第242話 終戦後1
しんみりとした空気の中、
ルンが、ポツリと呟く。
「せっかく話し合いの場が持てると思ったのに・・・・・」
だが、こうなったら、話し合いも難しい。
そう思っていたところに、
街にいた魔族からの報告を受ける。
「す、すいません。
戦いは終わったと聞いていたのですが、
あの・・・て、天使が、現れました」
「「「!!!」」」
驚きの報告を受けるが
どちらにしろ、放置することなど出来る筈がない。
「それで、その天使は?」
「はい、街の食堂で、普通に食事をしています」
「えっ!?」
予想外の返答に驚きはしたが、
暴れていないだけマシだと思い、急いで向かうことにする。
アンジェリクの屍を一度収納し、
エンデ達は、その天使のところへと駆け出した。
そして、魔族の案内に従い到着した食堂では、
本当に、とても小柄な天使族の少女?が、大剣を壁に立てかけて、
笑みを浮かべながら、食事をしていたのだ。
「本当に、天使族だね・・・」
「ですが、これは、どういうことでしょうか?」
エンデに、ゴージア、皆が困惑していると
遅れて到着したルンが、その天使族の少女を見て
声を上げる。
「【チロル】でないか!」
「あっルン様だ!
久しぶりだね。
もう少しで食べ終わるから
少し、待っていてよ」
そう告げたチロルは、急いで食事を終えると
席を立つ。
そして、ルンに問いかけた。
「ねぇ、ルン様、こいつ悪魔族だよね・・・」
「?」
チロルは、立てかけていた大剣を手に取ると
口上を述べ始める。
「我が名は、チロル。
天使族であり、『強欲』の剣の主にして
最強のバルキリー。
我の剣は、天使族の為にあり
平和と安寧を
さぁ、覚悟の出来ている者から、かかってくるがよい!」
「・・・・・」
街の住人達とともに、口上を聞き終えたエンデが、口を開く。
「ルン、知り合いなら、何とかならない?」
「確かに、そうね・・・」
既に終わった戦いだけに、今更感が強いだけでなく
チロルが、小柄すぎるせいか、子供にしか見えない為
戦う気になれない。
そんな一同を前に、チロルが、力を誇示するかのように
強欲の剣を一振りすると
突風が起こる。
「ハハハハハ、どうだ
これが我が力だ。
貴様ら、覚悟しろよ」
自信満々で言い放つチロルだが、
被害は、近くの木材が、吹き飛んだだけ。
「・・・・・」
「おい・・・もっと、驚けよ・・・・・
ねぇ、何とか言ってよ・・・」
チロルが、そう呟いたとき、
民衆を掻き分けて、メイド長のヴァネッサが姿を見せた。
途端に、周囲の雰囲気が変わる。
そして、民衆からは、
『ヴァネッサ様だ・・・・・』
『あの子、終わったな・・・・・』
『バカッ!
声が大きい!
聞こえたら、どうするんだよ!』
『嬢ちゃん、早く謝れ!』
民衆達の様子は、明らかに緊張している。
それだけでなく、
背筋が伸びているように思えた。
そんな中、エンデの前に立ったヴァネッサが
問いかける。
「若様、今のは、どなたが、なされたのですか?」
「それは・・・」
視線で、犯人が誰なのかを知らせると
ヴァネッサは、ツカツカと進み、
チロルの前で足を止めた。
「今のは、あなたの仕業ですか?」
初めての反応に、嬉々として
チロルが、口を開く。
「確かに、我の力だ。」
「そうですか・・・・・」
ため息をついたヴァネッサに、
チロルは、空気が読めないのか
再度、口を開く。
「我の力を見たのなら、貴様にも・・・・・」
チロルが、言い終わるのを待たずに
ヴァネッサは、チロルを、片手で抱えるように
担ぎ上げた。
「おい、貴様、何を・・・」
問い質す言葉を無視したヴァネッサは、
有無を言わさず、民衆の前で
チロルのスカートをたくし上げると
力の限り、お尻を叩き始める。
『パァァァァァァン!!』
「痛ぁぁぁぁぁいいいい!!!」
『パァァァァァァン!!』
「痛ぁいいいいいい!!!」
『パァァァァァァン!!』
「痛ぁぁぁぁぁい!!!」
民衆の前で、パンツを丸出しにされ
何度も何度も叩かれる姿は、
どう見ても、バルキリーとは思えない。
半泣き状態のチロルに、
ヴァネッサが、問い質す。
「貴方は、人様に迷惑をかけたのに
ごめんなさいの一言も、言えないのですか!」
「ヒッ!
ごめんなさぁぁぁぁぁい!!!」
涙を流しながら、チロルが謝罪を口にすると
ヴァネッサの手は止まった。
「では、片付けましょうか」
「え?」
「貴方が、散らかしたのですから
片付けるのは、当然のことでしょう。
それとも・・・」
「ヒッ!」
チロルは、お尻を押さえながら
自分が吹き飛ばした
木材を片付け始めた。
その光景を見て、エンデが呟く。
「なぁ、ゴージア。
屋敷のメイド達が、しっかりしているのは・・・・・」
「はい、全て、ヴァネッサの教育の賜物です」
「だよね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます