最終話 終戦後2 

チロルを連れ、城に戻ったエンデ達。


ヴァネッサが、その場を離れると

チロルの態度が、一変する。


「悪魔どもめ、

 よくもこの私に、無礼を働いたな!

 覚悟しろ!」


強欲の剣を手に、構えるチロル。


「あっ!

 ヴァネッサ!」


エンデが、声をかけると

チロルは、慌てて剣を手放した。


「あっごめん。


 人違いだったみたい」


エンデのその言葉に、

顔を真っ赤にするチロル。


この状況に、周りの仲間も

笑うのを堪えている。


「き、貴様ら・・・・・

 絶対に許さないっ!」


そう言い放ち、ぷんぷんしていると

ルンが、割って入る。


「お主らも、ふざけるのも、そのあたりにして

 本題に入ろうではないか」


「うん、そうだね。


 揶揄って、ごめん。


 チロルだったかな?

 君を、ここに招いたのには理由があるんだ」


「なんだ?

 悪魔と取引など、絶対にお断りだ!」


強く言い放ったチロルだったが

エンデが取り出したアンジェリクの屍を見て

動きが止まる。


「え・・・アンジェリク様?・・・・・」


剣を手放し、ヨロヨロとアンジェリクの屍に歩み寄ると

膝をついた。


「どうして、こんな・・・・・」


「ダバンが、助けに向かったんだけど

 遅かったみたいで・・・・・」


「答えろ・・・貴様らの仕業ではないのか?」


その問いに、ルンが答える。


「それは違う。


 精霊女王の名のもとに、誓うぞ」


「ならば、誰が!?」


「人族だ」


「・・・・・」


「チロル?」


無言のまま、立ち上がったチロルが、

口を開く。


「・・・用が出来た」


それだけ言い放った後、

踵を返し、部屋を出ようとするチロルに

エンデが、声をかける。


「ちょっと待ちなよ。


 だいたい何処に行こうとしているかは

 わかるけど、その前に、アンジェリクの屍を

 天界に、持って帰って欲しいんだ」


その言葉に、足を止めた。


「・・・・・わかったけど

 どうやって帰れというのだ?」


「それは、問題ないよ。


 ついてきて」


エンデが案内したのは、城の裏口。


「開けてみてよ」


言葉に従い、チロルが、扉を開けた。


「嘘でしょ・・・・・」


「へぇ~、ここが何処かわかるんだ」


「当然だ。


 だが、どうして・・・・・・」


「よくわからないけど、

 こうなっているんだ。


 でも、ここからなら、天使族の領域まで、行けるよね」


「勿論だ。


 でも、悪魔に出会ったら・・・」


「それは、問題ないよ。


 魔族領と精霊族領は、僕の配下が、案内に就くから。


 それと、途中の宿も、手配するよ」


「わかった・・・感謝する」


アンジェリクの屍を見てから、チロルの態度は変わった。


やはり、同じバルキリーの死は、余程堪えたと思える。


一晩、城に泊まった翌日。


装飾を施した棺に入れられたアンジェリクとともに

チロルは、魔族領から、天使族領へと旅立った。



その日の深夜。


嘆きの沼の畔に、ルンの姿があった。


ルンは、嘆きの沼に向かって声をかける。


「もう、返事が出来るんでしょ、

 いいかげん、姿を見せてよ【カムス】!」


「懐かしい名前だね【ルーン】」


そう答えた後、沼の一部が、膨れ上がり

人の姿へと変化するが、その人型には、羽のようなシルエットがあった。


この嘆きの沼の正体は、デモンこと生命の神カムスが

変化したもの。


古き時代、生命の神カムスと、大地の神、ルンことルーンと

世界樹【ユグドラシル】により、この世界は造られた。


ルーンが、大地と海を造り、ユグドラシルが、環境を整えた。


そして最後に、カムスが、この世界に命を吹き込んだのだ。


だが、光があれば、影があるように

2人が気付かない間に、大きな魔素溜りが出来ており

そこから、大魔王【デムレビューレ】が、産まれてしまう。


デムレビューレは、人族を贄とし、仲間を増やし

世界を破壊しようと暴れまわったのだが

それを、カムスとルーンが赦す筈がない。


2人は、デムレビューレと真っ向から対決し

何とか退治することが出来たのだが

デムレビューレを、完全に消滅させることが出来なかったのだ。


だが完全に消滅させなければ

再びこの世界に、不幸が訪れる。


戦いの最中さなか、神カムスは、

自身を犠牲に、大魔王デムレビューレを消滅させる方法を思いつくと

完全に、弱ったところを狙い、その方法を使い、

大魔王デムレビューレを消滅させることに、成功した。



しかし、その代償は大きく、神カムスは、

意識もなく、動くことさえままならない

変異種のスライムと化してしまったのだ。


その後、スライムと化したカムスは

数百年の後、魔王ベーゼと出会い、現在に至る。



「久しぶり・・・・・と、言ったほうがいいかな?」


「確かに、久しぶりよね。

 

 まぁ、あの子には、色々と手を貸していたみたいだけど!」


「そう、怒らないでよ。


 こうして会えたのに、つれないじゃないか?」


「そ、そんなの、あんたが悪いからでしょ!」


「ハハハ・・・ごめん、ごめん。


 でも、この形を取れるようになったのも、最近なんだよ。


 それに、まだ、ここから長く離れることはできないんだ」


「それって、大魔王が、まだ生きているっていうこと?」


「ううん。


 もう、奴はいないよ。


 離れられないのは、この体になったせいかな。


 でも、何時か・・・・・

 まぁ、期待しないで、待っていてよ」


「それって、また何百年、何千年って話でしょ。


 本当に、何時まで待たせるのよ・・・・・」


「お互い、死ぬことはないんだから、

 そんなのすぐだよ。


 それに、これからは、ここに来れば、話はできるんだから」


「まぁ、暇があれば、来てあげるわ」


「うん、待っているよ。


 ところで、何か、話があったんじゃないのかな?」


確かに、ルンがここに来たのは、理由があった。


「実は・・・・・」


ルンが話したのは、これまでの事と、

大魔王の残滓と呼べる大罪の剣の封印を解き

この戦いに用いたことだった。


「大罪の剣は、厄介だね。


 大魔王は、何処から復活するかわからないから

 あの剣は、封印しとかなければ、ならないんだ」


「わかっているけど、精霊女王として

 私が話しても、天使族は、聞く耳持たないのよ」


「なるほど、そういうことなら、一度、帰ってみるよ」


「えっ!

 それって、大丈夫なの?」


「うん、さっきも言ったけど、

 少しの間なら、問題ないから

 明日にでも、マリスィの所に行ってくるよ」


「うん、そうしてくれると、ありがたいわ。


 それから、あの子のことも、言っておいてよね」


「勿論だよ。


 僕に任せておいてよ」


「フフフ・・・信用しているわよ、カ・ミ・サ・マ」


「あはは、君だって、神様だろ。


 そんな君に言われると、くすぐったいよ。


 じゃ、そろそろ行くよ。


 またね、大地の神」


「ええ、また会いに来るわ、生命の神」




その後・・・・・



この世界の生命の神カムスが

マリスィに会ったことにより、

エンデ達、魔族と天使族の戦いは終わった。


だが、天使族は、やることが残っている。


天使族に手を出した人族を許せる筈がないのだ。


そこで、和解した天使族族長マリスィは、

エンデの許可を取り付け

チロルが帰ってきた手段を使い、人間界へと乗り込むことにした。


しかし、精神体では不可能なので、

それを可能にする為、先発隊として、

エンデが、ドワード王国に乗り込むことになったのは

言うまでもない。



天使族としてのケジメも終わり、

世界に平穏が訪れた。


もう、狙われることもなくなったエンデは、

サラーバを拠点とし、

今後も、仲間達とともに、この世界を知ることとなるが、

それは、また別のお話。



これにて、『天魔の子。人族として、転生しました』は

終幕となります。


最後まで、お付き合いくださった方々、

本当に、有難う御座います。


また、いつか、お会い出来たら光栄です。





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天魔の子。人族として、転生しました。 タロさ @semimushi

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