第241話天使侵攻10

傷を負ったアンジェリクは、冒険者に担がれながら

王都への道を進んでいた。


魔力が残っていれば、自身の傷を、癒すことが出来るのだが

今は、それも出来ない程度しか、残っていない。


しばらく進み、川岸に着いたとき、

アンジェリクが、口を開く。


「少し、休憩をしよう」


アンジェリクのその言葉に、冒険者の3人は、

安堵の表情を浮かべ、川岸にあった大きな岩のところで

アンジェリクを下した。


「アンジェリク様、ついでなんですが

 食事を摂ってもいいですか?」


「気づかなくて済まない。


 そうしてくれ」


「有難う御座います」


ロッグ、ルーラン、ヨードの3人は、

食事の準備をすると言い、その場から離れると

アンジェリクは、残っていた魔力を使い

天界への交信を、試みる。


・・・・・マリスィ様・・・・・聞こえますか?


・・・・・アンジェリク・・・散々だったな・・・・・


・・・・・申し訳ございません・・・・・


・・・・・まぁいい・・・ある程度の事は、

遠見の力を持つ天使を集めて見ていたので、

理解しているつもりだが・・・・・何かあるのか?・・・・・


・・・・・はい・・・エンデヴァイスより、休戦の申し立てが・・・・・


『グフッ!!』


・・・・・おい、アンジェリク、どうした?・・・・・・


・・・・・アンジェリク!!!


必死に呼びかけていたマリスィの耳に、ある会話が聞こえてくる。


・・・・・まだだ、完全に、息の根を止めろ!

     動かなくなるまで、手を止めるな!・・・・・


残存する魔力のおかげか、交信中だったことが幸いしたのか

マリスィの耳には、今、アンジェリクが

どういう状況なのかが、手に取るように理解できた。


「人族が、裏切りおった・・・・・」


そう確信したマリスィの耳には、未だ、情報が届く。


・・・・・おい、これで良かったのか?・・・・・


・・・・・・ああ、これで、俺達は、自由になれるんだ。


そうだな、その為には、この天使の首を持ち帰って

陛下に見せねば・・・・・


「首を・・・・・絶対に許さん!」


怒りを露にするマリスィ。


本来なら、今すぐにでも、人族の世界に降りたいところだが

そうもいかない為、近くにいた遠見の力を持つ天使達の力を使い

現状を把握し、犯人の人相だけでも覚えようとする。


そして、その力で見た光景には、

3人の人族の殺され、

今、まさに、首を落とされかけているアンジェリクの姿があった。


「アンジェリクゥゥゥゥゥ!!!!!」


マリスィの叫びは届かない。


仲間の天使達も、悲痛な叫びをあげる中

人間界では、首を切り落とそうとした男が、吹き飛ばされる。


「えっ!!!」


思わず声を上げたマリスィの視線の先に映るのは、

褐色の肌に、赤い模様を持つ男の姿だった。


その男が、何を言っているのかは、わからないが

3人の人族を、あっさりと倒すと

屍となっていたアンジェリクを抱きかかえて

どこかに向かって、走り出した。


「お前達、奴を見失うな、必ず追いかけろ!」


マリスィの厳命に、天使達は、力を合わせて

褐色の肌の男の後を追うと、辿り着いた場所は、

戦闘を繰り広げたサラーバだった。


「何故、ここに・・・・・」


その疑問を、払拭するかのように

褐色の肌の男の前に、エンデが立つ。


だが、それだけではない。


エンデの横には、精霊女王ルンの姿もあった。


会話は聞こえないが、アンジェリクの屍が

エンデ達のもとに、届いたことがわかると

マリスィは、遠見をやめた。


──奴らが、助けようとしてくれたのか・・・・・

  ・・・・・そうか・・・・・


  今は、あの言葉を信じよう・・・・・

  彼らは、休戦を申し立てているのだから・・・・・

  アンジェリクを、無下に扱うことはないだろう・・・・・



 もうすぐ、アンジェリクの遺体は、ここに戻ってくる。


 そう信じて待つマリスィだが、人族に対しては

 恨みを抱いていた。


「この件が片付き次第、報いを受けてもらう」


そう宣言した後、マリスィは、自室へと戻って行った。



一方、人間界では、

アンジェリクの屍を持ち帰って来たダバンに対して

皆からの尋問が、始まっていた。


「突然いなくなったと思ったら、アンジェリクを持って帰ってくるなんて

 もしかして、殺したの?」


「勘弁してくれよ。


 これ以上戦っていたら、体が、持たないぜ」


「なら、どういうこと?

 ちゃんと説明しなさいよね」


「ああ、わかった」


ダバンが、面倒臭そうに説明を始めたが

その話の始まりは、

エンデとアンジェリクの戦いが終わった時からだった。


話合いの為、一時休戦となり、自身で、立つこともできないアンジェリクが

待機していた冒険者を呼び、肩を借りる姿を見たときに

ダバンは、何か嫌な感覚に襲われたらしい。


「嫌な感覚?」


「ああ。


 口では、言い表し難いが、なんかこう・・・

 具現化した悪意というか、殺意というか・・・・・

 もわっと、そんなものが、あいつ等から見えたんだ」


その報告に、一番驚いたのは、ルンだった。


「お主、そのような力を持っていたのか?」


「いや、嘆きの沼の主みたいな人に

 変な塊を、打ち込まれてからだよ」


「嘆きの沼の主だと・・・・・」


「そういえば、ルンには、話していなかったけど

 ダバンは、その主?から、力をもらって

 覚醒したんだよ」


「なんと、そのようなことが・・・」


「でもよ、受け入れるときは、本当に死ぬかと思ったぜ」


そう言い放ったダバンに、ルンが告げる。


「それは、当然の事。


 あんたは、人族から、魔族に変化したんだ。

 多少の痛みは伴うぞ」


「多少って・・・・・」


「まぁ、今はその話はよい。


 それよりも、先程の続きを、話すのだ」



「ああ、わかったよ」


──勝手な奴め・・・・・


そう思いながらも、ダバンは、続きを話し始めた。


「まぁ、それでだ。


 万が一、何かあったらと思って、追いかけたが

 遅かったよ・・・」



ダバンは、アンジェリクの屍に、目を向けた。




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