第10話新たなる門出

「・・ウン、ラウン・・クラウン!」




「んんー・・」




私は自分を呼ぶ声に意識を覚醒させていく。


目を開けると母が私を揺さぶりながら困ったような顔をしていた。




「やっと起きたわ、早くご飯食べちゃいなさい!」




「あぁー、今行くよ・・」




眠気眼をこすりながら体を起こしてそう返事をした。


母は私が起きたのを確認すると部屋を出ていく。




「うーん、今日もいい天気だ・・」




窓から空を仰ぎ見れば照り付ける光に目に鋭い痛みが走るのを感じた。


その痛みを堪えながら、私は服を着替える。




「・・・・」




ふと意識を部屋に向けると、子供のころから使っていた机やベッドが目に入る。


その他の着替えや日用品は、既に魔法鞄マジックバッグの中に詰めてある。


いつもよりもがらんとした部屋を一度流し見た後、振り返らずに部屋を出た。







「おぉ、おはようクラウン!早く食え!」




「父さん、帰ってたんだ」




「ついさっきな!それよりお前、昨日も森に入ってたんだって?もう一端の冒険者だな!」




父と小言を交わしながら席に着く。


目の前にはスープと白パン、更に鹿肉のステーキまであり、普段よりも豪華な食事だった。


私は手を合わせてスープを口に運びながら、父との会話に戻る。




「そうは言っても森にいるのは大半がEランクの魔物だよ?もう少し強い魔物と戦いたいもんだね」




「おうおう、言うようになったなー!・・よし、それ食べたら庭に出て来いよ!先に言って待ってるからな!」




そう言って父は私の了承も得ずに食堂を後にした。




「・・・?」




私は首をかしげながら、母の手料理を大事に噛みしめた。







私が食べ終わると、母が厨房の中から顔を出す。


先に食べ終わったのか、母の分は机の上には並んではいなかった。




「・・ごちそうさま、美味しかったよ」




「はいはい、お粗末様」




形式的な挨拶だけ済ませる。


母はそれ以上何も言ってこず、いつもと同じような時間が流れる。


その時間に耐えきれず、私は母に話を振った。




「父さんが食べ終わったら庭に来いって言ってたんだけど、何なんだろう」




「ふふっ、もう何年もあなたと稽古なんてしていないから楽しみなんじゃないかしら!あなたがどれだけ成長したか」




「それって、稽古つけてくれるってことなのかな?」




「そうじゃない?行ってみればわかるわ」




「それは楽しみだ、じゃあ行ってくるよ!」




「・・えぇ、行ってらっしゃい」




母は穏やかな顔で私を見送った。







「おっ、遅かったじゃないか!待ちくたびれたぞ」




私が庭に顔を出すと、父は剣の素振りをしていた。




「稽古をつけてくれるってことでいいの?」




私の言葉に父が呆れたように返す。




「それ以外何があるっていうんだ・・今日でしばらく顔を見ることもできないだろうからな、本気でこい」




父がそう言って剣を構える。


その気迫に押されて思わず息を飲む。




だがここで気後れしたらせっかくの父との稽古の意味がない。


私は息を一つ吐くと気合を入れ直し、正面に剣を構えた。




「・・・行くよ」




「あぁ・・来い!」




その声に背を押され、私は足を踏み出した。




その鋭さに、父がわずかに目を見開く。


父の顔を変えられたことに頬が吊り上がるのを堪えながら、踏み込みの勢いそのままに剣を振るう。




「おぉ!大したもんだ!」




「軽々しく流しておきながらよく言う、よ!」




私の振り下ろしは、父が剣を斜めに構えることで受け流される。


だが、それは予想できていたので、対して驚くこともせず返す刀で切り付けるが、それも同様に防がれる。


深追いはせずに一度飛びのき、また向かい合う。




父は私に向かって静かに笑う。




「・・本当に成長したな。大きくなった」




感傷に浸っている父の目は、私を優しく包んでいた。


それがなんだかこそばくなって、なんて返したらいいのかわからなかった。




「はは、今する話ではなかったか・・・仕切り直そう」




そうしてしばらく、父との稽古を楽しんだ。




これは余談なのだが、一本も取ることはできなかったとだけ言っておく。


全く、この父親は何者なんだ?







