第13話 敵襲

 静寂を最初に破ったのは会議室にいた誰でもなかった。


「ザイズ様、正門の方に何やら怪しい魔物が現れました!」


 焦った声を発しながら、会議室に飛び込んできたのは、正門の見張りをしていた人間だった。


「数は?」


「発見できたのは、今のところ一匹です。鬼のような出で立ちをしていました。」


「分かった。すぐに向かう。」


 俺は。そう告げると、すぐさま会議室を飛びだした。


 後ろには、リーファスだけがついてきていた。


 正門には、すぐに辿り着いた。


 見ると、報告にあったような赤い鬼のような魔物が、しきりに正門の分厚い扉を棍棒で殴っていた。


 俺と、リーファスは、そんな鬼の魔物の姿を、扉の上の見張り台から見下ろす。


 何やら、相当に必死な様子に見える。しかも、どうして一人で乗り込んできたのだろうか。あまりにも、無謀なように思えた。


 俺は、何だか、開くはずのない扉を叩き続ける、鬼の魔物の姿が哀れに思えて、思わず声をかけてしまっていた。


「……何してんの?」


 返事はない。ガンガンと扉を叩く音だけが聞こえる。


「……ちょっと、扉が傷むから止めて欲しいんだけど。」


 ガンガン。


 やっぱり返事はない。


 この鬼の魔物の目的はよく分からないが、話が通じないなら、倒すしかない。そう思い、俺が鬼の魔物に向けて手をかざしたとき、脇の茂みから何かが飛び出した。


 それは、見た目が、扉を叩いている赤い鬼の魔物と瓜二つの、青い鬼の魔物だった。


 その青い鬼の魔物は、手に何も持っていないどころか、涙を流しながら、赤い鬼の魔物に抱きついた。


「もう止めてよ、お兄ちゃん!」


「ば、馬鹿、出てくるなっていっただろうが!俺に任せて、お前は隠れてろって!」

 

 それまで、一切言葉を発することなく、一心不乱に扉を叩き続けていた赤い鬼の魔物がはじめて、動揺した様子を見せ、青い鬼の魔物に答える。


 俺はというよ、突然の状況の変化に、困惑するしかなかった。そのため、赤い鬼の魔物に向けて放とうとしていた、魔法を放つ機会を逃してしまい、呆然と、魔物同士のやりとりを見ているしかなかった。


「五大将軍様からの任務とはいえ、もう無理だよ!帰ろう、お兄ちゃん!」


「こんな、何の戦果もあげずに帰るなんて無理に決まってるだろ!」


 何となく、今の会話で状況が分かったような気がした。おそらく、この鬼兄弟は、五代将軍とやらから、二人でこの領地に攻め込むといった、無茶な任務を押しつけられているのだろう。そして、赤い鬼の兄貴の方が、青い鬼の弟を守るために、単身で、特攻してきたということだろうか。


 だとしても、この状況、俺たちはどうしたら良いのだろうか。何となく、この二匹の魔物を殺すことに躊躇いが生まれてしまった。


 どうしたら良いのか分からず、とりあえずは、二匹の魔物を見ていることしかできんかった。

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