第11話 星雲の宿
「えーっと、現在地はっと・・・」
私は家から勝手に持ってきた地図を眺めながら現在地を確認する。
おそらく父さんの物だろう、後で気づかれて怒られるかもしれない。
地図の読み方など詳しくは知らないが、読み方があっているとすればおそらくここはシャウランに入った辺り、その国境くらいだろう。
私が今背を預けている木が書かれているのがその証拠だ。
「あと数日ってとこかな・・?」
私は地図を懐にしまうと、立ち上がって目的地を目指すために歩みを進める。
今は少しでも先に進むのが先決だろう。
「おっとと、忘れるところだった・・」
私は目の前の火にかけている魔物の肉を口に運ぶ。
足で火を消しながら食べるのは少々行儀が悪いとは自分でも思うが、今は自分以外に誰もいないのだ、気にすることもないだろう。
「やっぱ臭みの方が強いな・・・母さんに作り方を聞いとけばよかった」
オークの肉は脂身が多く若者向けなのだが、いかんせん臭みが目立つ。
家で出てきたときはその臭みも気にはならなかったのだが、自分で調理してみて初めて気づくこともたくさんある。
だがその失敗すらも自分が旅に出た実感が出て少しだけ嬉しくなった。
「これも経験だな・・・」
私はオークの肉を無理やり口に放り込むと、歩みを再開した。
◇
「おぉー!ここがシャウラン!さすがにでかい街だっ!」
ここ数日ですっかり定着した独り言をこぼしながら、私は町全体を囲んでいる城壁を見て感嘆の息を漏らす。
私が住んでいた町にも城壁はあったがこれほど立派なものじゃなかった。
尤も、アマリウス王国の王都であるここシャウランとうちの町では比べるのも馬鹿らしいが・・
「さて、と。入り口は・・確かめなくても分かるか」
目の前に並んでいる人の数を最後尾から数えて三十を超えたあたりでばからしくなってやめた。
馬車から背に武器を背負っている人間から様々だ。
大人しく最後尾に並んで列が前に進むのを待つことにした。
しばらく列の流れに身を任せていると、私の前のおそらく商人と思われる人が話しかけてくる。
「よぉ兄ちゃん、お前さん王都は初めてか?」
「えぇ、つい先日成人したので旅へ出て世界をこの目で見てみたいと思いまして」
「へぇー若いのに立派なことだ」
「ははは」
私はなるべく友好的になるようにスイッチを切り替えながらそう答える。
【百面相】はこういう時に便利で助かる。私は話しかけてきたことをこれ幸いとして色々聞いてみることにした。
「王都は初めてなんですが、おすすめの宿とかってありますか?あまり高くないと嬉しいんですけど・・」
「おぉ!それなら星雲の宿に行くといい!飯も美味くて宿も安いから俺も若い頃はよく世話になったもんだ。今でこそもっと高い宿を利用するようになったがね!あっはっはっは」
「あはは、なるほど参考にします」
なぜか自慢されたが、聞きたい情報はとりあえず聞けた。
他にも聞きたいことはたくさんあるが、ちょうど商人の番が来たようだった。
私は礼を言って別れ、次に来る順番を大人しく待った。
◇
「おぉー!!さすがに賑わってるなぁ!」
前世では見ることがなかった街並み、人であふれかえる露店や大通り。
どれもが新鮮でついおのぼりさんのようになってしまう。
周りを見れば何人か微笑ましい顔でこちらを見ている人が目に入り恥ずかしくなった。
私は急いで顔を伏せると、その場を逃げるように去ることにした。
「ここが星雲の宿」
私は現在商人に教えてもらった宿にやってきた。
冒険者登録だとかいろいろやりたいことはあるが、とりあえず今日の宿を確保しておこうと思ったのだ。
両開きの扉を開いて中に入ると、一階が食堂で脇に階段があって宿へとつながっているようだった。
食堂では数人が食事をとっているのが分かるのだが、そのどこのテーブルからもいいにおいが漂っており、私の腹がなった。
「そういえば今日は何も食べてなかったな・・」
「いらっしゃい!食事かい?」
「いっ、いえ!あぁでも‥はい、とりあえず食事をいただけますか?」
「あいよ!すぐに用意するから空いてる席に腰かけて待ってな!」
そう言って女将だろうか?は奥の厨房に消えていった。