「もう行くの・・?もう少しゆっくりしていってもいいじゃない」




「いや、今日のうちにシャウランの町までは行っておきたいんだ」




「頑張れよ・・いつでも帰ってこい」




「うん、一年に一度は帰ってくるつもりだよ」




「もっと帰ってきてもいいのよ?一週間に一度くらいは・・・」




「マリー・・それじゃ旅行だ・・」




「だって!だって・・寂しいじゃない」




そう言って母が私を抱きしめる。


それを素直に受け止め、私も腕を回した。


すると二人を抱きしめるように父がさらに抱き着いてきた。




「恥ずかしいから離れてよ・・・」




「何を言ってるの、十歳くらいまでは毎日やってたじゃない!」




「はは、しばらく会えないんだ・・我慢しろ!この野郎」




そう言って父に頭を撫でつけられた。


そう言われてしまえば、我慢するしかないだろう。




しばらくそのまま抱擁を受け止め、いい加減文句でもいおうかと思ったところでやっと解放される。


きっと鏡で今の自分を見れば、顔を赤らめていたことだろう。




「・・・じゃあ、行ってくるよ」




「・・・・あぁ」




「病気には気を付けるのよ?苦しくなったらいつでも帰ってくること!それと、手紙は月に一度は必ず出すこと。それに寄ってくる女の子には十分気をつけなさい!クラウンはかっこいいんだから変な女の子に騙されちゃダメよ?どうしようもない女の子なんて連れて帰ってきたら母さん許さないんだから!」




「あはは、気を付けるよ。じゃあ・・今度こそ、行くよ」




「クラウン!言いたいことはほとんど母さんが言ってしまったから、一つだけ」




「何・・?」




「お前は強くなったとはいえ、まだ俺より弱いんだ。また稽古をつけてやる・・だから、それまで死ぬんじゃねーぞ!」




「・・・・・うん、次は・・勝つよ!」




「まだまだ負けてやる気はないぞ!達者でな」




「じゃあ、行ってきます!」




「うぅーやっぱり寂しいわー、クラウンちゃん!」




遂に母が泣き始めてしまった、これは止められる前に出立しなければ。




「じゃ、じゃあね!」




「クラウンちゃーん!行かないでぇ!」




半ば逃げるようにその場を離れようとすれば、母が手を伸ばして止めようとしてくる。


まるで昼ドラでも見ているのかと思うほどだ、とは言えどうしようかと困っていると父が助け船を出してくれた。




「母さんのことは気にしなくていい、俺が止めておくから今のうちに!」




「うん、じゃあ今度こそ本当に行ってくる!また帰ってくるから!」




そう言って今度は本当に家の門を出た。


振り返れば母の泣き声が聞こえてきて、私まで目頭が熱くなってくる。


柄じゃないとすぐに我慢して切り替えた。


こんなにも思ってくれる人がいるのだ、出来るだけ早く帰ってこよう。そう心に誓った。




空は快晴、絶好の旅立ち日和だ。


私はこれから世界を自由に見て回る。ある程度の自衛ができるだけの実力も身に着けた。


万が一の時は一応必殺技もあるし、それでだめなら逃げるのみだ。


使命に縛られていないのだから、容易にそういった選択も取れる。




「まずはシャウラン、そこで冒険者登録だ!」




住み慣れた家を飛び出して、私は若干の遅れを取り戻すために小走りで街道を走る。


気持ちは浮ついている、それも当然だ。やっと世界を見て回ることができるのだから。




私はまだ見ぬ出会いに思いをはせて、地面を蹴りだした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

後書き


これでストック全部出し切りました。お付き合いくださった方、ありがとうございます。




ここからは書こうかどうか迷ってまして・・まだ決め切れていません。


正直言ってありきたりな異世界ものですしね・・笑


この後書きを書いているのもお昼ですし、皆様からどのような反応があるのかも分かっていません。


もし続きが気になる、書いてくれって人が少しでもいてくれましたら書こうかなって思っております。


ですので感想をお待ちしています。




また、それとは関係なくブックマークや☆での評価もどしどしお待ちしています!!


承認欲求が満たされて気持ちよくなりますので!!笑


ですので、この小説が気に入っていただけましたらその二つで評価してくだされば作者は飛んで喜びます。ご検討ください!




あまり長くなっても困るので、今日はこの辺で・・・


最後までお付き合いしてくれた方に改めて感謝を。ありがとうございました!

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