お互いに引けないのだろう。


 そんな様子を察してか、リーファスが小さな声で俺に問いかけてきた。


「……どうしますか、ザイズ様。もし、ザイズ様がよろしければ、私たちの領地に迎え入れるなんて事はできませんかね…?」


「……まあ、そうだな。ここで、俺たちがこいつら殺したら、まるで俺たちの方が悪役みたいだし……。」


 まあ、一応、裏ボスという役割であったのだが。


 どうやら、リーファスと俺の意見は一致したようだ。流石に、この光景を見て、火の玉をぶつけられるほど、血も涙もない人間ではない。


 考えがまとまったため、俺は、言い争っている鬼兄弟に向かって声をかけた。


「何となく、お前らの事情は分かったから、お前たちさえ良ければ、俺たちの領にお前らを迎え入れても良いけど。」


 鬼兄弟は言い争うのを止めて、同時に俺の方を見た。


「「ほ、本当ですか?」」


 鬼兄弟二人の声がハモる。


「こんな事で、わざわざ嘘なんか言わないだろ、普通。」


 俺がそう言った途端、鬼兄弟は二人とも涙を流しながら抱き合った。


「お兄ちゃん!良かったね!本当に、良かったね!」


「ああ、これから新しい道を歩んでいこう、俺たち二人で!」


 本当に心の底から、喜んでいる姿を見て、心が温かくなる。何だか、少しだけ良いことをした気分だ。隣を見てみると、リーファスが少し涙ぐんでいるように見えた。


 そんな温かく、感動的な雰囲気の中に、突如、調子外れの歌声が聞こえてきた。


「『来たれ我が勝利 栄光に向かって進め 決して膝を折ることなく 勝利をつかむまで進み続けろ その先に我が軍の求める栄光がある 先程から意気揚々と軍歌を作ろうとしてくる青髪がうざい 溺れるのに打ち勝て』~♪」


 ……おい、その汚い歌を歌うのを止めろ、ラミーダ。


 折角、良い雰囲気だったのに、全てが台無しになるような歌だった。というか、あいつ地味に気に入ってたのか、この軍歌。


 当然、鬼兄弟もリーファスも涙を止め、呆然と歌声のする方に顔を向けている。


「『勝利のためにザイズ様に全てを捧げよ その血も肉も骨もザイズ様に捧げよ 魂すらも 捧げよその心臓』~♪」


 正門の扉が開いて、ラミーダが鬼兄弟の前に現れた。


 ラミーダは鍵がなければ開かないはずの正門の扉を力尽くでこじ開けていた。なんという、馬鹿力だろうか。


 聞くにたえない歌を歌い続けている、ラミーダが姿を見せたので、いい加減止めようと思い、俺はラミーダに声をかけようとした。


「おい、ラミーダ………」


「『うんちーーーー』~♪」


 ラミーダは、下ネタを大声で歌いながら、手に持っていた剣を振り下ろした。


 おい、ラミーダ、最後の部分は、『んちーーーー』じゃなかったのかと突っ込む暇もない。


 眼前には、ラミーダに真っ二つにされた鬼兄弟と、魔物を倒して満足げな表情をしているラミーダという衝撃的な光景があった。

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悪役貴族に転生したけど1000年間勇者を待ってます ~ただ真剣に領地を治めていたら、いつのまにか世界最後の砦の名君と崇められていた件~ 憂木 秋平 @yuki-shuuhei

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