快活な態度でいきなり話しかけられたため、どもってしまったことを後悔しながら、言われた通りに空いている席に腰を下ろした。
すると本当にすぐにお盆に料理を乗せて戻ってくる女将に、私は話しかける。
「あいよ、ボアのシチューに白パンで銅貨三枚ね!」
「あの、まだ宿って空いてますか?ここがおすすめって聞いたんで泊まりたいんですけど」
私は銅貨を払いながら問いかけた。
「あぁ宿泊かい?運がいいねぇ、後一部屋だけ空きがあるよ。一泊夜飯がついて銀貨一枚だけど大丈夫かい?」
「よかった!はい、とりあえず三日お願いします!」
「あいよ、確かに銀貨三枚ね!朝食が欲しい時は簡単なものでいいなら別料金で出してるから朝下りてきたときに声をかけておくれ。はいこれ223号室があんたの部屋だよ、戸締りには気をつけな。泥棒に入られても自己責任で頼むよ」
「ありがとうございます」
魔石を売った金や親から旅立ちの時にもらった金もあるため、そこまで痛くない出費を払い終わり、遂に料理と対面する。
湯気を出すシチューからは何ともいい香りが漂ってきており、思わずよだれがたれそうになる。
まずはシチューから、木のスプーンですくって口に運ぶ。
ボアの肉は嚙んだ瞬間にほろほろと崩れて旨味が出てくる。一緒に入っている野菜なんかはもう歯がいらないくらいだ。
私は横に置いてあるフワフワのパンを手に取り、それをちぎってシチューに浸して食べる。
小麦の味とシチューの甘みが合わさり、何より久しぶりの柔らかいパンに感動しながらバクバクと食べ進め、気づけばあっという間に無くなっていた。
若干の物足りなさを感じるも、この後にまだ用事が控えていることを思い出し、席を立とうとする。
すると、私の後ろでさっきの女将となにやら若い女が言い争っているのが聞こえた。
「えぇー!!!もう部屋埋まっちゃったの!?やっと王都に帰ってこれたから楽しみにしてたのに!」
「ごめんねぇ、もう少し早ければ空いてたんだけどねぇ」
「はぁしょうがないか・・わかった、また来るねミラ母さん」
「あぁいつでもおいで、食事は取ってかないのかい?」
「うん、今日はまだこれから行くとこがあるから!じゃあね!」
「あらあら、全くせっかちな子だねぇ」
馴れ馴れしい女だなと思いつつ、先に私がギルドに行っていればあぁなっていたのは私かもしれないと思うと少しだけ同情した。
尤も、宿が取れてよかったという感情の方が大きいのだが。
腰に剣を帯剣していたし、皮の鎧も装備していたので冒険者なのだろうか。
歳も私より少し上くらいの雰囲気だったし、今後も会うこともあるかもしれない。
こちらに来てからまだ友達はいないため、友達にでもなれたらいいな、なんて考えながら鍵を開けて自室に入る。
中は意外と広く、備え付けの机に椅子、クローゼットとベッド以外は何もなく、少々殺風景に感じた。
「でも友達作るのは少しトラウマなんだよねぇー」
ベッドに倒れこみながら悩みを吐き出す。
前世の経験からか、友達を作るのに若干の苦手意識があった。
それもあって住んでいた町では友達を一人も作ろうとはしなかった。
まぁ一番の違いは価値観のずれだったんだけど・・
せっかく旅に出たので友達の一人や二人は欲しい。
腹を割って話せて心の底から笑える友人が。
流石に転生者のことや前世のことまで話す気はないが・・
親元を離れて独り言が多くなると、一気に誰かと話したい欲が膨らんでくる。
そういう意味ではさっきの子のような歳の近い同性が友達になってくれたらなぁ・・・・・・・・・・・って。
「今の私男じゃん!!!!」
すっかり自分の性別を失念していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
後書き
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これからは不定期にはなりますが続きを書かせていただきたいと思いますので、これからもお付き合いくださると幸いです。
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