じじいの告白 

木谷日向子

じじいの告白 

○街角

   住宅街の曲がり角で、スマートフォンを耳に当てながら、制服姿で電話をしている真宮修太郎(17)。

真宮「いいか、絶対だぞ! 明日絶対放課後校門の前で待ってろ! わかったな!」

   スマートフォンの画面に「南綾、通話中」と表示されており、そのボタンを切る。

真宮「は〜!」

   大きく息を吐き出す。

真宮の心の声「明日ぜってぇ南に告る! あいつ、ブラック部活に入部してっから、なかなか予定合わせずらかったし……。待ってろ南!」

   スマートフォンを握りしめ、顔をきつく引き締めて歯を食いしばる。

   すると背後の角から、竹下権三郎(78)が腰を屈めながら登場する。

竹下「ふうふう。イトーヨーカドーに行こうとしとったのに、道を曲がり間違えてしまったわい。婆さんに去年先立たれてから、家事を一人でするのも大変じゃのう」

   よろよろと道を進み、真宮の背後まで迫る。すると足元に落ちていた石に躓く。

竹下「おわっ!!」

   前のめりに倒れ、真宮の背中に激突する。

真宮「うわっ!!」

   真宮、手からスマートフォンを落とし、前のめりに倒れる。

   色とりどりの色彩で点滅する。

   元の色彩に戻ると、真宮のうつ伏せに倒れた体に竹下がうつ伏せに被さっている。

真宮「うう……」

竹下「くっ……」

真宮「いてーな、クソジジイ! どこ見て歩いてやがる!!っ……て……え……?」

竹下「すまんすまん、今どくからの、よっこらせ……?」

   真宮と竹下、尻餅をつきながらお互いを見つめる。

   真宮、自分の顔に右手で触れる。額、眉、鼻、唇と、上から順になぞる。

真宮「嘘だろ、おい……」

   竹下、同様に上から順に左手で顔を触る。

竹下「すべすべ……」

真宮「俺がじじいで、じじいが俺でーー、俺たち」

竹下「入れ替わっとる!!」

真宮「入れ替わってる!!」

   真宮、発狂する。

真宮「えっ、えっ、ちょっ待……。明日の告白、どうすりゃいいんだよ!?」


○校門の前(夕)

   校門前に立つ南綾(17)。腕時計を見ている。

綾「も〜、真宮遅い! 約束の時間、十分も過ぎてんじゃん!」

真宮「待たせたのう。南」

   綾、振り返ると右手を上げた状態で真宮(魂は竹下)が立っている。

綾「も〜遅いぞ! 話って何?」

竹下「すまんのう……ちょっと雲を眺めておったら、遅くなってしまって……」

綾「はあ?」

   木陰からひょっこり顔を出す竹下(魂は真宮)

真宮の心の声「ふざっけんなよ、じじい……! 口調も普段の俺と全然ちげえし……! こんなんで、告白上手くいくのかよ!」

綾「……で? 話ってなによ」

   語尾が尻すぼみになる。

竹下「うぇっへ、ごっほん。南、わし達の仲も今年で6年めとなる。そこで提案があるのじゃが、お主、わしの妻とならんか?」

   綾、一白置いて赤面する。

綾「ええっ!!??」

真宮の心の声「じじい〜〜〜!!」

綾「あ、あんたなっ……な……、何言ってんの!?」

竹下「ずっとお主のことを好いとった。もう友情で結ばれた関係なんぞ嫌じゃ。お主を娶りたい。わしの妻になってくれ」

   綾、赤面する。

真宮の心の声「じじい!! 先走んな!! 関係早めてんじゃねえよ!! あ〜、こんなのぜってえ終わった。終わったぜ……。真っ白にな……。俺の6年間の片想い」

綾「い、いいよ」

   綾、顔を俯けながら答える。

真宮「へっ!?」

綾「いいよ、なってあげる。でも大学卒業までは待ってほしいな。だめ?」

   上目遣いで竹下を見上げる。

竹下「綾、ありがとよ。一生大事にしちゃる!!」

   竹下、綾を抱きしめ、キスをする。

真宮「はっ!? 待……え!? 早ぇよ、展開が!! 綾OKで……、俺と……、いや、じじいとキ……待て!!」


(終わり)

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じじいの告白  木谷日向子 @komobota705

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