第55話
翌日、葵はかすみのアルバイト先を尋ねた。平日ということで、ライブハウスの営業は夜から。スタジオとしての使用予定もないため、ゆったりとした時間が流れていた。
清掃、飲み物、消耗品の発注。夜使用するアーティストの過去のライブ映像と楽曲を確認して、あらかじめ用意していた照明の設定を調整していた。恐る恐るという感じで厚い扉が開かれる。光を押さえた会場にうっすらと明かりが入る。店長が対応し、私の名前を呼んだ。
「かすみちゃん、警察の人」
「はい」
その刑事さんは、YUKAちゃんの事件について聞きたいとのことだった。
「ファンで、もうすぐ結婚する予定くらいしか知りませんけど」
「そうですか。ありがとうございます。あ、ちなみにかすみさん自体で最近不審なことはありませんでしたか」
「私ですか? ちょっと前に空き巣に遭いましたがそれ以降は」
「そうですか。ご協力ありがとうございます」
帰ろうとする刑事さんに問いかける。
「YUKAちゃん、ただの交通事故じゃないですか?」
ああ、と振り返る。
「ひき逃げ事件でまだ犯人は捕まっていません。普段は車の通らない道なので、ゆうかさんを狙った犯行の可能性があるため、念のために捜査しているところです」
「そうですか」
「これは内密にお願いします」
その表情に既視感があった。
「もちろん。ところで、どちらかで会ったことありませんでしたか?」
「いいえ」
刑事さんはさらさらのショートカットを揺らしながらお店を出ていった。
「店長、お昼行ってきます」と階段を駆けあがったが、彼女の姿はなかった。
(私のところに来たってことは、姫夏のところにも行っているかもしれない。今夜会ったときに聞いてみよう。)
しかし、その日、姫夏は練習に顔を出さなかった。
推しのアイドルが死んだ日。 優たろう @yuu0303
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